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二章 《教育編》~夏の誘い~

ライチの追憶〜真夏の毒の華〜

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真夏の日差しが照りつく八月、竹林の中にある大きな和風な屋敷に時折鹿威ししおどしの聞こえる広々とした和風庭園は見ているだけで癒されるものであった。だが、今日に限っては屋敷中に叫び声が飛び交っては複数の人々が行き交う足音が大きく響き渡っていた。

「ライチ様ー!!何処ですかー?」

「ライチっ!!早く出て来なさい!!!」

「はぁ…一体何処に居るんでしょうか?」

「こうなったら徹底的に探すまでだ!」

「家元…」

家元と呼ばれるこの屋敷の主は白銀の髪を持ち黒い瞳のつり目と顎髭あごひげを生やしいかつい顔と同等に図体も大柄で鍛え抜かれた体付きをしていた。その人物こそ、梅木 ライチの父である梅木 清司せいじという者だった。

「お前は給仕場を探してくれ。俺はほたるの所を探す」

「はい!」

家元の言葉に従い弟子達を含め屋敷に仕える者達もそれぞれ屋敷の隅々までライチを探し始めたのだった。

…ドタドタドタドタドタッ!!!バンッ!!!

「おいっ!蛍!ここにライチは‥」

「しーーーーーっ!静かにして下さい!今さっき瑠衣るいが寝た所なんですから」

「そ、それはすまなかった…」

蛍と呼ばれた長い黒髪ストレートにも関わらず綺麗なアイスブルーの瞳を持つはかなさを感じつつも気品のある美しい女性は清司の妻でありライチの母でもあった。そして、その蛍のひざの上で眠る瑠衣と呼ばれた四歳の男の子は二人の子供でありライチにとっては弟であった。

