モブキャラCの私は乙女ゲーム世界で助言役を勝ち取りました

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一章 幼少期編

少年、それは違うんじゃないか?

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一人時計に没頭する小豆から目を離し隅の方で並んで座る凌牙と苺を見つめた。

「りょうがくん、大丈夫?」

「何が?」

「その…あずきちゃんからどっか行けだなんて言われて落ち込んでないかなって」

「余計なお世話」

「だ、だよね…ごめんね」

凌牙少年の冷たい言葉に悲しげに落ち込む苺の姿が見えた。

それでもめげないのがヒロインなんだよね

そう、私は知っている。どんなに攻略対象者であるイケメンが冷たい態度をとってもヒロインである苺は折れずに近づくのだと。

「お前、早くどっか行けよ。邪魔」

「う、うん。でも、ゲームの邪魔はしないように静かにしてるから一緒に居てもいいかな?」

「好きにすれば」

「うん!」

ほらね、結局ヒロインである彼女からの言葉は攻略対象者である彼らには勝てないのだ。

「……」

「っ…」

それから無言な空気が流れつつもゲーム機を覗いては百面相を繰り広げる苺に気が散り苛立ちを隠せないでいる凌牙少年が数分の無言の末に口を開いた。

「おい、気が散るんだけど」

「へ?私、ずっと話してないよ?」

「話してなくても隣で変顔されるだけで気が散るんだよ!このブス!」

「え…」

あ~あ、凌牙少年やっちゃったな…

こうなったらどんなヒロインであっても女の子である以上心は折れるだろう。

「…私…私…ごめんなさいっ!」

「あ…」

案の定、涙目のまま逃げ出し小豆に泣きついていったヒロインに同情の眼差しを送りながらも一人残された凌牙少年に視線を向ける。

はぁ…仕方ない、これはただの助言だからね?

自分の発言に後悔したのかどうしたらいいか分からないといった顔をする凌牙少年に親切心が動き近づく。

「謝るなら今だよ」

「は?誰?」

そうきたか、いや分かってたけども!

「ただの助言者だよ」

うん、助言するだけだから!あくまで!

「助言者?」

「私の事はいいんだよ。それより苺ちゃんに言った言葉、後悔してるんでしょ?」

「それは…」

言い淀む凌牙少年の横に腰を下ろし更に問いかける。

「冷たくするのは結構!でも、少しは優しくしないと嫌われるよ?」

「っ…」

冷徹な性格は乙女ゲー設定なのだからどうしようもない。だが、いくらキャラ設定だとしても一人の人間には変わりないのだ。後悔する事もあるし、悪いことをしたら謝る事も出来る。だからこそ、変わらないでいいから設定ではなく一人の人間として凌牙少年も生きてほしい。ここは乙女ゲーの世界である以前に現実なのだから…

「次に移す行動は?」

「これ持ってて」

持っていたゲーム機を受け取ると凌牙少年は泣いている苺へと駆け寄って行った。

「いちご!」

「…ふ…ぇ?」

「その…さっきは!ご…ごめん」

耳まで真っ赤にしながら謝る凌牙少年に苺も含め姉である小豆すらあんぐり顔で見上げていた。

「あんた、熱でもあるの?」

「うるさい!お前に関係ないだろ」

するとその言葉に火がついたのか姉弟喧嘩をし始めた二人にそれまで黙って見ていた苺が吹き出した。

「ふふっ、謝ってくれてありがとう!りょうがくん!」

「べ、別に…仕方なくだ」

あからさまに照れている凌牙少年を遠目に私はゲーム機を床に置き窓から手を振る母へと駆け寄った。

「桃ちゃん!」

外に出た途端、母からの抱擁に苦しめられながらもどこか安心感が湧く。

うん、私はやっぱりここが定位置だ

その後、先生に見送られながら母と一緒に帰ったのだった。

 *

「あれ?あの助言者どこいったんだ?」

ゲーム機だけ残された状況に凌牙は当たりを見渡すものの銀髪の少女の姿はなかった。

「何だったんだ?あいつ」

その時、凌牙少年の中には先程の助言者と名乗る銀髪少女の姿が頭の中をグルグル回っていた。

「…明日また会えるからいっか」

だが、その気持ちはその時だけのものとなったのだった。
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