男装ホストは未来を見る

Shell

文字の大きさ
106 / 108

愛してる

しおりを挟む
いつもと違う悲しげに揺れる豹の黒い瞳を真っ直ぐに見つめる私…なのに何処か切なくて苦しい…これは夢?いや、未来なのかな?どっちか分からない感覚を他所に目の前の私は何か言っている…それは…

「んっ…豹…?」

気づいた時にはそれが夢なのか未来なのかという事よりもいつの間に自室のベッドの上にいるという事よりも、目の前で真っ直ぐに鋭い瞳で見つめている豹の姿に惹き付けられた。

冷たい…悲しい…苦しい…

そんな表情をする豹に私は何も出来なかった。否、出来るはずもない。喉元に鋭く光る細い刃物が向けられていたのだから…

「な…んで……?」

何で?どうして?そんな疑問の言葉しか出なかった。

「これが俺とお前の宿命だ」

こんなに冷たく悲しい目をする豹を私は知らない…そう、何も私は豹の事を知らない。じゃあ、これが本当の豹なの?今までのは全て嘘だったの?

「私に…キスしたのも嘘だったの…?」

「っ……」

声に出すつもりはなかった。ただ心の中で出す声がいつの間にか言葉として声に出ていた。

豹の冷たく見つめる瞳が微かに揺れるとその瞬間、蓮さんと隆二さんの叫び声が響いた。

ドンッ!!!

「せな…っ!!!」

「豹!お前何してんだっ!?」

突然の事に戸惑い豹はあっという間に蓮さんと隆二さんによって引き剥がされ拘束され刃物が床に落ちる音がした。

「あ……」

普通ならここで怖がるなり震えるなりするんだと思う。でも、不思議と恐怖感など湧かなかった。だって、何よりも豹が悲しそうだったから……

「せな、来るなっ!」

「せなっ!!」

必死に止める蓮さんと隆二さんの声が響くけど私は足を止めなかった。ベッドから起き上がり入口近くで拘束されている豹に近づき目を合わせる。

「豹……」

「来るなっ!!」

「っ…」

鋭く突き刺すような瞳が真っ直ぐに見つめ返され拒絶する言葉が返された。でも、それは本気で嫌で拒絶する言葉ではなく私の為に言っている様にも感じられた。何故ならそう叫ぶ豹の表情には辛そうに見えたから。

本当は…?本当の豹の気持ちは…?私はこれが本当の豹だって信じない。だって、あの時言ったんだもん!豹をって…!

「……私まだ貰ってない」

「え……っ…」

豹の言葉を塞ぐようにそっと触れた唇は初めてのキスより熱く感じた。

「…私が一番欲しい物あげるって言ったでしょ?…嘘つき」

「っ…俺は…」

「私はっ!私は豹を信じるから…っ!!どんなに拒絶されても邪険にされても離されてもいい!豹が私の事嫌いでもいい!それでも私は豹の傍に居たいのっ!それくらいもう…豹のこと……」

不意に頬をつたる涙が零れながら私は無我夢中で叫んだ。それくらいもう豹のことを……

「……愛してる」

「っ………」

豹の頬にそっと手を伸ばし触れると涙と一緒に笑みが零れた。

私は…豹を愛してる…だから何があっても私は豹を信じる。そう決めたから…

豹の瞳が大きく揺れ一瞬驚いた表情が見え直ぐに苦しげな顔で私を見返すと重苦しく口を開いた。

「……俺は…」

バァンッッ!!!

「きゃっ!?」

突然窓ガラスが割れ黒い服を着た男達が五人程入って来た。

「しくじったな、豹」

「くっ…お前ら…」

…え?豹の知り合い?

突然の事に何が何だか分からず私を含め蓮さんと隆二さんも固まっていた。

「この後、自分がどうなるかぐらい自分で分かるよな?」

「ああ、分かってる」

豹は苦虫を噛み潰したように顔を拒めると諦めたようにゆっくりと頷いた。

「蓮さん、隆二さん……すみません」

「くっ…」

「なっ…!?」

豹は一瞬にして拘束していた蓮さんと隆二さんの腕を振りほどくとあっという間に黒い服の人達の元へと立っていた。

「せな……俺はお前が嫌いだ。だからもう……好きになるな」

背後にある窓越しに輝く満月が豹を包むように照らし艶やかな茶髪が儚く揺れると冷たく突き放すような言葉だけが嫌になるくらい耳に響いた。

「…っ……あ…」

何も言えなかった…黒い服の人達と共に一瞬にしてその場から消えた豹に私は何も出来なかった…

「せな…?」

隆二さんの問いかける声に何も答えることなく、私はただ頬を伝う涙が冷たくて…最後に残った豹の言葉が胸を締め付けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...