男装ホストは未来を見る

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雨のち傘

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真希さんが飛び立った後、隆二さんは変わらずいつもの優しいお兄さん的存在としてホストとして働いていた。
だが、少し変わった事といえばたまに真希さんと友達として連絡を取り合い一番多く連絡を取り合っているのは実の所は私の方だった。
真希さんからどうしても友達になりたいと言われ連絡先を交換し今ではメル友になっている。
そして、メールや電話のやり取りをしている内に真希さんから私が本当は女だとバレていた事を知り観念して事情を話すと隆二さんを含め周りの人達には言わないと約束をしてくれてその代わり私の味方になると言ってくれた。
本当に優しすぎる頼れるお姉さんみたいで益々真希さんを好きになったのだ。

「今日も雨だね…」

怒涛の五月もあっという間に過ぎ梅雨の時期の六月に入ると毎日のように降り続く雨に憂鬱な気分になっていた。
放課後、教室の窓から見える止む気配のない雨に肘をつき眺めながら隣にいる理沙に呟いた。

「まぁ、梅雨の時期だからね…星那は傘持って来た?」

「それが天気予報見るの忘れて朝行く時に降ってなかったから持って来なかったんだ…」

少し寝坊した朝のバタバタ振りを思い出しながら苦笑いを浮かべる。

「仕方ないなぁ…これが終わったら傘入れてあげるから一緒に帰ろ?」

「ありがとう理沙!」

理沙のいう”これ”とは先生に頼まれ今度一年生が明日行くという林間合宿のしおりだった。
普通なら一年生自ら作るしおりなのだが配るのを忘れて慌てた先生がたまたま教室にいた私達に半ば無理矢理押し付けていったのでやらざる負えなくなり現在二人でしおり作りの最中である。

「林間合宿かぁ…私達も一年生の時行ったよね」

しおりを作りながら二年前の林間合宿の出来事を思い出しふと呟く。

「うんうん!女湯で星那の体見たさに男子達が覗き見しようとして先生達に怒られた女湯事件に夜中先生達にバレないように就寝時間過ぎて女子同士で話してたらお化けらしきポルターガイストが起きたお化け事件に皆で山頂を登って頂上の景色を見た思い出も全部全部すっごく楽しかったなぁ…!」

理沙の嬉しそうに二年前の林間合宿の出来事を語る姿にふと思った事が漏れた。

「また山登りたいなぁ…」

ドンッ!

「行こうよ!皆で山登り!」

「へ?」

勢いよく机を叩き立ち上がった理沙の言葉に唖然とするとキラキラに輝く目で真っ直ぐに再度口にする。

「だから!今週の土曜日まひるや宮端くんや寧々ちゃんやひのちゃん皆誘って山登り行こう!合宿は出来なくても近くの山ぐらい登ることは出来るでしょ?」

「そ、そりゃあ山登りぐらいなら可能かもしれないけど今週って…あまりにも急すぎない?それにまひるとかならまだしも豹が一緒に行ってくれるとは限らないし…」

また”ダルい”や”めんどくさい”って言って行きそうにないしなぁ…

必要最低限のこと以外は自分に利益がない限りやらない豹の事を思いながらそう口にする。

「ふふ~ん…豹くん抹茶好きでしょ?」

「え?そりゃあまぁ、よく抹茶のスイーツとか食べてるの見た事あるけど…」

「この近くの翔星山の休憩スポットに最近ネットで騒がれている『翔星茶屋』の抹茶のアップルパイがあるの!だから豹くんもこれに食いついて行ってくれるはず…ふふふっ」

たくらみ顔の理沙に若干顔を引き攣らせつつのってくれるか分からない豹の事を思った。

まぁ…あまり期待はしないでおこう。

ブーブーブー

理沙の携帯が鳴り見るとみるみる青ざめる理沙の姿があった。

「あ、忘れてた!今日道場任せられてたんだった!ごめん星那!あと任せていいかな?」

「そういう事なら仕方ないよ、あとは私に任せて早く道場に行ってあげて?」

「ほんっとごめん!今度お詫びするから…!」

笑顔で理沙を見送ると再度残ったしおりを作る作業に取り掛かる。

よかった、バイト少し遅れるって言っておいて…

 *

しおり作りが終わり先生に届けて靴箱に向かうと未だ降り止むことのない雨が見えた。

「どうしよう…理沙帰っちゃったし傘ないしこのまま濡れていくしかないのかな?」

諦めに似た気分で靴箱に手をかけると靴の上に折り畳み傘と小さなメモ用紙が入っていた。

「何で傘が…?」

上にあるメモ用紙を取り出し開くと”後で返せよ”と一言だけ書かれた豹の字があった。

「ふふっ…本当わかんない人」

優しいと思えば冷たい言葉で気づつけて冷たいと思えば小さな優しさをくれて…どれが本当の豹なのか分からないけどきっと全部が豹なのだと思った。

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