男装ホストは未来を見る

Shell

文字の大きさ
44 / 108

縁側

しおりを挟む
無事に買い物を済ませ理沙達に別れを告げ買い物袋の上に布生地を被せて衣類を隠すと公衆トイレで着替えを済ませメイクを落とし男装するとバイト先である『Start』に向かった。

カラン…

「お!せな、ショッピング終わったのか?」

店に入るとフルーツ盛りを手に偶然入口前にいた隆二の姿があった。

「は、はい…」

思わぬ人の姿に先程のショッピングセンターでの光景が過ぎりぎこちなく返事をすると不審に思ったのかフルーツ盛りを手にしたまま顔をのぞき込まれ思わず一歩後ずさる。

「どうかしたのか?」

これさっきの事聞いてもいいのかな…?

迷った末に意を決して口を開く。

「あ、あの!さっきショッピングセンターで…」

「隆二さ~ん!フルーツ盛りまだすか~?」

話を切り出そうとした瞬間、突然タイミング悪く明の声が聞こえ言葉を飲み込む。

「今行く~!…星那悪い!また後でな?」

そう言うと隆二さんは踵を返しお客様の元へ戻って行った。

「はぁ…結局聞けなかった」

 *

それからというものチャンスがあれば隆二さんに聞こうとしたが尽くチャンスを逃し聞けずじまいに終わった。
バイト時間も終わり仕方なく帰り支度をして店を出ると入口付近に不審な影が見えた。

なんだろう…?まさか泥棒?ストーカー?

不審に思い影が見えた路地裏へ行くとそこには誰もおらず不審な人など何処にもいなかった。

「おっかしいなぁ…確かに誰かいた気がしたんだけどなぁ…」

首を傾げ誰もいない路地裏を見渡し呟く。

「まぁ、居ないならそれでいいけど…」

気を取り直し足を家に向け帰宅する事に思考を変えた。

 *

何事もなく無事に帰宅し、その後帰って来た隆二さんと蓮さんと豹と四人で夕飯を食べ先にお風呂に入り自室に戻ると色々悩んだ末にカツラとショッピングで買ったサラシ代わりのコルセットを身につけ隆二さんが居るであろうダイニングに向かった。

ガチャ…

「…ん?せな、どうかしたか?」

ダイニングには蓮の姿しかなく隆二や豹の姿はなかった。

「あの…隆二さんは?」

「隆二なら自室に戻ってるぞ」

「そうですか…」

蓮の言葉を聞き踵を返し隆二のいる部屋に足を向ける。

「あ!晩酌のツマミでも…」

ドアを閉める際に蓮の言葉が聞こえた気がしたがスルーしつつ真っ直ぐに隆二の部屋に向かった。

 *

コンコン…

隆二さんの部屋の前で足を止めドアを叩くと隆二さんの声が聞こえた。

「は~い!」

「あ、えっと…星那です」

その言葉にドアが開くと隆二さんの姿が飛び込んできた。

「せなが部屋に来るなんて珍しいな…どうした?何かあったのか?」

「え、いやあの…聞きたい事がありまして」

おずおずと口を開き言うと、隆二さんは一瞬悩んだ顔を見せるがすぐに笑顔に戻り口を開く。

「話なら中で話すか?ちょうど縁側で晩酌してたんだがしながらでもいいなら…」

「全然構いません!ただちょっと聞きたい事があっただけなので…」

「そうか、なら中で話すか…」

部屋に通され中に入るとシンプルな白と青を基調とした一般男性の部屋に半ば緊張しつつすすむつ薄ら開いた窓が見え縁側らしき場所に焼酎瓶と一緒に氷入りのガラスコップと小皿に乗せられた煮干しがあった。

ガラッ

「風が気持ちぃ…」

窓を開けると冷たい夜風が頬を擽り焼酎ビンの隣に腰掛ける。

「あんまり涼しいからって夜風に当たりすぎると風邪引くから気をつけろよ?」

「分かってま~す」

苦笑いを浮かべる隆二を他所に夜風を満喫しつつ本題であるずっと聞きたかった話を切り出す。

「あの…今日ショッピングセンターで隆二さんと女性の人の姿を見かけたんですが…失礼と承知で聞きますが!どんなご関係で…?」

恐る恐る質問すると最初は驚いた顔をしつつすぐに困った顔で重々しく口を開く。

「んー……元カノ」

「え!?」

えっ…じゃあ、あのショッピングセンターでの出来事って修羅場だったんじゃ…

思わぬ真相に驚きを隠せないでいると隆二さんは苦笑いを浮かべながらおもむろに口を開く。

「…真希とはもう終わったんだ」

「真希さんって言うんですか?元カノさん」

「ああ…真希は昔店に来ていたお得意様でその接客についていた縁で1ヶ月だけ付き合う事になったんだが…」

「1ヶ月だけ?」

「真希は家柄がいいお嬢様で1ヶ月後には親が決めた相手とお見合いする事になってたんだがそれまで自由な恋愛をするためにその相手として付き合う事になって…だが、最初はホストの仕事だけの関係だったんだがいつの間にか本気になってしまって気づいたら引き返せないでいた。それでも1ヶ月限定なのは変わらずに1ヶ月になった日に真希は俺の前から姿を消した」

「お見合いからは逃げられなかったって事ですか?」

「相手は親同士の仕事関係のための金持ちでそのお見合いから逃げ出すのは不可能に近かった。だが、真希が姿を消して一週間後に街中で真希と見合い相手だと思われる男の姿を見て俺の中で別れるケジメがついた。真希の顔は幸せそうでもう俺が入る余地などないと思ったんだ…」

「隆二さんはもう真希さんを愛してはいないんですか…?」

「今でも愛してないと言えば嘘になるしだからと言って愛してるといえばそれも違う気がする…正直、昨日突然現れた真希に気持ちが混乱している。だけど結婚するっていう真希とただのいちホストの俺が会う事は駄目だと思い半ば強引にも突き放したんだ」

「だからあの時あんな事を言ったんですね…」

もう顔を見たくないと言ったのは隆二さんにとって本心じゃなかったんだ…

その事にいつもの隆二さんの優しさを感じ心無しか安堵した。

「でも、もう本当に終わった事だ!せなにまで心配かけてすまないな?」

「いえ、俺の事は全然大丈夫なんですが…そこまで本気に愛してたのにこのままでいいんですか?」

「客のために恋人のフリをするのはホストの仕事ではよくある事なんだがそれを本気になるかならないかはそのホスト次第…結果、本気になってしまった方が負けるんだよ」

「それもそうですがでもっ…」

反論しようとしたがそれを遮るように隆二さんの手が途上に乗せられ髪を撫でると笑顔で話を続けた。

「せなもホストの一人なら仕事で本気になるような事はするなよ?」

そう言った隆二さんの表情はどこか辛く悲しそうでそれ以上何も言えなかった。

 *

隆二さんの部屋を後にし自室に戻って行くと中で先程の隆二さんの表情が頭から離れずにいた。

「本当にこのままでいいのかな…?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...