「…だ、だがな?ライチが何処にも見当たらなくてな…今日は大事なお茶の体験教室だと言うのに…」

「それでさっきからドタドタと音が響いていたのですね」

「ああ。父である俺のお茶会のみならずその後の主催する茶会を全て拒否しおって…今回は一般参加の体験教室だから緊張もなく参加してくれると思っていたんだが…」

逃げられてしまったのですね?」

「ああ…はぁー…‥」

頭を抱え項垂うなだれる清司の姿に可笑しくなり小さく笑みを零す。

「ふふっ、私もライチを見つけたら声を掛けますからそんなに落ち込まないでくださいませ」

「ああ、くれぐれも必ず見つけたら声を掛けてくれ…っ!」

パタンッ…‥ドタドタドタドタドタッ…‥…

部屋から遠ざかっていく清司の足音に耳を澄ませながら蛍は背後にある小さな長方形の戸に声を掛ける。

「だそうですよ、ライチ…?」

…スー…‥

戸を静かに開け出てきたライチは顔色を変えることなくスタスタと蛍の膝の上で眠る瑠衣に近づいた。

「…行かないよ。瑠衣と一緒にいる方が楽しいし…」

瑠衣の前に座るなりスヤスヤと小さく寝息を立てて眠るぷっくりとした柔らかい頬を指先でつつきながら笑みを浮かべるライチに、蛍は肩をすくめる。

「でも、瑠衣は寝ているのですから遊べないわよ?」

「起きたら遊べばいいでしょ?母上だって僕が居たら助かるんだから行かないったら行かない」

「確かに、瑠衣はライチを凄く慕っているからライチに遊んでもらったら嬉しいでしょうけど…たまにはお父さんの気持ちに答えてみてはどうかしら?」

「むっ…‥」

蛍の言葉に頬をふくらませむくれるライチに手を伸ばし耳に掛かる白銀の綺麗な髪をそっとく。

「今回は一般の方が参加するお茶の体験教室と聞いたわ。もしかしたら、ライチと同じぐらいの年頃の子もいらっしゃるかもしれないわね」

「何が言いたいの?」

「私もお父さんもライチが同じ年頃の子と仲良くしているのを見たいのかもしれないわと言うことよ」

「…‥…‥終わったら瑠衣と遊ぶから」

「ええ、待ってるわ」

白銀の髪を優しく撫でながら蛍は微笑むと膝の上で何も知らず眠るもう一人の白銀の髪を持つ瑠衣に視線を移す。

「ふふっ、優しいお兄ちゃんで瑠衣は幸せ者ね」

……パタンッ…

「家元の場所まで案内致しますよ?ライチ様」

母と弟の居る部屋から出るとずっとそこに居たらしい黒のスーツで眼鏡姿の男に一瞬目を見張るものの怪訝な顔で問いかける。

「何で居るの?」

「それは…‥」

言葉が途切れ視線が母と弟がいる部屋へと注がれる様子に、それが何を意味するのか直ぐに理解した。

「っ…‥母上か?」

鋭くにらみつけながら視線をこちらに向けさせると、男は困った様に目じりを下げ首を横に振った。

「蛍様は何でもお見通しですよ。ライチ様のお母上なんですから」

「むっ…‥別に…瑠衣と遊ぶ為だから参加するだけ」

「ふふっ、そうですか。では、瑠衣様の為にも頑張ってお茶の体験教室に参加しましょうか?」

「だから、そう言ってる」

むくれながらそう言い返すが何故か微笑みかける男に更にムッとしたのだった。

 *

「良くやった!霧沼きりぬま

「いえ、私ではなく蛍様のお陰ですよ」

「蛍がか?」

「ええ、それはもう優しいお言葉で…‥…」

はぁ…これだから父上の右腕は油断ならない

父上の右腕と呼ばれる部屋の前で待ち構えていた黒いスーツで眼鏡姿の男は霧沼という名で、主にライチを含めた母と弟の三人の用心棒をしながらも家元である父とその後継者であるライチのサポートを役目としていた。

「ライチ、体験教室に出る為の衣装を使用人達がお前の部屋で用意している筈だ。早く着替えて客室の間に来い」

「はい」

すぐそばに居た使用人の女性の一人に着いていきながら自身の部屋に辿たどり着くとふすまを開け中に入る。

スー…‥

「うひゃっ!!?」

パタンッ…!

「何やってるの?」

入ったのと同時にたたみに散らばった自身が着る予定だった衣装を横目に落ちてきた衝立ついたての下敷きになる一人の使用人の女性に呆れた視線を送る。

「す、すみませんっ!ライチ様!こ、これはですね…帯を変えようとして衝立が落ちてしまい…」

「なっ!?何をやっているのですか!?」

ごもりながら言う彼女にすぐ後ろにいたもう一人の女性がその現状を前に驚きで声を上げた。

「す、すみません…‥とりあえずその助けていただいてもよろしいでしょうか‥?」

「はぁ…分かった」

「大丈夫ですよっ!私が致しますのでライチ様はそこで‥」

「大丈夫。引き出す事ぐらいは出来るから僕の衣装をお願い」

「は、はい」

後ろから顔をのぞかせるもう一人の使用人を制しスタスタと近づくなり下敷きになる彼女に手を伸ばす。

「はい、捕まって」

「は、はいっ!…んーーーー!!!…‥んはっ!」

力づくで引っ張り彼女を助け出すと、彼女はその場に座り込み頭を下げた。

「ありがとうございます。それと、大変申し訳ございませんっ!!」

「大丈夫。衣装が着れなくなったわけじゃないし…」

床に散らばった衣装を後ろに居た使用人の女性が丁寧に拾い上げる様子を横目に言いながらふと既視きし感を感じた。

「…ねぇ、それより君前にも会ったよね?」

「は、はいっ!以前、使用人の採用時の際に落ちそうだった私をライチ様に選んで頂いて…」

あー…そう言えばそんな事があった気がする…

そばかすであまり目立たない面持ちの彼女の姿をまじまじと見ながら朧気おぼろげな記憶を思い返す。

それは半年前の出来事ー…‥

「ライチ、今回の使用人採用はお前を含め蛍や瑠衣の身の回りの世話に回すつもりだ」

「それで今回は特別に参加させて貰うことになったんですね」

屋敷で働く使用人の採用は普段なら父である清司が選ぶ事になっていたが、今回は特別にライチも参加する事になったのだ。ライチも普段なら断って逃げていたのだが、ある理由で今回だけは逃げるのをやめ父に従う事にした。

「そうだ。だから、しっかり見て選ぶようにな?」

「はい」

清司と一緒に応接間に着くと中は時間通りに来た使用人希望者の人達でいっぱいになっていた。

二十ぐらいはいるかな…?

一年に二回行われる使用人採用は採用されるとしても二~三人の為、人数が多い分振り落とすのは困難となってくる。

…ドタドタドタドタドタッ!バンッ!!!

「す、すみませんっ!時間を見誤ってしまって…っ!」

勢いよく入って来たそばかすが特徴的な黒髪をお下げにした二十代前半ぐらいの女性に清司やライチを含めその場に居た者全員が目を丸くした。

「既に予定時間は過ぎている。悪いが採用審査からは外れてもらう」

「えっ!?そ、そこを何とかお願いしますっ!私、ここに受からなかったらもうどうしようも…‥」

懇願こんがんしながらその場に泣き崩れる彼女に清司が振り向く事は一切無かった。 

「受けさせてあげたら?」

「な…っ!?急に何を言い出すんだ?ライチ」

冷たくあしらう清司に対して真顔でさらりと問いかける。

「時間通りじゃないって言ってもまだほんの数分だし、実際審査すらも始まってないんだから今から受けても対して差はないと思いますよ…父上?」

丁寧に説明しながら最後には清司の顔を伺うライチに、驚きで唖然あぜんとしながらも正論な言葉に腕を組み座り込む彼女に視線を向けた。

「…ライチ」

「はい」

「彼女を傍に欲しいか?」

「…‥…‥」

清司の言葉に彼女に視線を向け少しの間考えるをする。

「…‥…‥はい、欲しいです」

長い間の末、清司の顔を再度見ると強くうなずいた。

「そうか!では、そこの者…‥合格とする!」

「え…‥え?えぇぇぇぇぇぇっ!!!?」

急な展開に空いた口が塞がらず呆然とする彼女を他所にライチは内心したり顔で笑みを浮かべていた。

これで逃げ出す為の人材が増えた

そう、この使用人の採用に参加した理由はまさしくだった。日頃からお茶関係のイベントがある度に逃げ出していたライチは楽に逃げ出す為の利用出来る人材を必要としていた為、この採用審査はライチにとって得そのものだったのだ。 

彼女が遅刻して来たのは予想外だったけど早々に得られたのは得した

…‥だが、この後ライチの考えはくつがえる事となった。使用人として傍に着く筈だったそばかすの彼女は母である蛍の傍に居ることが多くなり代わりに傍に着いたのはこの後受かった女性の使用人だった。しかも、ライチに着く事になった女性の使用人はライチを良く知る霧沼によって先手をつかれ逃げる事が困難になったのは言うまでもなかった…‥…

…‥あの後、逃げ出すのが難しくなって何度か諦めかけた気がする…

苦い思い出に眉を寄せながらも目の前で尊敬の眼差しで見つめてくる彼女に意識を向ける。

「採用されて良かったね」

僕には得とはいかなかったけど…

「はい!これからも屋敷にも何よりライチ様に誠心誠意仕える所存です!」

キラキラと瞳を輝かせながら言う彼女に若干引きながらも衣装を手に待機しているもう一人の使用人に声を掛ける。

「彼女に来客の案内の仕事を回してあげて下さい。衣装を着るぐらい一人でも出来るから彼女の手回しお願いします」

「はい、かしこまりました」

衣装を畳の上に綺麗に置き未だにキラキラとした瞳で見つめる彼女を引き取る様に二人はその場を去って行ったのだった。

 *

お茶の体験教室が始まる頃には、広々とした客室の間にて二十組もの人達で埋め尽くされていた。そして、その中央には威風堂々いふうどうどうと佇む二人の人物が座っていた。一人は白と梅の模様が入った黒の着物に身を包む家元の梅木 清司、もう一人は白と梅の模様が入ったあい色の着物に身を包む次の後継者と言われる梅木 ライチである。

「親子連れの方も何組かいらして居るようで良かったですね。家元?」

清司の背後に目立たぬように座る霧沼は目の前に並ぶ子供と一緒に座る親達を見るなり小声で話しかける。

「どう言う事だ?それは?」

「ふふっ…いえ何も」

耳を赤くしとぼける清司に小さく笑みを浮かべた。

「コホンッ…これよりお茶の体験教室を始めさせていただきます。私は、今回皆様に指導させていただきます…梅木家の家元梅木 清司と申します。宜しくお願い致します」

清司の挨拶が終わるとそれに倣う様にライチも前に出る。

「皆様、お茶の体験教室にご参加いただき誠にありがとうございます。私は、今回梅木 清司の助手を務めさせていただきます…梅木 ライチと申します。宜しくお願い致します…‥質問等御座いましたら気兼ねなくお声を掛けて下さいね」

深々と頭を下げ挨拶を述べる一方で最後に可愛らしい笑みを浮かべ微笑むライチの行動にその場に居た参加者全員の心をわし掴みにしたのは言うまでもなかった。

「ライチ様、堂々とされて何故だか貫禄かんろくがありますね」

「当然だ。そうでなければ梅木家の後継者は務まらん」

「あの…‥父上」

「何だ?」

身を引き袖を引くライチに視線を向ける。

かわやに行きたいのですが…?」

「な…っ!?前持って済ませなかったのか!?」

「色々と予想外の事があり行く暇がありませんでした」

「はぁ…‥霧沼」

「はい」

「どうやらお前の思い違いだった様だぞ」

「はい、そのようで…‥」

真顔で見つめるライチを他所に、清司は頭を抱え深く溜息を吐き背後に居た霧沼はまぶたを閉じ肩を落としたのだった。

 *
 
…‥スー…

お茶菓子がもてなされている間にライチは静かに戸を閉め客室の間から出ると同じく厠へ向かうらしい同じ年頃の女の子とその母親がそばかすが特徴的な使用人と一緒に廊下を歩いて行くのを見かけた。

同じ年頃みたいだったけど何歳だろうか…?

そんな些細な事を思いながら足をあの親子とは真逆の方へと向け歩き出す。理由としては、厠は男女真逆の場所に設置されているからだった。
 
数分後~

…‥ガラッ

「早く戻らないと…」

厠へ行く前に言われた父である清司の言葉はこうだった。

『お茶菓子が出ている間だけだ。それが終わる前には戻って来なさい』

…‥との事だった為、厠を済ませたライチはなるべく早足で客室の間に歩き出した…‥のだが…

…バンッ!!

「んっ!!?」

角を曲がる際に正面から黒い頭巾ずきんを被った何者かから口を塞がれ直ぐに意識が遠くなっていった。

「…‥……‥」

「これでずっと一緒です………ライチ様」

  *

ボロボロに破けた壁紙や穴の空いた床、古びた蓄音機や棚にほのかに香る薔薇ばらの匂いに意識を浮上したライチはゆっくりと瞼を開けた。

「ここは…?」

周りを見渡すと洋風の作りにあらゆる所が壊れてる様子に、既に使われていないホテルの一室だと理解した。

…コツコツコツ‥

「あっ!お目覚めですか?ライチ様」

「お前は…」

出入口から現れたのはそばかすが特徴的の使用人の女性だった。女性の手には、口を塞いでいた人物が被っていた黒い頭巾と同じ物だと思われる物を持っておりこの状況を作り出した本人である事を察することが出来た。

「わぁっ!これでライチ様は私のモノですね!」

「な…っ!?」

飛びかかるように駆け寄ってくる女性にすかさず逃げようとしたが手足をなわで固定され動けなくなっていた。

「無駄ですよ?ライチ様。私だけを見て…愛してくれるまで話す事は出来ませんから」

「っ…‥触るなっ!」

白銀色の髪を掬う様にそっと撫でられそのまま白い肌をなぞる様に頬へと指先が触れた。

「大丈夫です、ライチ様。私に身を預けて頂ければ怖がるような事は致しません」

「預ける?お前自体が恐ろしい存在なのに従うわけない」
 
ライチは今までした事も思ったことも無い程に、人に対して警戒心全開でするどく睨みつけその反面耐え難い恐怖に襲われた。

「ふふっ、それでこそ私の好きな尊敬出来るライチ様です!ですが、その威勢もいつまで持つか楽しみです…‥」 

「っ…‥や‥め…‥」

頬をそっと撫でられ徐々に近づいてくる女の顔に恐怖で瞼を閉じる。

誰か…‥助けて 

ウィーンッ!…ウィーンッ!!

