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二章 《林間合宿編》

熱を帯びた湖は冷たい氷の戦場とかす

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「まったく…何でこいつはこんなにもアホなんだ。勝手に言いたい事言って勝手に俺の前で落ちやがって!」

湖を泳ぎながら腕の中にいる桃に対し心配と怒りが入り交じっていた。

「はぁ…はぁ…‥おい!目を覚ませ!アホ!」

岸辺きしべまで何とか辿り着き桃の体を揺さぶるが目が覚める気配はなかった。

「チッ…こうなったら人工マッサージしか……あー!こんな時に小さな事で迷ってられるか!絶対目を覚ませよ!」

 *

暖かな光の中にエプロン姿の黒髪女性がいた。

あれは…‥

「…お母さん‥?」

そこに居たのは間違いなく桃の母。昔の頃の母だった。

「あら桃ちゃん!起きたの?」

「起きた?」

私、寝てたんだっけ?

「まだ寝ぼけているのね。早く顔洗って目を覚ましてきたら?」

「うん、そうする」

まだふわふわする感覚に足もおぼつかないまま洗面所へと向かう。

この時の母はちょうど父が出て行った後だったんだよなぁ…お世辞でもいいとは言えない古びたマンションに引っ越して母一人子一人の生活が始まって経済的にもギリギリだったけど毎日母との小さな出来事が幸せでずっとそれが続けばいいって…‥そう思って……‥あ…‥

洗面所の前まで何とか辿り着いた拍子に不意に頬に伝う涙に気づき足を止める。

「何で涙なんか…?」

続けばいいって思う幸せなんてずっと続くわけない。頭では分かっていてもそう願わずにはいられなかった。それは母も思っていた事。期待しても壊れる時は壊れ失くなる。それでも、そう分かっていても諦めないで頑張る人を私は知っている。それは…‥

「…‥‥お…‥‥…っ…」

え…‥?

「…‥‥起きろ…っ!」

誰…?

「起きろっ!桃!」

「ゴフッ!?ゴホゴホゴホッ!!!」

聞こえてくる声に重いまぶたを開けると必死な顔で呼ぶ鳳梨 グアバの顔が飛び込みそれと同時に口から水を吐き出した。

「はぁ~~~~…‥まったく、貴様はどこまで世話を焼かせれば気が済むんだ!」

「すみません…助かりました。ありがとうございます」

何故か背を向け体育座りで怒りをぶつけるグアバを不思議に思いながらも素直にお礼を述べた。

それより、さっきこの人私の事を桃って言ったような…?

「あの会長」

「何だ?」

「さっき私の事を桃って言いませんでしたか?」

「なっ!?そ、そそんな事俺様が言うわけないだろ!アホ!」

「そうですよね」

うむ、きっと気のせいだ。んー、でも湖におぼれて気を失っていた私をどうやって助けたんだ?私が会長の立場ならまず人工マッサージでしょ?次に人工こ…‥

「か、かかか会長っ!」

「次は何だ?」

「私を助ける為にまさか人工呼吸とかしてませんよね?」

「そ、それは…‥‥き、気にするな。ただの治療だ。カウントはされん!」

耳まで真っ赤になって言ってる人が言っても説得力がないんだけど…っていうかまさか会長もファーストキスだったりして?いやいや、ヒロインとの関係がうわさになるくらいの人だよ?ないない。それはない。

「会長、まさかとは思いますけどファーストキスだったりしませんよね?」

「そ、それは…」

「星七さんとの関係が噂になるくらいですもん。それはないですよね。すみません、冗談でもそんな事を聞いてしまって」

「うるさいっ!初ちゅーでも何でも構わんだろうが!助かったんだから一々細かい事を気にするな!」

あ、図星だったか

「そうですよね、もう言いません」

これ以上掘り下げたら彼のわずかなプライドが粉々に砕け散り灰になって消える気がしたので止めることにした。

「…き、貴様はどうなんだ?」

「は?」

「だからっ!貴様はどうなんだと聞いているんだ!?」

自身は何だって構わない、細かい事は気にするなとか言ってたのに私の事は気にするっておかしくないですかねグアバさん。

「はぁ……会長」

「何だ?」

「そんなんだから星七さんに振り向きもされずちゅーもまだないんですよ」

「なっ!?それとこれとは関係ないだろ!」

「いやいや、そうは言ってもですね…ハッ!クシュンッ!!!」

言い返そうと言葉を並べるが夜中のびしょ濡れ状態の体のせいで寒さもともないくしゃみが出た。

「あ、すまん。先にタオルを持って来るべきだったな」

「いえ、会長が気が回らない程のダメ男なのは知ってますのでお気にせず。会長も濡れている事だし、ここは私が持ってきますから会長は大人しくここで…」

「待て」

早々にタオルを取りに行こうと足を向けたと同時にプルプルと震えた手が腕を掴む。

「お、俺が行く」

「でも、会長もびしょ濡れなんだからここは私が行った方が…」

「貴様はダメだ!」

「え、何で?」

「貴様はその…‥目のやり場に困るからだっ!」

「は?」

グアバの言葉に私の脳内は一時フリーズした。

目のやり場に困る?・・・

「うひゃっ!?」

視線を下に巡らせるとびしょ濡れのせいで中の下着がけて見えていた。

「か、かかか会長!一体どこ見てるんですか!?このヘタレ変態!!!」

「馬鹿言え!見たくて見てるわけあるか!見たくなくても見えてるんだから仕方ないだろ」

「まぁ確かに、真っ赤になりながら後ろ向いて必死に見ないようにしているうぶな会長がそんなよこしまな行動ありえないですよね。ましては私になんかないですよね」

「あ、当たり前だ!お前の体など微塵みじんも興味ない!」

それはそれで少し傷つくけど…ま、いっか。ヒロイン一筋じゃなきゃ私が困るし。

「じゃあ、会長に任せます」

「ああ。大人しくそこで待っていろ」

「はい」

そう言って、びしょ濡れ状態の会長を見送ると私は少しでも寒さをなくすように体を抱き締め体育座りをすると湖を眺めぼーっとする事にした。

「はぁ‎~~~…‥ある意味これって死亡フラグだったんじゃないか?ん~、まぁ助かったしよしとするか」

助かったのだから全てよしとそう自分に言い聞かせていると後ろのしげみの方から誰かの声がした。

「…待って!」

女性の声?

反射的に身を隠そうと草木に身を潜めるとその誰かの声に聞き耳をたてる。

「待っててば!りょんくん!」

りょんくん?

「煩い、離せ」

この冷た過ぎる言い方ってもしかして…

「いいじゃん!皆いないんだし」

「いなくても不愉快だ。苺」

やっぱりか~~~~!

その正体は甘ったるい声の持ち主のヒロインこと星七 苺と冷たく突っぱねる冷酷男こと桜桃 凌牙だった。

こんな夜更けに2人っきりでなんて何かあるとしか思えない。林間合宿で桜桃 凌牙のイベントなんて明日の就寝前におきる誘うキスしかな…‥

「りょんくんこっち向いて?」

「だから、何度も…んっ……」

そのキスイベとやらは今目の前で起きているものだと私は身をもって経験した。

あー、どうしよう。まさか目の前でキスシーンを見ることになるなんて…‥こんなのあのヘタレ王子が見たら大変な事にな…

バサッ…

何かが落ちる音に思わず身が強ばり恐る恐る横を見ると物陰に棒立ちで固まるヘタレ王子こと鳳梨 グアバがいた。

なんてバットタイミングなんだ…‥























    
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