媛彦談《ひめひこだん》

テジリ

文字の大きさ
18 / 53
肥遺憑きの章

釣果

しおりを挟む
 阿諛あゆ傅役ふえきに同行し、ついに領主の館までやって来た。

「今日は単なる顔合わせ、くれぐれも粗相のないように。――よいな」

「はい傅役ふえき。お任せ下さい」

 奥まった庭まで辿り着くと、まるで童女の様な召し物の、か細い背中が屈んで手鞠をついていた。傅役ふえきはさっと近づいて目線を合わせるようにしゃがむと、普段の粗暴な言動からは、にわかに信じ難い優しさに満ちた声を掛けた。

「領主」

「手鞠ぐらいよいではないか傅役ふえき。古老の説話が始まるまでは」

「それは構いませんが、また少し髪が伸びましたね。これ以上かかると目も悪くなる。切ってしまいましょうか」

「えーいやいや、前髪はこれ位の方が可愛ゆきものぞ。……でも傅役ふえきがそう言うなら」

傅役ふえきが顎でしゃくって合図したので、阿諛あゆは手早く支度を整えた。

「あれえ、知らない子」

「たまには趣向を変えて、年の近い者の方がよろしいかと思いまして。こちらは席を外しましょう、その方が話しやすいでしょうから。何かありましたらすぐお呼びを」

 あーあ、傅役ふえきもよく言うよ。どうせ後で筒抜けなのに。という内心は一切見せることなく、阿諛あゆは努めてにこやかに領主に話し掛けた。

「さてと。領主、前髪は少し切り揃える程度に留めておきましょうか」

「若いのに耳が遠いのか、傅役ふえきが切れと言うておったではないか」

「それは傅役ふえきのお考えです。領主はどうしたいのですか」



 阿諛あゆが道具を片付けている様子を眺めていると、領主はふつふつと何かがこみ上げて来た。

「う~ん。ちょっと良いかも、いやちょっとじゃないな。もうだめ我慢できない」

気が付くと阿諛あゆに近寄って、袖を引いて話し掛けていた。

「ねえねえ年魚あゆってたしか川魚だよね、どうしてそんな名前なの」

「いえそちらではなく、むぐ」

口を塞いで舌を追ってみたところ、返って来たのは戸惑いの反応で。こんな顔もするのか、すました顔よりずっと良い。

「へ、あ、あー。その。お気持ちはうれしいですが、領主のことまだ何も知らないし」

「じゃあ知ったらすきになるかな」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...