…!?

「は…っ!?サ、サイレン?」

外から聞こえるサイレン音に女が身を引き固まるが直ぐに危機感を感じたのかその場から逃げるように去って行った。

「…は…ぁ…‥…」

まだ体が震えてる…

女の居なくなった空間をゆっくりと見渡していると、ふと女が出て行った出入口で小さな子供の足と赤いワンピースの裾が少し見えた。
 
女の子…?こんな所に何で?

「君は何で此処ここにいるの?」

「…‥…」

「隠れてるの分かるから」

「…‥こ、こんにちは‥?」

恐る恐る出て来た女の子はピンク色の巻き髪ツインテールをした可愛らしい容姿をしていた。

この子、何処かで見たような…?…あ、あの時厠に行ってた女の子だ

さらわれる前に厠に向かう際に見かけた母親と一緒に居た女の子だと分かり尚更ここに居ることが不思議に思った。

でも、それより前にも見かけた様な…‥

あやふやな記憶が薄らと脳裏に浮かび衝動的に口を開く。

「ずっと前に何処かで会った事ある…?」

「っ…‥」

「確か空港で…‥…‥天使…?」

その瞬間、脳裏にハッキリと思い出されたのはピンク色の巻き髪ツインテールをした目の前の女の子とまったく同じだった。

「ふっ…‥…会ったね!」

女の子のふわりと笑いかける姿は、先程まで恐怖心でいっぱいだった心が溶かされていくようだった。

「君の名前、今度は僕に教えてくれますか…?」

「うんっ!私は…星七 苺って言います」

小さく可愛らしくお辞儀をする苺に笑みが零れ再度口を開く。

「苺、僕と友達になってくれませんか?」

「喜んで…っ!」

満面な笑みで頷く苺をライチはこの先もずっと忘れる事は無かった。好きだと思う程に忘れられる筈もなかった。

その後、警察がホテルまで来るなりライチの縄は解かれ助けられると事情を説明し攫った使用人の女は直ぐに居場所が発見され捕まった。犯行動機は『ライチ様を自分のモノにしたかった』との事だった。
苺はと言うと厠から出た際に帰り道が分からず迷子になりその折に連れ去られるライチ見つけ後を追ったが、恐怖で足がすくみホテルの別室で身を隠しつつも手に持っていた母親の携帯で警察を呼んだとの事だった。
そして、お茶の体験教室を行っていた梅木 清司や霧沼は苺が居なくなったと苺の母親から聞かされ探すなりライチの行方不明も判明しお茶の体験教室は中断するもその際に警察からの連絡がありライチと苺は共に両親に引き取られたのだったー…‥…

 *

「もしかして、その事件がきっかけで女性に触れられるのも自分から触れるのも駄目になったとか…?」

暗い顔で話し終えたライチを見つめながら戸惑い気味に問いかける。
 
「そう…‥でも、不思議と苺には触れられたし触れても嫌ではなかった。だけど、今は違和感しか湧かない。二回目の記憶はハッキリと思い出すことが出来るのに一回目は思い出すことも出来ない。代わりに頭が痛くなる」

その理由は恐らく、一回目は苺本人が関わった記憶でないから思い出す事が困難になり二回目は苺本人が関わった記憶である為にハッキリと思い出す事が出来るのであろう。んー…でも、こんな梅木 ライチがさらわれた話なんてゲーム内容にはなかったし一体どうなってるんだ…?

「…‥何を考えてるの?」

「え…‥わっ!?」

気付かぬうちに触れるか触れないかの距離で覗き込むライチに思わず身を引き片手で体を支える。

「別に何も…‥そ、それより近いから…っ」

触れるのも触れられるのも駄目なんじゃなかったの…っ!?

瞼をぎゅっとつむり言い放つと可笑しそうに笑うライチの声が聞こえてきた。 

「ふふっ…‥困ってる顔可愛い」

「っ…‥」

悪戯が成功した少年の様に笑うライチに悩んでいた内容が吹っ飛び真っ白になった。それ程までに彼の笑う顔はとても心臓に悪いものだった。


















    
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