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プロローグ
第一幕
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二人の男がいる。
コチッと軽い音を鳴らし、テーブルにガラスの底が当たる。
一人は青年。
黒い軍服のような上着を羽織い、さらに上からはボロボロの外套を被っていた。
顔は見えず、小さな金属音が響く手元を、ただひたすら見つめていた。
全体的に小汚いその風貌とは真逆の男が、今度はオイルの匂いを充満させる。
一人は神父
黒いカソックに黒い皮手袋、黒髪に黒い革靴。
ひたすらに暗く、黒い彼には一際目立つものが胸元で光っていた。
首から下げた十字の金色。
それはまるで、星もない暗闇の中で一つだけ輝く月のようなものだった。
彼の手元に光る火がその十字架に映ることで、余計に情景を彷彿させる。
「……行くのか?」
神父の口が開く。
青年はその低い声を聴き、手を止める。
まだ、組み立てている最中だというのに。
彼は頷く。どうも、いかないという選択肢はないようだ。
「まぁ、別に私の知ったことではない。――――が、私にも情というものがある」
組んだ足を解き、また組みなおす。
脚の上下を入れ替え、向き直る。
「そいつをやる。好きにするがいい。…まぁ――」
神父は言葉を紡ぐのをやめた。
どうせお前は、私の意見など知ったことではないと。
どうせお前は、有無を言わさずに持っていくつもりだったのだろうと。
だがやめた。
最初から分かり切っていた。
こいつはそういう「奴」だと。
この小さな教会に
二人の男がいた。
一人は青年。
ただひたすらに金属板をはめていく。
アーチ状の歯車を一つ、また一つと味わう。
一人は神父。
葉巻を吸い、彼なりのやり方で神に祈りをささげる。
席を立ち、この小さな教会の中心である十字架の前で腕を広げる。
天にましますわれらの父よ
願わくは、御名の尊まれんことを
みこころが天に行われるとおり、 地にも行われますように。
彼への糧を、
今日彼に与え給え。
彼が人に赦す如く、
彼の罪を赦し給え。
彼の魂に憐れみを
彼を悪しきものから救い給え。
彼は祈りを捧げる。
決して自分には捧げず。自身の罪は、許されるものではないと。
地獄に堕ちるのは私だけで十分だと。
彼は自身が信じるものへと捧げた。
だが、唯一の欠点は
彼はその宗教に属していない。
彼はそう伝える。
「知っているさ。だが私としてはやはり神に祈っておきたいものだ」
月夜に照らされる青白い輪郭。
それを横目に最後の鉄心をソレにはめこむ。
カチッ
撃鉄が移動し、ソレの中心部が半時計回りへと回転し始める。
同時に、後方部の鉄塊が後ろへと後退する。
だが、そこから衝撃が来るでもなく後退が戻るわけでもない。
もう、戻れない
コチッと軽い音を鳴らし、テーブルにガラスの底が当たる。
一人は青年。
黒い軍服のような上着を羽織い、さらに上からはボロボロの外套を被っていた。
顔は見えず、小さな金属音が響く手元を、ただひたすら見つめていた。
全体的に小汚いその風貌とは真逆の男が、今度はオイルの匂いを充満させる。
一人は神父
黒いカソックに黒い皮手袋、黒髪に黒い革靴。
ひたすらに暗く、黒い彼には一際目立つものが胸元で光っていた。
首から下げた十字の金色。
それはまるで、星もない暗闇の中で一つだけ輝く月のようなものだった。
彼の手元に光る火がその十字架に映ることで、余計に情景を彷彿させる。
「……行くのか?」
神父の口が開く。
青年はその低い声を聴き、手を止める。
まだ、組み立てている最中だというのに。
彼は頷く。どうも、いかないという選択肢はないようだ。
「まぁ、別に私の知ったことではない。――――が、私にも情というものがある」
組んだ足を解き、また組みなおす。
脚の上下を入れ替え、向き直る。
「そいつをやる。好きにするがいい。…まぁ――」
神父は言葉を紡ぐのをやめた。
どうせお前は、私の意見など知ったことではないと。
どうせお前は、有無を言わさずに持っていくつもりだったのだろうと。
だがやめた。
最初から分かり切っていた。
こいつはそういう「奴」だと。
この小さな教会に
二人の男がいた。
一人は青年。
ただひたすらに金属板をはめていく。
アーチ状の歯車を一つ、また一つと味わう。
一人は神父。
葉巻を吸い、彼なりのやり方で神に祈りをささげる。
席を立ち、この小さな教会の中心である十字架の前で腕を広げる。
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彼への糧を、
今日彼に与え給え。
彼が人に赦す如く、
彼の罪を赦し給え。
彼の魂に憐れみを
彼を悪しきものから救い給え。
彼は祈りを捧げる。
決して自分には捧げず。自身の罪は、許されるものではないと。
地獄に堕ちるのは私だけで十分だと。
彼は自身が信じるものへと捧げた。
だが、唯一の欠点は
彼はその宗教に属していない。
彼はそう伝える。
「知っているさ。だが私としてはやはり神に祈っておきたいものだ」
月夜に照らされる青白い輪郭。
それを横目に最後の鉄心をソレにはめこむ。
カチッ
撃鉄が移動し、ソレの中心部が半時計回りへと回転し始める。
同時に、後方部の鉄塊が後ろへと後退する。
だが、そこから衝撃が来るでもなく後退が戻るわけでもない。
もう、戻れない
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