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第1章 始まり
決闘3
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「決闘開始!」
「「”身体強化”!」」
審判のかけ声と同時に、アリスたちは魔法を唱える。
(ほう? 最初に”身体強化”を使うか。ある程度は戦いを知っているようだな)
正直、グレンが最初に”身体強化”を使ったことにアリスは感心する。
”身体強化”はどんな魔法よりも重要だが、意外とそれは知られていない。普段の生活では戦術を学んだりしないからだ。そのために、この学園に学びに来ているといっていい。何も知らない1年生では派手さを重視して攻撃魔法を使うと思ったが、さすがオーレット家の人間というだけある。戦いの最初に攻撃魔法を使わずに”身体強化”を使っていた。
先に攻撃を仕掛けたのはグレンだ。グレンはアリスに指先を向けて魔法を唱える。
「穿て、”スカイアロー”!」
魔法を唱えたグレンの指先から目に見えない風の矢が放たれる。
(中級魔法も詠唱短縮も扱えるのか。決闘を挑んできただけのことはあるな……だが――)
アリスは冷静にグレンの実力を測っていた。思っていたよりもグレンに実力があったことを内心、アリスは感心していた。
しかし、アリスは”スカイアロー”が迫っているにもかかわらず、避けようとせずその場に立ったままでいる。
アリスがすでに勝負を捨てたのだと思い、グレンは勝ちを確信して口角を上げるが、それは杞憂に終わった。
「なに!?」
アリスはグレンが放った”スカイアロー”を体を少し傾けて避けた。当たると思っていた攻撃を避けられたことにグレンは驚愕する。
「もう終わりか?」
アリスの煽るような姿勢に、グレンは怒りをあらわにする。
「……たった一回避けただけで調子に乗るな! ”スカイアロー”!」
もう一度アリスに向けて魔法を放つが、アリスは先ほどと同様に体を少し傾けて避ける。
「……ッ!? クソ! ”スカイアロー”! ”スカイアロー”!」
がむしゃらにグレンは”スカイアロー”を放つが何度放ってもアリスに当たる気配はなかった。
「クソ! 何で当たらないんだよ!?」
いらだっているグレンの様子を見て、アリスは内心、呆れていた。
「……お前、本気で言っているのか? まず”スカイアロー”を撃った直後は空気が歪むし、腕をこちらに向けるのならわかる。だが指先をこっちに向けて撃っていたら嫌でもわかるだろ」
グレンは何を言ってるんだ? といった様子でアリスを見ていた。アリスはそんなグレンの様子を見て戦う気力すら失っていた。
「……はぁ、こうやってやるんだよ。”スカイアロー”」
アリスは手のひらをグレンに向けて魔法を唱える。瞬間、グレンは自分の顔のすぐ横に何かが通ったことに気づいた。しかし、状況は全く理解できず、先ほどの不可解な現象を確認するために、ゆっくりと振り返る。
――そこには、壁に深々と何かが刺さった跡が残っていた。
「な、なんだこれは?」
「見たらわかるだろ? ”スカイアロー”の跡だ」
グレンは驚愕の視線でアリスを見る。冗談かと思ったがアリスの目に嘘をついた様子は見られなかった。しかし、グレンは納得することができなかった。
「でも、おかしいだろ! だってお前は――」
「お前の常識を押しつけるな」
アリスが声を低くして告げる。
「嘘だと思うなら確認してみろ。俺の後ろの跡とお前の後ろの跡、同じだろ」
グレンは何度も確認するが、やはり、その後はどちらも同じようなものだった。
「そんな馬鹿な……」
グレンはありえないといいたげな表情をして、体を小刻みに震わせる。恐らくアリスが行ったことの異常さが理解できたのだろう。
確かに魔法を発動するためにイメージをすることは大切だ。しかし、せっかく発動した魔法も相手にばれてしまえば意味がない。アリスにとって指先を相手に向けるというのは理解できないことだった。
「そろそろ攻撃してもいいか?」
アリスの言葉にグレンは構える。恐らくアリスの使える属性は自分と同じ風で、さらに精度も自分より高いと予想していた。
しかし、アリスが使った魔法はグレンの予想とは全く違ったものであった。
「”ダークブラスト”」
「あ?」
全く予想が違ったことにグレンはふ抜けた声を出す。何故なら、アリスが使っている魔法の属性は風属性ではなく闇属性だったからだ。
アリスから放たれた漆黒の弾丸は今もなお、グレンに迫っている。
「ちいっ!」
グレンは真横に飛び、なんとか攻撃を避けるが、”ダークブラスト”の威力はすさまじいものだった。床はめくれ上がり、着弾点には大きな穴が空いていた。もし自分が巻き込まれていたらどうなっていたと考えるとグレンはゾッとする。
(ふざけるな! 上級魔法が使えるだと!? しかも闇属性も使えるなんて、とんだ化け物じゃないか!)
