男装ホストは未来を見る

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書斎の秘密

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「…お~い!せな~!」

「…ん?あ、ごめん!もう入る時間か…」

…バタン

何処か上の空のままおぼつかない足取りで休憩室を出ていった星那の様子に明は首を捻らせているとソファの上で携帯を見ていた豹が口を開く。

「…昨日からずっとあんな感じだから気にするな」

「お、おう…」

気にするなって言ってもせなの奴仕事以外の休憩時間の時はずっと何処か上の空だし…

いつもと違う星那の様子に明はどうしても気がかりでならなかった。

 *

その日のホストの仕事が終わりダイニングにて星那・豹・蓮・隆二の全員が寛いでいた。

「せな、何見てるんだ?」

テレビの前で体操座りをしている星那に隆二が声をかける。

「…テレビ見てる」

「はぁ…」

特に変わりのない返答に溜息をつくとそれを見ていた蓮が星那に問いかける。

「せな、もしかして好きな奴とか出来たりしたのか?」

「好き?…そうかも」

ガタンッ!

星那の気の抜けた言葉に隆二・豹の約二名がその場からよろけた。

「え!?本当に好きな奴いるのか?」

動揺する二人を他所に驚いて蓮が星那に詰め寄る。

「さぁ…」

「は…?」

先程の答えは何だったのか?とも言えない返答に聞き出した蓮ですらズッコケるが、その返答に安堵したその他二人は体制を立て直す。

よかった…適当に返答しただけか

隆二が心の内で安堵の言葉を漏らす中、星那の心の内はというと…

昨日会った高坂さんの事ずっと頭の中を回ってるんだよね…好き?とかじゃないと思うんだけど顔が誰かに似てて気になってるんだけど…ん~…分からない!誰だっけなぁ…?

すると不意に隣に蓮がいる事に気づき無意識に蓮の頬に両手を伸ばす。

「蓮さん…」

「ん?は、えっ…!?せ、せな!?」

ムニッ

頬を両手で抓りながら星那の頭の中には昨日会った高坂の顔を思い浮かべていた。

蓮さんの顔って…高坂さんに似てるなぁ…ん?似てる?

その考えが頭に浮かんだ瞬間、つねっていた両手をピタッと止めるとそれと同時にインターホンが鳴った。

ブーブーブー!

「誰か来たみたいだな?」

蓮は止まった星那の両手をそっと外すと玄関先まで歩き鍵を開けドア開くとそこには会いたくもない人物の姿があった。

「兄さん…」

「椿…」

それは何年も会っていなかった実の弟である椿の姿だった。

「お邪魔するよ」

「お、おいっ…!」

顔を見るなりズカズカと中に入って行き慌てて追いかけるとダイニングに入った椿の姿に驚く皆の姿があった。

「あ、お邪魔してます…蓮兄さんの弟の椿です」

椿は顔色一つ変えずにさらりと自己紹介をすると小さく会釈した。

「あ、えっと…同居してる蓮とは同僚の隆二です」

「同じく同僚で後輩の豹です…」

動揺しながらも二人が自己紹介する中、星那はというと何が何だか分からないほどに混乱していた。

「あれ?君は…」  

テレビ際にいる星那の姿に昨日会った高校生である少女の姿を思い出し驚いた声を漏らす椿にすぐ様危機感を感じ慌てて名乗る。

「あ、えっと…同じく同僚で後輩のせなといいます!」

「えっと…美嶋さんだよね?昨日図書館で会った…」

「は、えっと…はい」

少し頭を悩ませた折に正直に答える事にした。

ここで違いますなんて言っても名前を知ってるのにすぐバレるよね…

「美嶋さんも兄さんと同僚だったんだ…ん?あれ?でも女性はホストなんて無理なんじゃ…」

「あ、えっと…実は男なんです」

「え!?でも女性の格好…」

「事情があってメイドカフェのバイトもしてまして…それで女性らしさを学ぶため時折女装してるんです」

くっ…苦し紛れみたいな話だけどこれしか浮かばないし…どうか信じて!

内心焦りまくりの状況に冷や汗が頬を伝うと、願いが届いたのか椿は納得した顔で頷いた。

「なるほど…大変だね」

「ま、まぁあ…それなりには」

はぁ~…良かった

首の皮一枚繋がった感覚に内心安堵する。

「お、おいっ!椿!お前がなんでここにっ…!?」

「それは勿論、兄さんの説得と書斎から兄さんの絵を持ち出すために決まっているだろ?」

「なっ…俺は式典には行かないと断ったはずだ!それに絵なら俺のじゃなくお前の絵があるだろ!俺じゃなく椿が後継者なんだから…」

えっと…頭混乱しすぎて気づかなかったけど、高坂さんのお兄さんが蓮さんって事はサラブレッド兄弟でありデザイナーの高坂 道天さんの息子さんって事だよね?…って事はめちゃくちゃお金持ち!?

思わず蓮の顔を凝視し益々驚きの顔で見つめる。

「兄さんの気持ちなんてはなからと関係ないんだよ。これは父さんの指示で俺はそれに従ってるまで…分かったら書斎に入らせてもらうよ」

「っ…」

その言葉に苦虫を噛み潰したような顔で言葉を無くす蓮を他所に椿は真っ直ぐにダイニングを出て書斎の部屋に向かって行った。

ガチャ…

「書斎っていったい…?」

星那が疑問の声を蓮に向けるのと、蓮は同時に慌てて椿が向かった先へと走り出していった。

「あ、待って!蓮さんっ…!」

蓮の跡を追うように星那・豹・隆二も跡を追いかけ着いた先は前に星那が間違えて興味本意で覗いた書類が散乱していた部屋だった。

キー…

中を除くと相変わらずの散乱状態の書類の中で美しい女性が描かれた額縁入りの絵を持つ椿とそれを止めようとする蓮の姿があった。

「駄目だ!お前にも父さんにもこの絵を渡すわけにはいかない!俺は自分の絵を表に出す気はない!」

「兄さん、これは兄さんのためでもあるんだ!俺は今でも後継者を降り兄さんになって欲しいと思ってる!」

え!?蓮さんが後継者!?

思わぬ椿の言葉にドアの隙間から覗いていた三人は益々動揺する。

「俺はあの時自ら後継者を降りた…今更後継者になる気もないし父のくれたあの場所に戻る気もない!」

「兄さん…それじゃ人生を棒に振るのと一緒だよ!それに俺なんかより兄さんの方が才能があるのは俺が一番分かってる…だから後継者は兄さんしか」

「椿!俺は椿の方が後継者に向いてると思ったから自分のやりたい事をするために安心してお前に任せたんだ!お前以外に後継者は考えられない」

「…分かったよ、後継者の件は諦める。だが絵は父さんも姉さんも諦めてないから後日姉さんから何かしら連絡が来ると思うから覚悟してて…それと式典は父さんの顔のためにも絶対出て欲しい」

「椿…」

重々しい面持ちで言う椿は絵を蓮に押し付けゆっくりと部屋を出ると真っ直ぐに玄関に向かい去って行った。

「蓮さん…」

残された蓮の辛そうな顔をドアの隙間から覗きながら静かな部屋に心配する声が響いた…






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