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第三章 悪魔になんかならないで!
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「本当なら、下級天使が口をきくことなんてできないえらーい人なんだけど……私がへまをした時はいつも助けていただいているの。またお手を煩わせてしまったんですね。申し訳ありません」
なにか萌ちゃんは落ち込んでしまった。
でも目の前の男の人はにこにこしてて、とっても優しい目で萌ちゃんを見ている。
わ。その目が青い。
「気にしないでと言っているだろう? 君の手伝いをするのは、僕にとってもとても嬉しいことなんだ。それに、前回の報告にあったことが事実なら、僕の方が適任だと思って」
萌ちゃんに語りかけるその笑顔から目が離せなくなる。
こんなきれいな男の人、見たことない。天使というより、むしろイメージとしては神様みたいだ。……スーツ以外は。
「で、君の力が効かない子って、その子かな」
「あ、はい。美優……相葉美優さんです」
その言葉で思い出した私は、とっさに萌ちゃんのうしろに隠れる。
だって、私の記憶を消しにきたんでしょ。この人。優しそうな顔をしているけれど……実は、とても怖い人だったりするのかな。
そんな私に、萌ちゃんは優しく手をそえてくれた。
「大丈夫。全然痛くなんてないし、大天使様の力なら絶対失敗はないわ。安心して」
「そ……そんなことじゃない。だって私、萌ちゃんのこと、忘れたくないよ。大好きな友達なんだもん!」
泣きそうになるのをがまんして言うと、萌ちゃんは嬉しそうな顔になった。
「私のことを全部忘れちゃうわけじゃないから、私たち、ずっと友達でいられるわ。……友達でいてくれてありがとう。短い間だったけど、とても楽しかった」
「短い間……?」
「私、今日で転校したことになるの。仕事が終わったから、天界に帰るのよ」
「ええ?!」
「美優」
驚く私を、ぎゅ、と萌ちゃんが抱きしめた。
「私も、大好き。もう会えないけど、私の事、忘れないでね。あと……黙って転校したことになっちゃうんだけど、できれば怒らないでね」
「そんな、萌ちゃん……」
怒らないでも何も、私、今の会話覚えていられるの??
混乱する私から萌ちゃんが離れると、今度は天使さんが近づいてきた。とっさにあとずさると、その人は、その場で足をとめる。背の高いその人を見上げようとすると、逆にその人が腰を曲げて私に視線を合わせてくれた。
私から記憶を消そうとする悪い人のはずなのに、その表情とか目とかは、とても優しそうだ。
その人は、じ、と私を見たまま、しばらく動かなかった。
「あの……」
あんまりに沈黙が続くから、つい、私から声をかけてしまった。その声で我に返ったように、天使さんはにこりと笑った。
「初めまして。僕は、藤崎といいます。君は……」
不自然に言葉を切って、その人はまた、じ、と私を見つめてくる。
「今、いくつ?」
「……十歳です」
「そうか。十歳か」
まだ黙り込んでしまった。
記憶を消すのに、年齢って関係あるのかな。お薬みたいに、十歳以下禁止とか。だったら、もうちょっと若く言っておいた方がよかったかも。
藤崎さんは、何か考え込んでいるようだった。もしかして、このままやめてくれるのかも。
「大天使様?」
不思議そうな声で萌ちゃんが声をかけると、藤崎さんはため息をついて体を起こした。
「いや、なんでもない。君が、僕の知っている人に良く似ていたものだから……」
「はあ」
そういうと藤崎さんは気を取り直したように、すい、と片手を伸ばした。逃げる暇もなく、その手の平が私の額にあたる。振り払おうとしたけれど……体が、動かない。
「榊君と仲良くしてくれてありがとう。僕も彼女も、君の幸せを祈っているよ」
「あ……」
自分でやろうと思わないのに、自然に目が閉じていく。あわてて目を開けようとするけれど、体が言うことを聞いてくれない。そのまま、眠たくもないのに眠りに落ちていく。
「(美優ちゃん、元気でね……)」