グレンは今更、アリスに決闘を挑んだことを後悔していた。一応、誰でも全属性の魔法を使えるが、ただ使えるというだけだ。扱えるというわけではない。しかし、アリスは中級魔法であればいくつか扱うことができた。その1つが”スカイアロー”であった。
上級魔法も今の1年生では使えないものが大半であろう。3年生でもランキングが上位のものしか使えず、教師でも使えない者がいるほどだ。アリスは特に苦戦する様子もなく使っているが上級魔法は本来、アリスの学年で使える魔法ではないのだ。これだけでもアリスが異常だということがわかる。
「もう終わりか?」
「ひいっ!」
アリスがゆっくりとグレンに歩を進める。グレンからすればアリスは自分を殺しに来ている悪魔のように見えているだろう。
「まだ精霊武装が残っているだろう? 早くそれで仕留めろよ」
(はっ! そうだ、俺にはまだ精霊武装が残っているじゃないか!)
ここまで追い詰められて忘れていたが、グレンは精霊武装があることに気づいて希望を持つ。
「……後悔するなよ」
追い詰められているはずなのだがグレンの瞳は自信に満ちあふれていた。アリスも精霊武装が使えるという可能性は全く頭にないようだった。
グレンはゆっくりと立ち上がり、精霊武装の展開を始める。
「”汝、我のために、我の矛となり、盾となれ”」
(さすがに詠唱破棄はできないか)
さっきも見ていたがグレンは詠唱破棄が使えないようだった。もっとも、使える者など、この国だけでも数えるほどしかいないが。
「”顕現せよ、我が契約精霊。オーフェル”!」
声高々に詠唱を終えたグレンの右手に精霊武装が現れた。
「「”身体強化”!」」
審判のかけ声と同時に、アリスたちは魔法を唱える。
(ほう? 最初に”身体強化”を使うか。ある程度は戦いを知っているようだな)
正直、グレンが最初に”身体強化”を使ったことにアリスは感心する。
”身体強化”はどんな魔法よりも重要だが、意外とそれは知られていない。普段の生活では戦術を学んだりしないからだ。そのために、この学園に学びに来ているといっていい。何も知らない1年生では派手さを重視して攻撃魔法を使うと思ったが、さすがオーレット家の人間というだけある。戦いの最初に攻撃魔法を使わずに”身体強化”を使っていた。
先に攻撃を仕掛けたのはグレンだ。グレンはアリスに指先を向けて魔法を唱える。
「穿て、”スカイアロー”!」
魔法を唱えたグレンの指先から目に見えない風の矢が放たれる。
(中級魔法も詠唱短縮も扱えるのか。決闘を挑んできただけのことはあるな……だが――)
アリスは冷静にグレンの実力を測っていた。思っていたよりもグレンに実力があったことを内心、アリスは感心していた。
しかし、アリスは”スカイアロー”が迫っているにもかかわらず、避けようとせずその場に立ったままでいる。
アリスがすでに勝負を捨てたのだと思い、グレンは勝ちを確信して口角を上げるが、それは杞憂に終わった。
「なに!?」
アリスはグレンが放った”スカイアロー”を体を少し傾けて避けた。当たると思っていた攻撃を避けられたことにグレンは驚愕する。
「もう終わりか?」
アリスの煽るような姿勢に、グレンは怒りをあらわにする。
「……たった一回避けただけで調子に乗るな! ”スカイアロー”!」
もう一度アリスに向けて魔法を放つが、アリスは先ほどと同様に体を少し傾けて避ける。
「……ッ!? クソ! ”スカイアロー”! ”スカイアロー”!」
がむしゃらにグレンは”スカイアロー”を放つが何度放ってもアリスに当たる気配はなかった。
「クソ! 何で当たらないんだよ!?」
いらだっているグレンの様子を見て、アリスは内心、呆れていた。
「……お前、本気で言っているのか? まず”スカイアロー”を撃った直後は空気が歪むし、腕をこちらに向けるのならわかる。だが指先をこっちに向けて撃っていたら嫌でもわかるだろ」
グレンは何を言ってるんだ? といった様子でアリスを見ていた。アリスはそんなグレンの様子を見て戦う気力すら失っていた。
