はんぶんこ天使

いずみ

文字の大きさ
36 / 67
第五章 聞いてない!って言いたいのに

- 1 -

しおりを挟む
 次の日。
 読書感想文も無事提出して一日が終わり、帰ろうとした時だった。

「あ、いたいた」
 私がランドセルを背負ったところで、教室の入り口から瑠奈ちゃんがひょっこりと顔を出した。
「美優ちゃん、ちょっといい?」
「どうしたの、瑠奈ちゃん」
 瑠奈ちゃんは、私と同じ園芸委員の副委員長だ。ああ、そういえば、明日使う委員会資料の確認しようと思ってて、萌ちゃんのさわぎですっかり忘れてた。

「これ、お願いできないかな」
 瑠奈ちゃんは、手に持っていた紙の束を、ずい、と私に向かって差し出した。受け取って読んでみると、それは明日の委員会の資料だった。
「私の分?」
 あれ? それにしては、なんか多いな。

「お願い、各班長に配っておいて」
 拝むような手をして、瑠奈ちゃんは私を上目遣いに見上げる。
「配ってって……まだこれ、渡してなかったの?!」
 私はおどろいて瑠奈ちゃんの顔を見返した。

 このプリントは、事前にそれぞれの班長に渡して、各班の意見を用意しておいてもらうために必要だったはずだ。
『それくらいなら私一人で大丈夫だよ! 班長さーん、私が持っていきますね』
 私たち副委員長に任せられた仕事だったけど、先週の委員会の時に瑠奈ちゃんがそう言っていたのでお願いしたんだ。
 なのに、なんでこれがまだここにあるの?!

 あっけにとられる私に、瑠奈ちゃんはえへへと笑った。
「ちょっと忙しくてさあ……思ったより時間かかっちゃって。ようやくできたんだけど、私、今日バレエのレッスンがあってすぐ帰んなきゃいけないのよ」
「ええっ! だって、もうみんな帰っちゃったかも……」
「いる人だけでいいから。ね、お願い! じゃ、よろしく」
「あ、ちょっと、瑠奈ちゃん!」
 笑顔のまま瑠奈ちゃんは私に手を振って、すごい速さで行ってしまった。残された私は呆然として立ちすくむ。

「美優? なにそれ」
 教室から出てきた莉子ちゃんが、私の持っていたプリントに目をおとす。
「莉子ちゃん、私、これ配ってから帰る」
 これ、今日中に渡しちゃわなきゃいけないプリントだもん。

「園芸委員会の? 手伝おうか?」
「ううん、説明しながらの方がいいから、私が直接渡すわ。先帰ってて」
 そう言うと、私はあわててろうかを走り出した。
 
 本当は先週、あまり話したことがない班長さんもいるから、それぞれに渡しに行くの、嫌だなって思ったんだ。だから瑠奈ちゃんがやってくれるって聞いてほっとしてた。
 だからって仕事を丸投げしちゃった私も悪いけど……
 ちょっと泣きそうになった。

 ☆

 渡されたプリントは、全部で四部。ええと、まずは……これ一組じゃない! 瑠奈ちゃん、同じクラスなら渡しといてくれたらよかったのに!
 急いで一組に向かう。
 牧田さん……顔は知っているけど、話したことないや。声かけるのやだな。でも、明日の事だし……
 私は、一度自分に、ふんっ! と気合を入れた。
 よしっ!

「あの、牧田さん、いますか?」
 幸い教室にはまだ数名の生徒が残っていて、目当ての人物もいてくれた。
「相葉さん、私? どうしたの?」
「これ、急で悪いんだけど」
 牧田さんは、私から受け取った資料に目を落としてうなずいた。

「ああ、先週言ってたやつね」
「うん。それで、この部分、三番の来年度への要望項目のとこ、明日発表できるようにしておいてほしいの」
「はあ?! 明日?! 連絡こないから、もっと後かと思っていたのに」
 案の定、牧田さんは不機嫌な顔になった。と、同時に、肩の向こうから黒いもやが伸びてくる。

 それを見て、思わず肩をすくめてしまう。そうだよね。いきなり明日までとか言われたら、む、とするよね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ボクはスライム

バナナ男さん
絵本
こんな感じだったら楽しいなと書いてみたので載せてみましたઽ( ´ω`)ઽ 凄く簡単に読める仕様でサクッと読めますのでよかったら暇つぶしに読んでみて下さいませ〜・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃

異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞 読者賞受賞作品】 「君は25歳の誕生日に異世界へ飛ばされる――準備、しておけよ」 そんなリアルすぎる夢を見たのは、中学3年・15歳の誕生日。 しかも、転移先は「魔法もあるけど生活水準は中世並み」、しかも「チート能力一切なし」!? 死ぬ気で学べ。鍛えろ。生き抜け。 目指すのは、剣道×農業×経営×工学を修めた“自己完結型万能人間”! 剣道部に転部、進学先は国立農業高校。大学では、園芸、畜産・農業経営・バイオエネルギーまで学び、最終的には油が採れるジャガイモを発見して学内ベンチャーの社長に―― そう、全部は「異世界で生きるため」! そしてついに25歳の誕生日。目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 武器は竹刀、知識はリアル、金は……時計を売った。 ここから始まるのは、“計画された異世界成り上がり”! 「魔法がなくても、俺には農業と剣がある――」 未来を知る少年が、10年かけて“最強の一般人”になり、異世界を生き抜く! ※「準備型転移」×「ノンチートリアル系」×「農業×剣術×起業」異色の成長譚!

トゲトゲ(α版)

山碕田鶴
絵本
トゲトゲ したものを挙げてみました。  ※絵本レイアウトにした改稿版が「絵本ひろば」にあります。

カメをひろう

山碕田鶴
絵本
カメを拾いました。カメと生活してみました。

ゼロになるレイナ

崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

処理中です...