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二章 《教育編》~夏の誘い~

テスト期間開始

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「嘘…………お……落ちた‥」

目の前のまさかの現実にその場で呆然ぼうぜんと固まった。

時をさかのぼること一時間前~

四時間目に行われる見るからに堅物な男性教師が担当たんとうの理科の授業は何故か担任たんにんの棗 杏子の登場により話は一変した。

「何で棗先生ー?」

「まさか間違えて来ちゃったとか?」

「あはははっ!それめっちゃありえるー!」

「もうっ!そんなんじゃありませんってば!先生は皆にプレゼントをしに来たのです!」

「”プレゼント!?”」

”プレゼント”という聞くからに期待があふれる言葉に生徒一同が期待の眼差しを向けたがそれは直ぐに絶望の眼差しへと変わる。

「じゃじゃーんっ!皆大好き抜き打ちテストです!」

”大好きじゃねーよ!”と心の中で誰もが突っ込みを入れ一瞬にして絶望の眼差しへと変わったのは間違いないだろう。例として私がそうだ。

「えー!抜き打ちテストなんてやだー!」

「こんなプレゼントいらねー!」

「こらこらっ!抜き打ちテストというものは日頃授業をちゃんと聞いてるか聞いてないかというのが分かるものなんだから不満を言っちゃメッ!だよー!」

なんと言う説得力にかけるさとし方だ

あきれた視線を棗 杏子に送りながらも内心では少し不安がつのっていた。不安の一番の理由としてあるのは”抜き打ちテスト”という期末テストが一週間後に始まるという合図のようなものなのだがその間でもイベントは行われる……が問題はそこじゃない!問題は最近乙女ゲー関係者達への助言役に気をまわしすぎてあまり勉強が出来ていない気がする事だ

もし成績落ちて期末テストで赤点取るような事があれば……ひっ!?ダメダメ!つい嫌な未来予想図が浮かんだ‥‥

最悪な事態が頭を過り身震いしたがすぐ様嫌な予想を打ち消すように頭を振った。

だけど、不安として二番目にあるのが……

「あっ!そうそう、抜き打ちテストで赤点取った人は罰として今日の放課後プール清掃をやってもらうから忘れないようにね~!」

…との事なのだ。何故、罰がプール清掃なのかというと期末テストが終わるとすぐに夏休み前の水泳大会が行われるからだ。水泳大会と言っても全員強制参加という訳ではなく各学年クラスごとに推薦すいせんで選ばれた一名ずつがリレー形式で赤と白に分かれて競い合うというものだった。まぁ、優勝した方にはクラスに優勝商品がおくられるから頑張る気になるらしいんだけど……主にが。

あー!もー!今はとにかくやるしかない…っ!

色々不安はあるが目の前のテストに意を決して挑む事にしたのだった。

そして、時は流れて現在に至る~

「お、落ちた……落ちた……落ちちゃった…」

目の前の数字が書かれた紙を手にまるでロボットの様に”落ちた”を連呼する私こと星野 桃はその場に呆然と固まっていた。

「やっほー!苺ちゃん抜き打ちテストどうだった~?」

「苺ならいないわよ」

いつもと変わらず陽気な笑顔でやって来た木通 檸檬は早々にヒロインこと星七 苺を探すが小堺 瓜と桜桃 凌牙と共に話し込んでいた桜桃 小豆の言葉によって探すのを止めた。

