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幕間 庇護の国
終わりは唐突に
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アナンとセウロラはシビル連邦内のあちこちで、孤児院、宿屋、医院、私塾、番屋を訪ね歩いてはシャハルの行方や心当たりの有無を確かめ、連絡先の貼り紙を渡して回っていた。
行った先で一通り配り終えると、しばらくそこらの宿屋に逗留して、付近の村や町も同様に探し歩くのを毎回繰り返していた。
しかし有力な手掛かりは殆どと言っていいほど集まらず、今日も今日とて帰りの路銀が無くなる前に、スミドへ引き返す帰路の道中にあった。草むらで用を足そうとしたセウロラは、下着に少し血が付いていることに気付いた。
「あれっ、いつの間に。どこかで転んでぶつけたっけ」
考えてみても特に心当たりは見つからず、恐る恐る用を済ませても特段痛みは感じなかったので、後から宿で洗う事にして、そのまま放っておいた。
だが宿に泊まりいざ洗おうとすると、驚く程大量の血に塗れていた。まさかと焦りつつ確かめてみると、その血生臭ささに仰天した。
「嘘、これ本物の血なの……どうしよう、洗って落ちるかな…」
――出発前にレラムさんから持たされたアレを使わなきゃ、でもどうやって使うんだったっけ。
セウロラは脱いだ服を急いでまた着て、部屋の風呂兼便所から抜け出すと、アナンには着替えを忘れたと称して、再度取り出した着替えに生理用品を紛れ込ませた。
そこまでは良かったが、肝心の使用方法については、今まで気恥ずかしくてまともに見聞きして来なかったことが、今更ながらに悔やまれた。
それでも何とかして使わなければ、再び血が滲んでしまう。セウロラはお風呂上がりに必死に包み紙を開き、そのまま下着の間に挟んで着替え終わった。包みが擦れてごわごわしたが、多分そういう物に違いないと思い込んだ。
翌朝、嫌な予感どおり生理用品がずれてしまっていたが、包み紙のお陰で血は漏れていなかった。セウロラは、少しほっとして新しい包み紙を開き、生理用品を挟み直した。だがやはり包み紙が滑っていたようで、一旦宿屋を出る直前、服に滲んだ血の跡に、目敏く気付いた女将に呼び止められた。
「あなた女の子だったの、ちゃんと生理用品使いなさい。持って無いならあげるから」
それと着替えるように告げられて、セウロラは目の前が真っ暗になったように感じた。
心配した女将も部屋の中までついて来て、荷物から必要な物を取り出したセウロラは、女将の手助けは断って一人風呂場兼便所に立て籠もった。
それから脳内で悪戦苦闘の末、生理用品の包み紙を剥がすと現れる粘着面に気が付くと、ようやく正しい使用方法を悟り、着換え終わった。セウロラが戻ると、その間に女将から事情を告げられたアナンが、深刻な表情で待ち構えていた。
「もう一緒の部屋で寝る訳には行かない。今晩は女将さんの所で寝かせて貰え。明日にはスミドに着く。セウロラはもうこれでお終いだ」
「嫌だ、また行く。わたしはシャハルを見つけるまでは諦めないから」
「我儘言うな。俺みたいな若造が、年頃の娘を連れ回す訳には行かない。大体今までがおかしかったんだ。こんなのが知れ渡ったら、お前が将来婚家で何を言われるか……」
「何でそんなに冷たくするの、わたしは何も変わってない」
「変わったんだよ。今に分かる…要するに世間体って奴さ。これからは俺一人で探しに行く。お前だってこれ以上、お母さんやレラムさんに心配掛けたくないだろう。頼むから聞き分けてくれ」
セウロラはアナンの翻意に期待していたが、スミドに帰ってからは、次もその次もそのまた次も、当たり前のように置いて行かれた。大人達は、それがさも当然であるかのように振る舞い、そもそも同行を許していた事実について、レラムやアナンを公然と非難する者もあった。
それでもセウロラの、男子と見紛う程だった短髪が肩まで伸びる頃には、彼女は気分転換も兼ね、篁屋で賃金労働をしていた。同じ頃、スラーは飛び級が認められ、クルガノイのより上級の学校に進むことが決まり、タイはタイで篁屋の跡取りとして、既に他所の店へ修行に出ていた。
「おめでとさん、流石はスラー君だ。そろそろサニュとの結婚の段取りも決めとかないとね」
篁屋の主人に報告した帰り、スラーの目に店の軒先で水を撒くセウロラの姿がとまった。セウロラもスラーに気が付くと、汗を拭って久しぶりだと笑顔を向けた。スラーは居ても立ってもいられず、無理矢理彼女の腕を掴んで連れ出した。
「どうしたのスラー、ちょっと待って。休憩取るなら、ちゃんと伝えないと迷惑掛けるから」
「…君の方がずっと良いっ。本当はあの子の事、何とも思っていないんだ」
「えっ。何なのスラー、変な事言わないで」
「ひどいよ、おねえちゃん」
何とも聞き覚えのある声とその内容に、まるで背中から冷水を浴びせられた心地で二人が振り向くと、案の定、お遣いがてらに実家を覗きに来たと見えるサニュが、にやにやしながら立っていた。
「うち、この事皆に言うからね」
行った先で一通り配り終えると、しばらくそこらの宿屋に逗留して、付近の村や町も同様に探し歩くのを毎回繰り返していた。
しかし有力な手掛かりは殆どと言っていいほど集まらず、今日も今日とて帰りの路銀が無くなる前に、スミドへ引き返す帰路の道中にあった。草むらで用を足そうとしたセウロラは、下着に少し血が付いていることに気付いた。
「あれっ、いつの間に。どこかで転んでぶつけたっけ」
考えてみても特に心当たりは見つからず、恐る恐る用を済ませても特段痛みは感じなかったので、後から宿で洗う事にして、そのまま放っておいた。
だが宿に泊まりいざ洗おうとすると、驚く程大量の血に塗れていた。まさかと焦りつつ確かめてみると、その血生臭ささに仰天した。
「嘘、これ本物の血なの……どうしよう、洗って落ちるかな…」
――出発前にレラムさんから持たされたアレを使わなきゃ、でもどうやって使うんだったっけ。
セウロラは脱いだ服を急いでまた着て、部屋の風呂兼便所から抜け出すと、アナンには着替えを忘れたと称して、再度取り出した着替えに生理用品を紛れ込ませた。
そこまでは良かったが、肝心の使用方法については、今まで気恥ずかしくてまともに見聞きして来なかったことが、今更ながらに悔やまれた。
それでも何とかして使わなければ、再び血が滲んでしまう。セウロラはお風呂上がりに必死に包み紙を開き、そのまま下着の間に挟んで着替え終わった。包みが擦れてごわごわしたが、多分そういう物に違いないと思い込んだ。
翌朝、嫌な予感どおり生理用品がずれてしまっていたが、包み紙のお陰で血は漏れていなかった。セウロラは、少しほっとして新しい包み紙を開き、生理用品を挟み直した。だがやはり包み紙が滑っていたようで、一旦宿屋を出る直前、服に滲んだ血の跡に、目敏く気付いた女将に呼び止められた。
「あなた女の子だったの、ちゃんと生理用品使いなさい。持って無いならあげるから」
それと着替えるように告げられて、セウロラは目の前が真っ暗になったように感じた。
心配した女将も部屋の中までついて来て、荷物から必要な物を取り出したセウロラは、女将の手助けは断って一人風呂場兼便所に立て籠もった。
それから脳内で悪戦苦闘の末、生理用品の包み紙を剥がすと現れる粘着面に気が付くと、ようやく正しい使用方法を悟り、着換え終わった。セウロラが戻ると、その間に女将から事情を告げられたアナンが、深刻な表情で待ち構えていた。
「もう一緒の部屋で寝る訳には行かない。今晩は女将さんの所で寝かせて貰え。明日にはスミドに着く。セウロラはもうこれでお終いだ」
「嫌だ、また行く。わたしはシャハルを見つけるまでは諦めないから」
「我儘言うな。俺みたいな若造が、年頃の娘を連れ回す訳には行かない。大体今までがおかしかったんだ。こんなのが知れ渡ったら、お前が将来婚家で何を言われるか……」
「何でそんなに冷たくするの、わたしは何も変わってない」
「変わったんだよ。今に分かる…要するに世間体って奴さ。これからは俺一人で探しに行く。お前だってこれ以上、お母さんやレラムさんに心配掛けたくないだろう。頼むから聞き分けてくれ」
セウロラはアナンの翻意に期待していたが、スミドに帰ってからは、次もその次もそのまた次も、当たり前のように置いて行かれた。大人達は、それがさも当然であるかのように振る舞い、そもそも同行を許していた事実について、レラムやアナンを公然と非難する者もあった。
それでもセウロラの、男子と見紛う程だった短髪が肩まで伸びる頃には、彼女は気分転換も兼ね、篁屋で賃金労働をしていた。同じ頃、スラーは飛び級が認められ、クルガノイのより上級の学校に進むことが決まり、タイはタイで篁屋の跡取りとして、既に他所の店へ修行に出ていた。
「おめでとさん、流石はスラー君だ。そろそろサニュとの結婚の段取りも決めとかないとね」
篁屋の主人に報告した帰り、スラーの目に店の軒先で水を撒くセウロラの姿がとまった。セウロラもスラーに気が付くと、汗を拭って久しぶりだと笑顔を向けた。スラーは居ても立ってもいられず、無理矢理彼女の腕を掴んで連れ出した。
「どうしたのスラー、ちょっと待って。休憩取るなら、ちゃんと伝えないと迷惑掛けるから」
「…君の方がずっと良いっ。本当はあの子の事、何とも思っていないんだ」
「えっ。何なのスラー、変な事言わないで」
「ひどいよ、おねえちゃん」
何とも聞き覚えのある声とその内容に、まるで背中から冷水を浴びせられた心地で二人が振り向くと、案の定、お遣いがてらに実家を覗きに来たと見えるサニュが、にやにやしながら立っていた。
「うち、この事皆に言うからね」
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