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ひさごの章
似非幸い
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正直全然よく分からないが、聞いておいて損はないだろう、事の真偽はまた後で考えるとして。
「媛たちのご内情とは、どのようなお話でしょうか」
「単刀直入に言うと、わたくし達二人の事は捨て置いてほしい。というだけの話です」
まさかこの二人、そういう仲なのか。
「……お言葉ですが海媛、それは私に話したところで、どうにかなる問題では――」
「呵呵、姐さまったら口下手過ぎ。ああもう可笑しいったら、おかげで勘ぐられてしまいましたよ。もういっそ、そういう筋書きにしませんこと」
「どうしてそうなるの霧彦、わたくしは杼媛なんかと懇ろだなんて、死んでも御免ですよ」
とんでもなくばつが悪い。でもこの発想、知らず知らずのうちに長上に毒されてきているのか俺は。まだ一日と経ってないのに怖すぎだろ。杼媛がこちらに向き直り、わざとらしく咳ばらいして言った。
「姐さまは頼りないから、あたくしが代わりに説明して差し上げます」
――媛らには派閥があります。大きく分けて二つ、長上に従った新興勢力と前王朝より寝返った既存勢力。でも決して一枚岩ではありません。あたくし達ですか。海媛姐さまは前者、この杼媛は後者です。
いずれにせよ、媛が後継ぎの生母となりさえすれば、我が世の春を謳歌できると信じる者は多く、出身氏族からの期待を背負った多くの媛たちが、日夜長上からの寵愛を競うておられます。
あたくし達もかつてはそうでした。でもふと疑念を抱いたのです。
突如不相応に召し上げられた媛が、寵愛を欲しいままにしていたかと思えば、何のきっかけもなく遠ざけられる。また別な媛は、今まで許されていた態度を急に咎められ、不興を買って追放される。
確かに寵愛とは移ろいやすいものかも知れません。
ですが、こう考えてはいかがでしょう。
在所に身分は低いが、優秀な若人がおりました。ある日偶然その妹が長上の目に留まり、媛となります。媛は大層寵愛を受け、威光で兄は役職を授かります。当初は反発もありましたが、無事有能さを発揮し周囲からも認められ、順調に出世しましたとさ、めでたしめでたし。
別の里には、悪政を行う卑劣な輩がおりました。遠い親戚に媛も居る一族ですが、私腹を肥やし、苛烈な取り立てを行うので、里の民は疲弊する一方です。しかしある時、その親戚筋の媛が、あろうことか他の媛に無礼を働き、その連座で追放刑に処されましたとさ、ちゃんちゃん。
「長話にお付き合いいただきましたね。どうです霧彦。減らず口の方が、言葉少なよりは優れていると思いませんか」
「まあ、説明していただく分にはありがたいです」
「今のが説明なものですか、単なる推測です。霧彦、そなたも身の振り方は努々考えておく事です。わたくしが炊事、杼媛が養蚕機織り等買って出ているのもそのためですし、これ以上親しくするつもりは毛頭ありません」
「はい。お気遣い感謝いたします」
「そろそろ日が暮れる。わたくしは夕餉の支度があるから炊事場に戻らねば」
海媛が機織り小屋から退出し、歩く足音も遠ざかって聞こえなくなると、俺は杼媛に手招きされて屈んだ。すると、ヒソヒソと耳打ちされた。
「姐さまはああ仰いますけれど、あたくしは別によくってよ。公認の浮気だなんて、考えただけでゾクゾクする」
「妬かせるなあ、こんなところで密談か」
一体いつからそこに。長上の声からは何も感情が読み取れない。機織り小屋の出入口に肩で凭れている立ち姿は夕日が逆光になっていて、下手な怪談よりもぞっとした。
「媛たちのご内情とは、どのようなお話でしょうか」
「単刀直入に言うと、わたくし達二人の事は捨て置いてほしい。というだけの話です」
まさかこの二人、そういう仲なのか。
「……お言葉ですが海媛、それは私に話したところで、どうにかなる問題では――」
「呵呵、姐さまったら口下手過ぎ。ああもう可笑しいったら、おかげで勘ぐられてしまいましたよ。もういっそ、そういう筋書きにしませんこと」
「どうしてそうなるの霧彦、わたくしは杼媛なんかと懇ろだなんて、死んでも御免ですよ」
とんでもなくばつが悪い。でもこの発想、知らず知らずのうちに長上に毒されてきているのか俺は。まだ一日と経ってないのに怖すぎだろ。杼媛がこちらに向き直り、わざとらしく咳ばらいして言った。
「姐さまは頼りないから、あたくしが代わりに説明して差し上げます」
――媛らには派閥があります。大きく分けて二つ、長上に従った新興勢力と前王朝より寝返った既存勢力。でも決して一枚岩ではありません。あたくし達ですか。海媛姐さまは前者、この杼媛は後者です。
いずれにせよ、媛が後継ぎの生母となりさえすれば、我が世の春を謳歌できると信じる者は多く、出身氏族からの期待を背負った多くの媛たちが、日夜長上からの寵愛を競うておられます。
あたくし達もかつてはそうでした。でもふと疑念を抱いたのです。
突如不相応に召し上げられた媛が、寵愛を欲しいままにしていたかと思えば、何のきっかけもなく遠ざけられる。また別な媛は、今まで許されていた態度を急に咎められ、不興を買って追放される。
確かに寵愛とは移ろいやすいものかも知れません。
ですが、こう考えてはいかがでしょう。
在所に身分は低いが、優秀な若人がおりました。ある日偶然その妹が長上の目に留まり、媛となります。媛は大層寵愛を受け、威光で兄は役職を授かります。当初は反発もありましたが、無事有能さを発揮し周囲からも認められ、順調に出世しましたとさ、めでたしめでたし。
別の里には、悪政を行う卑劣な輩がおりました。遠い親戚に媛も居る一族ですが、私腹を肥やし、苛烈な取り立てを行うので、里の民は疲弊する一方です。しかしある時、その親戚筋の媛が、あろうことか他の媛に無礼を働き、その連座で追放刑に処されましたとさ、ちゃんちゃん。
「長話にお付き合いいただきましたね。どうです霧彦。減らず口の方が、言葉少なよりは優れていると思いませんか」
「まあ、説明していただく分にはありがたいです」
「今のが説明なものですか、単なる推測です。霧彦、そなたも身の振り方は努々考えておく事です。わたくしが炊事、杼媛が養蚕機織り等買って出ているのもそのためですし、これ以上親しくするつもりは毛頭ありません」
「はい。お気遣い感謝いたします」
「そろそろ日が暮れる。わたくしは夕餉の支度があるから炊事場に戻らねば」
海媛が機織り小屋から退出し、歩く足音も遠ざかって聞こえなくなると、俺は杼媛に手招きされて屈んだ。すると、ヒソヒソと耳打ちされた。
「姐さまはああ仰いますけれど、あたくしは別によくってよ。公認の浮気だなんて、考えただけでゾクゾクする」
「妬かせるなあ、こんなところで密談か」
一体いつからそこに。長上の声からは何も感情が読み取れない。機織り小屋の出入口に肩で凭れている立ち姿は夕日が逆光になっていて、下手な怪談よりもぞっとした。
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