50 / 67
第六章 大きくなりすぎた心の闇は
- 3 -
しおりを挟む
うまくいかない時もあるけど、嬉しいこと、楽しいことを一緒に喜べれば、あれを小さくすることはできる。反対に、ただのお世辞を言っていい気にさせても、うまくはいかなかった。私が心から楽しいと思って口にしたことしか、あのもやは晴れてくれない。人の心に寄り添うって、難しいんだなあ。
莉子ちゃんの黒いもやも、早く小さくなればいいのに。
私は、バケツを片付けると、莉子ちゃんを探しに教室を出た。
☆
トイレに行ってくる、と言ってたけどそこに莉子ちゃんはいなかった。あちこち探したら、ベランダの端の方でうつむいている莉子ちゃんを見つけた。
やっぱりその背中には、黒いもやがゆらゆらと揺れている。大きさは、さっきと変わってない。
私はその後ろから、そ、と近づく。
「莉子ちゃん」
黙って振り向いた莉子ちゃんは、怒っているというより、なんだか途方に暮れているような顔をしていた。
「もう五時間目始まるよ? 教室に戻ろう」
「やだ。私なんて、いない方がいいんだよ」
そう言って、また中庭に目を向けてしまう。
「そんなことないよ。ね、一緒に、戻ろう」
隣りに座って、きゅ、とその手を握ると、莉子ちゃんは向こうを向いたまま呟いた。
「あんな言い方したら、菜月が怒るのは当然だよね」
「莉子ちゃん、わかっていたの?」
「うん……」
菜月ちゃんは、うなだれたように地面を見た。
「私ね、最近、自分の気持ちがコントロールできないの。まるで、自分が自分じゃないみたい」
その言葉に、どきりとした。
もしかして、莉子ちゃんはもう乗っ取られかけているの……?
莉子ちゃんは、小さい声で続けた。
「あんなこと言ったら、みんなに迷惑をかけるのも嫌な思いさせるのも、途中で気づいたの。なのに止められなかった。家でも、そうなの。毎日毎日、ママとけんかばかり……きっとこんなんじゃ、皆に嫌われちゃうね」
「じゃあ、謝ろうよ」
「美優……」
莉子ちゃんは、ゆっくりと振り向く。泣きそうな莉子ちゃんの目を、まっすぐに見つめた。
「悪いと思ったら、謝ろう。それで、また一緒に遊んだりお掃除したりしよう。今度はけんかしないで。一人で謝るのが嫌なら、私も一緒に謝るから」
「美優が謝る必要ないじゃん」
「そうだけど……でも、ほら、いつも一緒だよ、って、私言ったもん。私が莉子ちゃんの青い羽根になるって、前に約束したでしょ? 私はずっと、莉子ちゃんの味方だよ」
しばらく私の顔をまじまじと見ていた莉子ちゃんは、少しだけ笑った。
「美優なんて、ドジだしのんきだし……味方にしてはずいぶん頼りないよね」
う。
「そ、それはそうだけど、でも、誰もいないよりは少しはましかなあって……」
とほほ。やっぱり、人を嬉しくさせることって難しいなあ。
がっくりとしょげかけた時、莉子ちゃんの背中にあった黒いもやが急に一回り縮んで、私は目を丸くした。
え? なんで急にあの黒いの小さくなったの? あの黒いのが小さくなるってことは……
は、と、そのことに気づいて、私も嬉しくて泣きそうになってしまった。
莉子ちゃん、口ではあんなこと言ってるけど、喜んでくれたんだ。私は莉子ちゃんの味方だって、信じてくれたんだ。
すごく、すごく、嬉しい。
人を嬉しくさせることって、自分もこんなにも嬉しくなれるものなんだね。
「……ありがと」
弱々しく言った莉子ちゃんに、私はにっこりと笑い返した。
☆
莉子ちゃんの黒いもやも、早く小さくなればいいのに。
私は、バケツを片付けると、莉子ちゃんを探しに教室を出た。
☆
トイレに行ってくる、と言ってたけどそこに莉子ちゃんはいなかった。あちこち探したら、ベランダの端の方でうつむいている莉子ちゃんを見つけた。
やっぱりその背中には、黒いもやがゆらゆらと揺れている。大きさは、さっきと変わってない。
私はその後ろから、そ、と近づく。
「莉子ちゃん」
黙って振り向いた莉子ちゃんは、怒っているというより、なんだか途方に暮れているような顔をしていた。
「もう五時間目始まるよ? 教室に戻ろう」
「やだ。私なんて、いない方がいいんだよ」
そう言って、また中庭に目を向けてしまう。
「そんなことないよ。ね、一緒に、戻ろう」
隣りに座って、きゅ、とその手を握ると、莉子ちゃんは向こうを向いたまま呟いた。
「あんな言い方したら、菜月が怒るのは当然だよね」
「莉子ちゃん、わかっていたの?」
「うん……」
菜月ちゃんは、うなだれたように地面を見た。
「私ね、最近、自分の気持ちがコントロールできないの。まるで、自分が自分じゃないみたい」
その言葉に、どきりとした。
もしかして、莉子ちゃんはもう乗っ取られかけているの……?
莉子ちゃんは、小さい声で続けた。
「あんなこと言ったら、みんなに迷惑をかけるのも嫌な思いさせるのも、途中で気づいたの。なのに止められなかった。家でも、そうなの。毎日毎日、ママとけんかばかり……きっとこんなんじゃ、皆に嫌われちゃうね」
「じゃあ、謝ろうよ」
「美優……」
莉子ちゃんは、ゆっくりと振り向く。泣きそうな莉子ちゃんの目を、まっすぐに見つめた。
「悪いと思ったら、謝ろう。それで、また一緒に遊んだりお掃除したりしよう。今度はけんかしないで。一人で謝るのが嫌なら、私も一緒に謝るから」
「美優が謝る必要ないじゃん」
「そうだけど……でも、ほら、いつも一緒だよ、って、私言ったもん。私が莉子ちゃんの青い羽根になるって、前に約束したでしょ? 私はずっと、莉子ちゃんの味方だよ」
しばらく私の顔をまじまじと見ていた莉子ちゃんは、少しだけ笑った。
「美優なんて、ドジだしのんきだし……味方にしてはずいぶん頼りないよね」
う。
「そ、それはそうだけど、でも、誰もいないよりは少しはましかなあって……」
とほほ。やっぱり、人を嬉しくさせることって難しいなあ。
がっくりとしょげかけた時、莉子ちゃんの背中にあった黒いもやが急に一回り縮んで、私は目を丸くした。
え? なんで急にあの黒いの小さくなったの? あの黒いのが小さくなるってことは……
は、と、そのことに気づいて、私も嬉しくて泣きそうになってしまった。
莉子ちゃん、口ではあんなこと言ってるけど、喜んでくれたんだ。私は莉子ちゃんの味方だって、信じてくれたんだ。
すごく、すごく、嬉しい。
人を嬉しくさせることって、自分もこんなにも嬉しくなれるものなんだね。
「……ありがと」
弱々しく言った莉子ちゃんに、私はにっこりと笑い返した。
☆
0
あなたにおすすめの小説
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。
takemot
児童書・童話
薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。
「シチュー作れる?」
…………へ?
彼女の正体は、『森の魔女』。
誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。
そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。
どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。
「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」
「あ、さっきよりミルク多めで!」
「今日はダラダラするって決めてたから!」
はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。
子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。
でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。
師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。
表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる