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こんなはずでは
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「お願いだ!! 莉子君、頼むよ!!」
「助けると思ってお願いしますよ、莉子先輩!」
私は、目の前に土下座する勢いの三人の男達を見下げて、ヒクヒクと顔を引き攣らせていた。
私の手には、見合い相手の写真……
もとい、元カレである翔の写真がフルフルと震えながら握られている。
「これ……、部長、専務……?」
そう、部長に、牧田、それに加わるもう一人はこの会社の専務だ。
「頼むよ、莉子くん、この通りだ!! 我が社を見捨てないでくれ!!」
「いいお話じゃないか君、まして君の元カレなんだろう?いや、正直驚いたよ、まさか君がなんて。でも、かつては、一つの布団で仲良く同衾する、やっぱりそんな仲だったんだろう?いやはや、驚かされたよ」
「ぶ、部長、さすがにそれはいくら莉子先輩でも……、セクハラと取られても??」
(いくら、莉子先輩でもって、牧田コラっ…)
「あっ、そうかすまない!とにかく、我が社の為に…、ゴホン、いや、君も、そういう事であればそろそろ、まぁなんだ、将来の事を意識してもいい頃合いかと思って、取り合えず受けたんだ。」
(とりあえずって……)
「莉子先輩、怒らないで、会うだけでもいいんです~!! 助けてください!!先方の副社長からの正式なお話なんですよ?莉子先輩、聞けば副社長とも仕事で顔見知りだったっていうじゃないですか?」
「あっ……。」
(私の事覚えていた…?まさか、…でも見合いなんてなんだって…)
「相手を知っての名指しじゃよっぽどの理由がないと断り辛いんです!」
「玉の輿じゃないか!」
「いや、でも君ね、莉子君が結婚しちったら、それはそれで我が社はこれから…」
「はっ……、確かに」
「う~ん、と、兎に角だね、君は会うだけでいい!そうしよう、その後は失礼のないようにお断りしたって…」
「で、でもそれこそ失礼のないように断るなんて難しくないでしょうか?」
「うーん、でもそこは君…、後は個人と個人の話だからね…」
「我々、会社には責任がないと…」
そんなコソコソと続けられる会話を聞くでもなく、三丸の副社長を思い出す。
確かに、何度かあったことがあるのだ。
翔の叔父。
いや、義理の父なーんてことは、全く知らずに……
(だってあの副社長、ダンディなイケメンなんだもの…、そしてカミングアウトはしていないようだが、絶対ゲイなのだ♡)
何度かお会いする機会があって、すぐに分かった。
大好物の匂いを嗅ぎ分けないような私ではない!
そして、三丸副社長は我が社の美貌の企画部課長に狙いを定めていたのだ。ちなみに、企画部課長とは我が社の社長令息でもある。
私はまるで喉を鳴らすような視線を企画課長に注ぐ三丸副社長にいつぞやのパーティの席で、お酒を注ぎながら小さく囁いた。
「いけると思いますわ。企画課長はノンケですが押せば流されるタイプです♡ゴルフ、お好きですか?雨の日なんて、きっと素敵ですわね♡うふふふふ♡」
あの時、三丸副社長の瞳は狙いを定めた獣のように獰猛な輝きを見せた。
その時、名を聞かれた。
「君は?」
「はい、片桐莉子と申します」
「片桐さんか、面白い人だね。覚えておこう」
そう言って微笑む副社長の艶やかな仕草に、その後二人に訪れるドラマを妄想してその夜は悶絶したものだ。ずぶ濡れで時を持て余しながら絡み合う年の離れたダンディな叔父様と普段は寡黙なイケメン上司。
(尊過ぎる……)
そして、季節は代わり、当時企画課長に持ち上がっていた某会社の社長令嬢とのお見合い話が破談となったという噂が社内で広がり、それと時を置かず三丸との業務提携の話が動き出した。
そこに私は一つの尊い恋の成就と、我が社の発展を確信したのだ。
これもまたウィンウィン♡
(それが何故今更、私の見合い話になっている。…何故、こっちに話が流れてくるのか?これは自らの煩悩の為に人を陥れた祟りだろうか?)
***********
そして何故私はここにいるのだろう?
夜景を見下ろすレストラン。
目の前には秀麗なイケメン。
だけどこれは妄想ではなくて、間違いなく嘗ての恋人。
私を絶望に突き落とした当人。
そんな相手が感慨深くジッと私を見つめ、目を細める。「莉子、本当に莉子だ…。」
その瞳にどんな顔を返していいのか分からない私の笑顔はきっと引き攣ったものだろう。
「お決まりでいらっしゃいますか!」
そう店員さんに声をかけられ私から逸らされた目にホッとする。
慣れた様子で料理に合うワインをオーダーする翔。
確か昔も誕生日だか、記念日だかにこんな店に連れて来てもらったかな…。
あの頃は確か、二人とももっと初々しくて、慣れない様子が微笑ましかったと思い出す。
あの頃の翔は、今目の前にいる男のように余裕なんてなくて、むしろ私がしっかりしなきゃなんて気を張ってたな。
オーダーを終えた翔が再び私を見て微笑む。
「莉子が本当に俺の前に座ってるなんて夢みたいだ」
「俺、……ずっと、莉子に逢いたかった」
そう言って、会えなかった時間の寂しさを語る翔。
嘗ての二人の思い出を嬉しそうに、あれだこれだと振り返る目の前の男。
その思い出は確かに私の思いででもあるはずなのにどこか遠い他人の思い出話を聞いているような違和感を感じる自分に戸惑った。
それが7年という時の持つ力なのかもしれない。
そんな私の気持ちにすら気付かず、翔は沈黙を嫌うように、語り続けた。
「覚えてる、莉子の誕生日に二人でディナー食べに来たよね?あの時もさ、俺、気を利かせて頼んだつもりの料理が思ったのと違って、よりによってさ、莉子が最初にオーダーした分と重複してたよね?しかも、俺が食べられないバジルソースのやつでさ、俺、めちゃくちゃ気まずかったのに莉子、…笑って食べてくれて、『大好物はね、いくらでも入るんだよ』って、それなのに刺激が強すぎたのか帰りは気持ち悪いって言ってリバースして、俺メチャクチャ心配して…」
そう言えばそんな事があったなあと、あの頃を思い、初々しかった自分達に頬を緩める。
トイレで背中をさすられながら涙を流した黒歴史を思う。
あの時はひたすら恥ずかしくて死にたかったけど、今思えば微笑ましい若いカップルのエピソード。
そう思うほどには、時は経ち、歳をとったのだろう。
その瞬間、視線を感じて前を見て戸惑った。
ジッと私を見つめる翔の顔は凄く思いつめた表情だった。
「莉子、ずっと言いたかった。ちゃんと謝りたかったんだ」
そう顔を歪めながらも私を真っすぐに見つめる翔の瞳を逸らす事ができなくて私も真っすぐに受け止める。
きっと、あの頃の事を言っているのだろう。
取り乱さないようにと、唇の端をグッと上げて、何とか微笑を保つように翔の言葉の続きを待つ。
もう、昔の事だから、大人の顔をして笑い飛ばせるくらいには成長していたかった。
「そして、ずっと後悔してた」
その悔恨の表情に私のそんな微笑は一掃された。
私の知る翔はこんな顔はしなかった。
もしかしたら私は潜在意識の中で、こんな言葉を聞きたかったのだろうか。
それは、どうしてだろう?
**********
私の知る翔……
真っ直ぐに好きだった人、裏切られるとも思っていなかった翔。
二人の時は永遠に続くんだと信じていたあの頃、翔は私の全てだった。
それが変わってしまったのは何時だったのだろうか。
きっと、私は未だにその境界線を知らない。
私達はいつまで幸せで、いつからそうではなくなってしまったのか。
まだ学生だった頃、私と翔は付き合い始めた。
きっと翔には私は何人目かの恋人で、私にとってはまともにつき合った初めての人だった。
サークルの先輩後輩として出会い、何度目かのサークルイベントでお互いを意識し始め、好きだと確信したころ、翔から告白された。
初めての彼氏が好きな人なことに舞い上がった。
キスもその先も翔が初めてで、二人で過ごす時間は今までに感じた事のない程、満たされていた。
バイトが終わっても、顔を見たくてどこかで待ち合わせて、離れがたくて結局は一緒に朝を迎えた。
そんなことを何度も何度も繰り返しているうちに、半分一緒に住むような状態になって、生活のほとんどを互いが支配していった。
少しでも離れているのが寂しくて、互いに里帰りすらあまりしなくなって、私達は若い日々を春夏秋冬いつも共に過ごした。
春には花見をして、温かくなったねって海を見に行って、日が暮れるのを浜でぼんやりみつめた。
夏には毎年二人で浴衣を着て恋人繋ぎで花火にでかけて何度も大輪の光の華に見とれた。
花火を見よう場所取りしていた公園で夕立に逢い、濡れ鼠のようになってホテルに駆けこんで抱き合って笑った事もあった。
頬を冷たい風が冷やすようになった秋には、「やっぱりさんまだよね」って、私が魚を焼いている間に翔が大根をおろして二人で安いビールで乾杯して…
冬には、二人で冬支度をして、正方形の小さなこたつで身を寄せ合ってお気に入りのビデオを見て、毎年クリスマスには私の覚えたての手作り料理とスパークリングワインで小さなテーブルを拙い料理で一杯にして乾杯した。
ありきたりな学生同士の付き合いだった。