「えー、苺ちゃんいないのー?ちぇ、せっかく抜き打ちテストの結果でアピール出来ると思ったのに」

「アピールねぇ…何点だったの?」

「ふふんっ!見ろ!これぞ俺の輝く点数だよんっ!」

パッ!と顔の前で自信満々に開いてみせる檸檬に三人がまじまじとのぞき込む。

「ふーん、百点かぁ…すごいすごーい」

あからさまに棒読みで返事をする小豆にすかさず口を開く。

「そんなぁ!?こんな輝かしい百点という点数を取った俺に対してそんな冷たい態度はないんじゃっ!?」

うっ……

百点を取った檸檬の言葉に真逆の赤点を取った私の心にグサッととげさった。

「何が百点よ!抜き打ちテストで百点取るなんて普通じゃない!出来て当然の点数だわ」

うぅ……

”出来て当然”という小豆の言葉に更に心に深く棘が刺さった。

その出来て当然の点数を取れなかった私って一体…‥しかも赤点だし…

「むぅ…じゃあ、三人とも百点だったって言うの?」

「当たり前でしょ(だろ)?」

「うん、僕も一応は…」

小豆・凌牙・小堺が各々自分の抜き打ちテストの結果の紙を机の前に広げ見せるとそこには檸檬と同じ様に百点と書かれた数字があった。

「うっ……こ、これは三人とも成績いいから仕方ないというか当然というか…あー!もうっ!ここは桃ちゃんなら……ってあれ?桃ちゃんは?」

教室に居たはずの桃の姿は檸檬が声をかけようとした時にはすでに消えていた。

「あー……んー、俺嫌われちゃったのかな‥?」

「どうしたの?桃ちゃんって誰の事?」

「え…?」

小豆の嘘でもない本心で分からないという様な顔にその場に居た檸檬・凌牙・小堺は困惑こんわくした。

「何言ってるんだ?小豆も林間合宿で話してただろう?」

「そうだよ!ヒヨコちゃんとか言ってたじゃん!」

慌てて凌牙と檸檬が口を開くが小豆は首をかしげ考える様に眉をひそめた。

「ヒヨコちゃん………あ!ヒヨコちゃんね!あのヒヨコちゃんの事を言ってたの?」

「そ、そうだよ」

小豆の様子から本当に忘れていた事を確信し檸檬と凌牙は内心戸惑いが生まれていた。

「あ、あの!その桃ちゃ…じゃなくて星野さんがどうしたんですか?」

不穏ふおんな空気の間を割る様に小堺が口を開いた。

「あー、その……最近話しかけようとしても近づこうとしてもけられるというか逃げられるというか…」

苦笑いを浮かべながら頭をく檸檬に三人から冷たい眼差しが送られた。

「それ単に檸檬が何かしたんじゃないの?」

「ありえる(ますね)」

小豆の言葉に凌牙と小堺が二人そろってうなずいた。

「そんなぁ!?俺、何もしてないって!苺ちゃんしか見えてないこの目を信じてよ~!」

「へ~…苺しか見えてないねぇ……」

「な、何でそんなうたがいの目を向けるのさぁ!?」

「”チャラいから”」

「そんなぁ……うぅ…俺に味方はいないのか…」

三人のハッキリとした言葉に檸檬はあからさまに項垂うなだれるのだった。

一方、檸檬が三人に責められてる頃慌てて教室から離れ図書室へ向かって歩く桃は一人悶々もんもんとある記憶と戦っていた。

「やばい……またやっちゃった…」

檸檬の自分に向ける声に反射的に体が動き慌てて逃げるように教室を出るとそのまま元々行く予定だった図書室がある西校舎五階へ足を向けた。ちなみに、図書室は西と東で二つあるのだが西は主に一般クラスの生徒が出入りしている。

「はぁ~……」

深い深いため息をつきながら私の脳内はあの林間合宿の帰りのバスでの出来事がフラッシュバックしていた。

あの日、帰りのバスで起きた檸檬の肩に寄りかかりねむるという失態に気づいたのは皆がバスから降り荷物を取っている時だった。目が覚めると至近距離で顔をのぞき込む檸檬がいたのだ。

「おはよう」

「っ~~~~~~!?」

その瞬間、声にならない声と同時に手が出る事に時間はかからなかった。

ドンッ!

「いっ……たぁ~!起きて早々顔ごと突き飛ばすなんてさすが桃ちゃんだね」

「な、ななななんでっ…!?」

何で?そこから先の言葉は何も浮かばず今の状況を理解するのに精一杯だった。

「んーと、この状況を説明するにはここ…いた方が早いかな?」

「ここ?」

可笑おかしそうに口元をツンツンとするとポケットからレモン色のハンカチを取り出しほほに伸ばされそっと触れた。

「ほら、ヨダレのあと

「へ?ヨダレ?う、嘘っ!?」

拭き終わったハンカチが離れると直ぐに頬や口元にペチペチと触れる。

「あはははっ!もう拭き終わったからないよ」

「っ……」

檸檬の言葉にヨダレを含め自分の行動が馬鹿みたいに恥ずかしくなり赤くなると何かに気づいたのか檸檬の手が伸ばされた。

「桃ちゃんの座席、後ろに倒してたの忘れてた。元に戻すね」

「え、座席倒してたの?」

思わず後ろを振り返ると座席が倒れている事はなく他の座席と変わらなかった。

「倒れてなんかな…‥」

慌てて顔を戻し反論しようとするがふわっと檸檬の香りが鼻をくすぐると同時に右頬にやわらかな髪が触れ伸ばされた手と一緒に両手で抱き締められた。

「ごめん……少しだけこうさせて…」

いつもなら彼が何を言おがすぐさま突き飛ばして殴るやるをしている所だが、抱き締められた拍子ひょうし無駄むだに感じる彼の速い心音とガラス物を扱う様に優しく触れられているにも関わらず何故か強く抱き締められている感覚に何も出来なかった。

こういうのって普通ヒロインにしてあげるべき事じゃないの?私にしても意味ないのに

そんな疑問もいつもならその場で口にするのに口を開く事さえ出来ずただ彼の少しが終わるまでされるがままでいた。

「…………よし!じゃあ、皆も待ってるし早く荷物取りに行こっ!」

「え?う、うん…?」

短いようで長く感じた抱擁ほうようは終わると直ぐに何も無かったかの様にあっけらかんとした言葉と共にいつもの陽気な笑顔が向けられされた側が戸惑ってしまう始末である。

「あー!そう言えばバス降りた後も実行委員の仕事まだあったんだった!?ごめんっ!先に降りてるね!」

「あ……」

ドタバタと慌てて降りていく檸檬の姿を呆然と見送りつつ頭の中では先程の状況がグルグルと回っていた。

「一体なんだったんだ?あれは…?ていうか、もしや帰りのバスでずっとヨダレ流してあいつに寄りかかって寝てたって事かっ!?しかも寝顔見られるの二回目だし!あー…恥ずかし過ぎてどうにかなりそう…‥っ」

その後、この時の恥ずかしさが影響して檸檬のメールも近づいて来た時も話しかけられた時も反射的に避け続け逃げている状況の現在に至る。

「……あんなのなんて事ない筈なのに何で避けちゃうんだろう?あいつのハグなんてチャラ男の基本中の基本なんだから気にしないでいつもみたいに突き飛ばして適当にあしらえばいいのよ!うん、次からはもう避けるもんか!」

ブツブツと口に出しながら自分をふるい立たせ図書室のプレートがけてあるドアの前で足を止めた。

「よし!今はとにかく期末テストへ向けて赤点脱却だっきゃくの為にも勉強に集中しなきゃっ!」



















































































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