男装ホストは未来を見る

予測した未来と予測不可能の未来

未来のビジョンで瑞穂さんがいた場所は大きな橋の上。
もしかして瑞穂さん…やばい！急がなきゃ！

夜の路地をダッシュで抜け店近くにある大きな橋を目指す。

「あれは…」

大きな橋付近に近づくと橋の上に靴を脱いで瞼を閉じる瑞穂がいた。

やばい！時間が無い！

近道とばかりに遠くの階段を使い降りるのを諦め目の前のフェンスを飛び越える。

ストンッ

うっ…若干降りた衝撃で足痛いけど、今は気にしてる暇は無い！

小さな痛みを堪え今にでも飛び降りそうな瑞穂に向かって叫ぶ。

「瑞穂さ～ん！！早まっては駄目～～～！！」

その瞬間、せなの声が届いたのか瞼をあけて視線が交差する。

よし、今のうちに瑞穂さんに近づかなきゃ！

交差する視線をそのままに徐々に瑞穂に近づき距離が残り数歩のところで無言だった瑞穂の口が開いた。

「来ないでっ！」

その言葉に近づいていた足が止まる。

「瑞穂さん、このメモ帳に書かれていることを失礼承知で拝見しました」

瑞穂を追いかけているさ中、どうしようかと迷ったがメモ帳が鍵になるのなら見るしかないと考え中身を見ると記されていたのはバツ印で上から書かれた落ちたと思われる会社名百社以上があり、更に昔に進むと虐められていた職場での出来事が書かれてあった。

「っ…私の人生くだらないでしょ？」

「それを自分自身にずっと言い聞かせていたんだよね？」

「そうよ！でも、仕方ないじゃない！私は周りから見たらいてもいなくてもいい、いらない存在なの！だから私はこの世から消えなくちゃ…」

トンッ

再び瞼を閉じ足を一歩進める瑞穂にすかさず声を荒げる。

「いらない存在なんかじゃないっ！」

「…」

「瑞穂さん、日記には一番初めにこう書いてありました…” 輝きたい ”と！それは瑞穂さんの夢ですよね？だけど自分の存在を消され受け入れてもらえなくていつしかその気持ちすら失ってしまった」

「…そんなの昔の夢、たわいないただの夢よ」

「夢ってそんな簡単に気持ちが消えるようなものじゃない！今でも心の奥底で”輝きたい”って思ってるんじゃないか？」

「っ…そう思っても、もう遅いの！私にはもう死ぬ事しか…」

「遅くない！何事も夢を叶えるのに遅いことなんてない！」

「でも！でもどうしようもないの！どうすればいいか分からないの！それに、今更私を見てくれる人なんていな…」

「俺がいる！」

「っ…」

バタンッ

その瞬間、瑞穂は大粒の涙を零し泣き崩れ川の底の手前の瀬戸際の僅かな面積に座り込む。

「俺が見てる！ずっと瑞穂さんの事見てるから！だから、死ぬんじゃなくて生きて何度挫けても立ち上がればいい！それだけで瑞穂さんは輝いてる！」

「私…私…」

ズリッ

「えっ…」

その瞬間、僅かに出ていた足が面積からはみ出し瑞穂の体は川の底に向かって宙を舞った。

「危ないっ！！」

体は無意識に反応し手を差し伸べるように同じように橋から落ち宙を舞うと心は落ちていく瑞穂に向かって叫んでいた。

パシッ

瑞穂の腕を掴み力強く自分の方に引き寄せると宙を舞う中、瑞穂の体を強く抱き締めた。

やばい！落ちるっ！

気がつくと体は反転し真っ逆さまに川の底へと向かっていた。

「…せな！」

誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたかと思った瞬間、既に時は遅く深い川の底に人二人が落ちた瞬間だった。