「……はぁ、こうやってやるんだよ。”スカイアロー”」
アリスは手のひらをグレンに向けて魔法を唱える。瞬間、グレンは自分の顔のすぐ横に何かが通ったことに気づいた。しかし、状況は全く理解できず、先ほどの不可解な現象を確認するために、ゆっくりと振り返る。
――そこには、壁に深々と何かが刺さった跡が残っていた。
「な、なんだこれは?」
「見たらわかるだろ? ”スカイアロー”の跡だ」
グレンは驚愕の視線でアリスを見る。冗談かと思ったがアリスの目に嘘をついた様子は見られなかった。しかし、グレンは納得することができなかった。
「でも、おかしいだろ! だってお前は――」
「お前の常識を押しつけるな」
アリスが声を低くして告げる。
「嘘だと思うなら確認してみろ。俺の後ろの跡とお前の後ろの跡、同じだろ」
グレンは何度も確認するが、やはり、その後はどちらも同じようなものだった。
「そんな馬鹿な……」
グレンはありえないといいたげな表情をして、体を小刻みに震わせる。恐らくアリスが行ったことの異常さが理解できたのだろう。
確かに魔法を発動するためにイメージをすることは大切だ。しかし、せっかく発動した魔法も相手にばれてしまえば意味がない。アリスにとって指先を相手に向けるというのは理解できないことだった。
「そろそろ攻撃してもいいか?」
アリスの言葉にグレンは構える。恐らくアリスの使える属性は自分と同じ風で、さらに精度も自分より高いと予想していた。
しかし、アリスが使った魔法はグレンの予想とは全く違ったものであった。
「”ダークブラスト”」
「あ?」
全く予想が違ったことにグレンはふ抜けた声を出す。何故なら、アリスが使っている魔法の属性は風属性ではなく闇属性だったからだ。
アリスから放たれた漆黒の弾丸は今もなお、グレンに迫っている。
「ちいっ!」
グレンは真横に飛び、なんとか攻撃を避けるが、”ダークブラスト”の威力はすさまじいものだった。床はめくれ上がり、着弾点には大きな穴が空いていた。もし自分が巻き込まれていたらどうなっていたと考えるとグレンはゾッとする。
(ふざけるな! 上級魔法が使えるだと!? しかも闇属性も使えるなんて、とんだ化け物じゃないか!)
グレンは今更、アリスに決闘を挑んだことを後悔していた。一応、誰でも全属性の魔法を使えるが、ただ使えるというだけだ。扱えるというわけではない。しかし、アリスは中級魔法であればいくつか扱うことができた。その1つが”スカイアロー”であった。
上級魔法も今の1年生では使えないものが大半であろう。3年生でもランキングが上位のものしか使えず、教師でも使えない者がいるほどだ。アリスは特に苦戦する様子もなく使っているが上級魔法は本来、アリスの学年で使える魔法ではないのだ。これだけでもアリスが異常だということがわかる。
「もう終わりか?」
「ひいっ!」
アリスがゆっくりとグレンに歩を進める。グレンからすればアリスは自分を殺しに来ている悪魔のように見えているだろう。
「まだ精霊武装が残っているだろう? 早くそれで仕留めろよ」
(はっ! そうだ、俺にはまだ精霊武装が残っているじゃないか!)
ここまで追い詰められて忘れていたが、グレンは精霊武装があることに気づいて希望を持つ。
「……後悔するなよ」
追い詰められているはずなのだがグレンの瞳は自信に満ちあふれていた。アリスも精霊武装が使えるという可能性は全く頭にないようだった。
グレンはゆっくりと立ち上がり、精霊武装の展開を始める。
「”汝、我のために、我の矛となり、盾となれ”」
(さすがに詠唱破棄はできないか)
さっきも見ていたがグレンは詠唱破棄が使えないようだった。もっとも、使える者など、この国だけでも数えるほどしかいないが。
「”顕現せよ、我が契約精霊。オーフェル”!」
声高々に詠唱を終えたグレンの右手に精霊武装が現れた。
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