最後に萌ちゃんの声が聞こえて、どうやらそのまま私は眠ってしまったらしい。
(萌ちゃん、行かないで……)
だから、結局その言葉は、声に出せずに終わってしまった。
なにか萌ちゃんは落ち込んでしまった。
でも目の前の男の人はにこにこしてて、とっても優しい目で萌ちゃんを見ている。
わ。その目が青い。
「気にしないでと言っているだろう? 君の手伝いをするのは、僕にとってもとても嬉しいことなんだ。それに、前回の報告にあったことが事実なら、僕の方が適任だと思って」
萌ちゃんに語りかけるその笑顔から目が離せなくなる。
こんなきれいな男の人、見たことない。天使というより、むしろイメージとしては神様みたいだ。……スーツ以外は。
「で、君の力が効かない子って、その子かな」
「あ、はい。美優……相葉美優さんです」
その言葉で思い出した私は、とっさに萌ちゃんのうしろに隠れる。
だって、私の記憶を消しにきたんでしょ。この人。優しそうな顔をしているけれど……実は、とても怖い人だったりするのかな。
そんな私に、萌ちゃんは優しく手をそえてくれた。
「大丈夫。全然痛くなんてないし、大天使様の力なら絶対失敗はないわ。安心して」
「そ……そんなことじゃない。だって私、萌ちゃんのこと、忘れたくないよ。大好きな友達なんだもん!」
泣きそうになるのをがまんして言うと、萌ちゃんは嬉しそうな顔になった。
「私のことを全部忘れちゃうわけじゃないから、私たち、ずっと友達でいられるわ。……友達でいてくれてありがとう。短い間だったけど、とても楽しかった」
「短い間……?」
「私、今日で転校したことになるの。仕事が終わったから、天界に帰るのよ」
「ええ?!」
「美優」
驚く私を、ぎゅ、と萌ちゃんが抱きしめた。
「私も、大好き。もう会えないけど、私の事、忘れないでね。あと……黙って転校したことになっちゃうんだけど、できれば怒らないでね」
「そんな、萌ちゃん……」
怒らないでも何も、私、今の会話覚えていられるの??
混乱する私から萌ちゃんが離れると、今度は天使さんが近づいてきた。とっさにあとずさると、その人は、その場で足をとめる。背の高いその人を見上げようとすると、逆にその人が腰を曲げて私に視線を合わせてくれた。
私から記憶を消そうとする悪い人のはずなのに、その表情とか目とかは、とても優しそうだ。
その人は、じ、と私を見たまま、しばらく動かなかった。
「あの……」
あんまりに沈黙が続くから、つい、私から声をかけてしまった。その声で我に返ったように、天使さんはにこりと笑った。
「初めまして。僕は、藤崎といいます。君は……」
不自然に言葉を切って、その人はまた、じ、と私を見つめてくる。
「今、いくつ?」
「……十歳です」
「そうか。十歳か」
まだ黙り込んでしまった。
記憶を消すのに、年齢って関係あるのかな。お薬みたいに、十歳以下禁止とか。だったら、もうちょっと若く言っておいた方がよかったかも。
藤崎さんは、何か考え込んでいるようだった。もしかして、このままやめてくれるのかも。
「大天使様?」
不思議そうな声で萌ちゃんが声をかけると、藤崎さんはため息をついて体を起こした。
「いや、なんでもない。君が、僕の知っている人に良く似ていたものだから……」
「はあ」
そういうと藤崎さんは気を取り直したように、すい、と片手を伸ばした。逃げる暇もなく、その手の平が私の額にあたる。振り払おうとしたけれど……体が、動かない。
「榊君と仲良くしてくれてありがとう。僕も彼女も、君の幸せを祈っているよ」
「あ……」
自分でやろうと思わないのに、自然に目が閉じていく。あわてて目を開けようとするけれど、体が言うことを聞いてくれない。そのまま、眠たくもないのに眠りに落ちていく。
「(美優ちゃん、元気でね……)」
最後に萌ちゃんの声が聞こえて、どうやらそのまま私は眠ってしまったらしい。
(萌ちゃん、行かないで……)
だから、結局その言葉は、声に出せずに終わってしまった。
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