男装ホストは未来を見る

Shell

文字の大きさ
93 / 108

銀髪の青年

しおりを挟む
「…んっ」

意識が戻りゆっくりと瞼を上げると目の前には真顔で覗き込む豹の姿があった。

「気がついたか…」

「…えっち」

何でもないように問いかける豹にムカつき睨みながら悪態をつく。

「っ…なんとでも言え!俺だって何であんな事したのか分からないんだっつーの…」

ふいっと真っ赤になりながら顔を背け言う豹にこっちまで頬が赤く染まる。

「っ…何それ!意味わかんないっ…!」

豹の顔から視線を逸らすといつの間にか浴衣姿になっている事に気付き思わず両手で自身の体を抱き締める。

「ちょっ…何で浴衣に…!?」

「仕方ないだろ…いつ誰が入って来てもおかしくない状況な上に意識の無いお前をそのままには出来ないからな」

「うっ…確かにそうだけど」

ピチャッ!

「冷たっ!」

すると頬に冷たい何かが触れ見ると冷えたペットボトルの水があった。

「これでも飲んで体冷やせ…」

「あ、ありがとう…」

戸惑いながらも受け取り起き上がると豹は立ち上がり自販機の方へと歩いていった。

もしかして私の分だけ…?いやいやいや、あんな事した豹なんか許さないんだからっ!

一方、自分の分の水を買うため自販機に向かった豹は… 

「クソッ…!」

ドンッ!

通りすがりの何もない壁右拳で叩きまだ乾ききっていない髪から雫が落ちる。

『…心を捨てろ』

その瞬間、脳内に浮かぶその言葉に唇を噛み締め無表情に戻ると再度自販機へと足を進めた。

 *

ゴクゴク…

「ぷはぁ…生き返る」

ベンチの上で貰った水をかぶ飲みし通りすがる人々を見ていると入口の方から浴衣姿で歩く小柄の銀髪の青年が近づいてくるのが見え凝視していると青年は通りすがる事もなく何故か隣に腰を下ろした。

え…?

不思議に思いマジマジと見ているとそれに気づいた青年は振り向き邪険そうな顔で見ると口を開いた。

「…あんたって本当に馬鹿だよね」

「は?何、急に…」

「宮端 豹…」

「豹…?」

「そいつの事、あんたはどれくらい知ってるの?」

「は?どれくらいって…豹は一応友達だし…それなりには知ってるけど」

「はぁ…あんたが本当に馬鹿なのが分かった。俺から特別に忠告してやるけど、あんまそいつに入れ込み過ぎると馬鹿を見るから気をつけな?」

「気をつける?どういう事…?」

「今、聞かなくてもいずれ分かるんじゃない?あんたが全て思い出した時か、もしくは…」

銀髪の青年は最後まで言う事はなく顔を背け立ち上がろうとした瞬間、腕を掴み引き止める。

パシッ

「待って!もしかして豹の事知ってるの…?」

するとその言葉に銀髪の青年は振り返り顔を近づけると不敵な笑みで言い放つ。

「知ってたら何?そいつの事を聞いてどうするの?言っとくけど、俺は知っててもあんたみたいな得体の知れない奴に教える気はないから…バケモノさん?」

「っ…」

すると顔を離し銀髪の青年は再度自販機の方へと歩いていった。

「バケモノ…」

消えていった自販機の方を呆然と見つめながら、脳内では銀髪の青年が言い放った最後の言葉が離れなかった。








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...