はんぶんこ天使

いずみ

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第六章 大きくなりすぎた心の闇は

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 少し遅れたけど、私たちは急いで教室へ戻った。

 算数の授業では、いつもの莉子ちゃんらしくはきはきと発言していて、私は、ほ、とした。五時間目が終わった時に、菜月ちゃんに謝ることもできた。菜月ちゃんはちょっとめんくらってたけど、別にいいよ、と仲直りしてくれた。
 雲行きが怪しくなってきたのは、六時間目の学級会の時間だ。

「では、児童会祭でのうちのクラスの出し物は、ペットボトルボウリングに決まりました。次回の学級会からは、児童会祭の準備に入ります。これで、今日の学級会を終わります」
 代表委員の慎くんが言ったとき、ちょうど六時間目が終わるチャイムがなった。そのまま当番が挨拶して、今日の授業は終わりになった。

「ようやく決まってよかったね。莉子ちゃん」
 私は、そおっと莉子ちゃんの様子をうかがう。と、やっぱり莉子ちゃんは、口をへの字にして、む、としてた。
 あー、やっぱり、莉子ちゃんは面白くないんだ。

 うちの学校では、毎年十一月に、児童会主催の児童会祭が行われる。四年生以上の各クラスがそれぞれ工夫を凝らした催し物をして、三年生以下の下級生に楽しんでもらうものだ。
 実は、ここ一週間くらい、その児童会祭での出し物は、ずっと学級会の議題になっていた。ペットボトルボウリングをやりたい派とクイズ大会をやりたい派がいて、どちらにするかを決められずにいたのだ。
 結局ペットボトルボウリングに決まったのだけれど、莉子ちゃんはずっと、クイズ大会をやりたいと推し続けていた。

「ペットボトルボウリングなんかよりも、絶対にクイズ大会の方が盛り上がるのに」
「だから、それはみんなで話し合ったことじゃない」

 クイズ大会だと、確かに内容次第では盛り上がるかもしれない。けれど、一年生から三年生までのみんなが同じように答えられる問題を作るのは難しいと意見がでたのだ。難しいのはペットボトルボウリングも一緒だけど、そこは、投げる位置を調節することで、どちらかと言えばクイズ大会よりも年齢に合わせてできるんじゃないか、と最終的に話がまとまった。

 莉子ちゃんはクイズ大会を推していたけど、私から見たら、最後には、内容よりも自分の意見を通すことに意地になっている感じがした。
 その様子は、やっぱりいつもの莉子ちゃんらしくない。確かに自分の我を通すことはあるけれど、それでもちゃんと話をすれば納得してくれるもの。
 
 乱暴に教科書をランドセルに入れながら、莉子ちゃんはまだぶつぶつ言ってる。背中の黒いもやもぐるぐると渦巻いていて、見ている私は気が気じゃない。

「莉子ちゃん、今日帰ったらうちにこない?」
 私は、なるべく明るく莉子ちゃんに話しかけた。
「いいけど。なに?」
「ママが、昨日パウンドケーキ焼いてくれたの。一緒に宿題やってから、食べよう?」
 ちょっと私を見上げた莉子ちゃんが、うん、と小さく言った。背中のぐるぐるも少し弱まる。

 あの黒いもやがいると、そんなに感情のコントロールって難しくなるんだろうか。
 でも、これ以上、あのもやに莉子ちゃんを好きなようにはさせない。私ががんばって、あんなもや消してやるんだ。
 当番の太一君が前に立ったので、私も席に戻る。

「帰りの会を始めます。では、今日の反省から。何かある人」
「はい」
 手をあげたのは、恵さんだった。
「恵さん、どうぞ」

「今日の掃除の時、莉子さんがほうきを乱暴に振り回して皐月さんを転ばせました。しかもそのほうきを教室に放りだして掃除や片づけをサボっていました。今度から気を付けて欲しいです」

 それを聞いて私は頭を抱える。言われちゃったあ。
 さっき、莉子ちゃんは、さっちゃんにも謝るつもりだった。でも休み時間は短くて、菜月ちゃんと話しているだけで六時間目が始まってしまった。授業が終わったらね、と莉子ちゃんと言ってたんだ。

 前の方に座っている莉子ちゃんをうかがうと、莉子ちゃんは下を向いて黙っている。
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