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第二章 雪けぶる町
盆が早よ来りゃ早よ帰る
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ジス・サペリは悩み抜いた末、故郷ナルメから予定通り首都ポンチェト=プリューリへ進学した。それから趣味の写真の為に、愛好家が集う会に顔を出した所、そこで見知った顔とも再会した。
「やあしばらく。君はクサンナ・コシヌ嬢だったか」
「ええ、そうです。ハルシヤから聞きましたよ。首都教学院高等部への編入学、おめでとうございます」
「ありがとう。ところで君はソピリヤ・ヨウゼンに仕えているのなら、当然知っているはずだよな。この瓶を見てくれ」
「これは……ピンホールカメラで撮った写真ですか」
「中の写真はどうでもいい。これは元々水飴が入っていた瓶だ。これをスミドで私に買ってくれた人を探しているんだが、調べられないか。大方ハンムラビ・ヨウゼンの部下の一人だと思うんだが、お礼をしたくてな」
クサンナは、かつてジズが何者かによってスミドに連れ去られ放置された一件について、知っている限りの内容を反芻し、おそらくその人物は、今は亡きトビラス=イェノイェではないかと考えた。
しかし彼とその死後行われたトビラスの息子に対するハンムラビの仕打ちを考えれば、お礼どころの話ではない。従って告げるのは憚られた。
「残念ですが、その方は亡くなられました。しかしハルシヤは彼の甥です。お礼でしたら、彼を介して墓前に伝えていただくのが適切かと」
そう言ってその場をお暇してきた洋装のクサンナは、心痛めながら屋敷内を歩いていたために注意散漫となり、ロンシュク家きっての悪ガキにして次男坊、ホセア・ロンシュクのスカートめくりの餌食となった。
「おやまあ、無駄ですよホセア様。わたくしホットパンツ履いてますから」
「ちぇっ、つまんない。エイダならすぐビービー泣くのに。もうちょっとびっくりしてよ」
「駄目じゃないですか、妹様を泣かせたら。本当に仲が悪いんですね、双子なのに」
✳
はてさてポンチェト=プリューリの学校群は毎年恒例の長期休暇に入ったので、私はお仕えするソピリヤ様とクサンナの3人で、この休暇を利用してスミドに帰っていた。また、ソピリヤ様の長姉でロンシュク家の奥方、現在身重のザビネ・ヨウゼン様と、その5人のお子様方も、私達と同じくスミド入りしていた。
私はとても久しぶりに許可が出て、土手近くにあるイェノイェの集落にある実家に帰っていた。すぐ下の双子の妹達、ミナとリセは相変わらずだったけど、最後に会った時はまだ赤ん坊だった末の妹のカリンは、兄妹なのに恥ずかしがって余所余所しく、私は地味に傷付いていた。
でもそれより気掛かりなのは、シャハルの家の事だ。トビラス伯父さんは亡くなり、シャハルが行方不明になって、あれから皆どうしているんだろう。
「こんにちはー、レラム叔母さん、お土産です。ってあれー…留守か」
「ううっ、居ますけど」
後ろを振り向くと、私が学校に通う時と同じ様な、二部式着物の上衣に袴キュロット姿の女学生が二人居た。片方は随分と顔色が悪く、もう一人に肩を貸してもらいながらふらふらと歩いてこちらまで来ると、玄関先で蹲った。
「もしかしてセウロラか、随分と顔色が悪いけど」
「分かってんなら、布団敷くの手伝ってよハルシヤ」
もう一人の健康そうな女学生に言われて気付いたが、こっちのもう一人は、私の従妹のスカラじゃないか。セウロラは横になったが、とても辛そうにお腹に掛け布団を抱え込んでいた。
「その症状だと、辛そうだな。言い方悪いけど普通じゃないよ。一度外国人の医者に見て貰った方が良い。その時ピルも頼むんだ、こういう薬。個人差もあるだろうけど、私と一緒に働いてる子も飲み始めて良くなったってさ」
「やあしばらく。君はクサンナ・コシヌ嬢だったか」
「ええ、そうです。ハルシヤから聞きましたよ。首都教学院高等部への編入学、おめでとうございます」
「ありがとう。ところで君はソピリヤ・ヨウゼンに仕えているのなら、当然知っているはずだよな。この瓶を見てくれ」
「これは……ピンホールカメラで撮った写真ですか」
「中の写真はどうでもいい。これは元々水飴が入っていた瓶だ。これをスミドで私に買ってくれた人を探しているんだが、調べられないか。大方ハンムラビ・ヨウゼンの部下の一人だと思うんだが、お礼をしたくてな」
クサンナは、かつてジズが何者かによってスミドに連れ去られ放置された一件について、知っている限りの内容を反芻し、おそらくその人物は、今は亡きトビラス=イェノイェではないかと考えた。
しかし彼とその死後行われたトビラスの息子に対するハンムラビの仕打ちを考えれば、お礼どころの話ではない。従って告げるのは憚られた。
「残念ですが、その方は亡くなられました。しかしハルシヤは彼の甥です。お礼でしたら、彼を介して墓前に伝えていただくのが適切かと」
そう言ってその場をお暇してきた洋装のクサンナは、心痛めながら屋敷内を歩いていたために注意散漫となり、ロンシュク家きっての悪ガキにして次男坊、ホセア・ロンシュクのスカートめくりの餌食となった。
「おやまあ、無駄ですよホセア様。わたくしホットパンツ履いてますから」
「ちぇっ、つまんない。エイダならすぐビービー泣くのに。もうちょっとびっくりしてよ」
「駄目じゃないですか、妹様を泣かせたら。本当に仲が悪いんですね、双子なのに」
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はてさてポンチェト=プリューリの学校群は毎年恒例の長期休暇に入ったので、私はお仕えするソピリヤ様とクサンナの3人で、この休暇を利用してスミドに帰っていた。また、ソピリヤ様の長姉でロンシュク家の奥方、現在身重のザビネ・ヨウゼン様と、その5人のお子様方も、私達と同じくスミド入りしていた。
私はとても久しぶりに許可が出て、土手近くにあるイェノイェの集落にある実家に帰っていた。すぐ下の双子の妹達、ミナとリセは相変わらずだったけど、最後に会った時はまだ赤ん坊だった末の妹のカリンは、兄妹なのに恥ずかしがって余所余所しく、私は地味に傷付いていた。
でもそれより気掛かりなのは、シャハルの家の事だ。トビラス伯父さんは亡くなり、シャハルが行方不明になって、あれから皆どうしているんだろう。
「こんにちはー、レラム叔母さん、お土産です。ってあれー…留守か」
「ううっ、居ますけど」
後ろを振り向くと、私が学校に通う時と同じ様な、二部式着物の上衣に袴キュロット姿の女学生が二人居た。片方は随分と顔色が悪く、もう一人に肩を貸してもらいながらふらふらと歩いてこちらまで来ると、玄関先で蹲った。
「もしかしてセウロラか、随分と顔色が悪いけど」
「分かってんなら、布団敷くの手伝ってよハルシヤ」
もう一人の健康そうな女学生に言われて気付いたが、こっちのもう一人は、私の従妹のスカラじゃないか。セウロラは横になったが、とても辛そうにお腹に掛け布団を抱え込んでいた。
「その症状だと、辛そうだな。言い方悪いけど普通じゃないよ。一度外国人の医者に見て貰った方が良い。その時ピルも頼むんだ、こういう薬。個人差もあるだろうけど、私と一緒に働いてる子も飲み始めて良くなったってさ」
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