互いのよくあるワンルームマンションを行き来する日々。
でも、それが何よりも満たされていて幸せだった。
多分あの頃はお互いの気持ちは同じだった。
そうしてそんな春夏秋冬を何度二人繰り返しただろう。
あのころ当たり前に繰り返された季節のなかでいくつもの笑顔を留めていた写真すらも、今ではほとんど私の手元にはない。
きっと、それは翔も同じだろう。
それでも、今もこの胸にあの頃この目に映った数々の思い出は鮮明に焼き付いている。
桜が綺麗だったことも
空一面の大きな花火も
夏の匂いも…
若い日の何をも恐れない恋愛と言うのはきっと人生の中で一番印象が強いからだろうか。
今も変わらず訪れる春夏秋冬の風の香りにあの頃と同じ空気を感じ足を止め……
通り過ぎる車から流れる、あの頃流行した音楽に切なさと懐かしさが込み上げて……
レンタル映画のリストに手を止めて、共に見た人の顔を思い浮かべる……
そして、年に一度訪れる日は、必ず私の心を騒めかせる。
何度も祝った誕生日。
嫌でも自然と思い出すその記念日に、別れた相手の年齢を再認識して、そんなじぶんに自嘲する。
きっと、それくらいには好きだった。
一つ年上だった翔が卒業を控えて就職活動を始めたあの頃は社会的に見ても、とても就職が厳しい年だった。
就職試験で一つ、二つと不採用通知が届く度に、翔は無口になった。
「だ、大丈夫だよっ!だって、こういうのって出会いのものっていうじゃない?きっと翔の事分かってくれる会社があるよ、ね!?」
そう言って励ましていたあの頃、きっと一年早く、世間の厳しさを知った翔と私の世界は歪み始めていたのかも知れない。
翔は就職活動の進捗状況を私に話すのを嫌がる様になった。
そして、ある日、唐突に就職が決まった事を告げられたけど、そこに翔の笑顔は無かった。
今思えば、あの時の私にはピンとは来なかったけれど、その就職先は三丸商事の関連会社だったのだと思う。
ようやく決まった就職に手をたたいて「良かったね」って自分の事のように喜ぶ私に翔は少し皮肉に見える笑顔で小さく笑った。
「俺の力じゃないけどね……」って、どこか冷めた表情を浮かべた翔。
ふと今更そんな表情を思い出してハッとした。
翔は叔父である三丸の副社長の養子だと会社の情報では聞いた。
(あぁ…)
そして悟った。
あの日、翔が顔を歪めていた理由を……。
私があの頃、良かれと思って安易に翔にかけていた言葉。
「きっと翔の事分かってくれる会社に出会えるから!」
あの頃の私なりに励ましのつもりだった。
でも、今ならその言葉は、諸刃の剣となりうるかもしれない怖さを知っている。
一歩間違えれば翔の存在価値すらも否定する呪いにすらなり得る言葉。
この歳になり多くの新社会人と関わっているからこそ分かる事もある。
ガラスの様に傷つき安い心を皆必死に守りながら、何とか社会の中で生きて行こうとしている。
時に壁を作ったり、生き辛さを払拭する為に、本来の自分とは別の愛されキャラを作ったり……。
あの頃の翔は少し気まぐれなところもあったけど、なんだかんだと私にはとても優しい人だった。
まるで気まぐれな猫の様で、時に甘く時に気まぐれで、そんなところが堪らなく愛しかった。
背中を向けていると思ったら、ウトウトしている間にじゃれるように抱きしめられていたり、朝までは張り切って出かけると言っていたのに、曇天の空を見上げて、急に布団に潜り込んだり。
そして私の知る翔は、少しだけ人間関係においては不器用な人だった。
器用でセンスも良くて、慣れた仕事ならきっとそつなくこなせるタイプ。
頭も切れるし、喋りも説得力がある。
それでも人見知りが災いして、人に容易く心を開けなくて、自己アピールが苦手な人。
親しい人にしか自分をさらけ出さないタイプ。
そんなだから、集団の輪に馴染むのにいつも時間がかかるのだ。
ルックスがいいだけに嫌味ととられる事も多かった。
だから、認めてもらうのに時間がかかる人。
一旦仲間だと認め合ったら、結構頼りになるハイスペックな一面も持っていた。
(でも、家事能力だけは極端に低かったっけ……)
片付けや、洗濯物に苦戦していた翔を思い出し、目を細める。
「莉子助けて……」
そう言って甘えられて苦手な家事の一切を引き受けた。
それに気持ちよさそうに上手に甘えていた翔。
甘えられるのが嬉しかった私。
それが私の知っている翔。
優秀さをグラフにしたならきっと歪な円を描く。
そんな愛しい人だった。
(今の翔は…?)
どんな円を描くのか。
大人になる事は、社会で生きる事は、何かを演じ続ける事に似ている。
あの頃、私より一年先に就職した翔は、一見以前と変わらないように私に接してくれたけど、私には日々翔が変わっていくのが分かって苦しかった。
社会人一年生と就職活動中の学生。
どちらにも心に余裕なんてある訳は無かった。
私と一緒にいるときにもどこか心ここにあらずな事が多くなった翔。なんとなく仕事に悩んでいる事も私なりに分かっていたつもりだった。
けれど、まだ学生だった私には気の利いた事なんてできなくて、私にできることは自分から会いに行ったり、料理を作ったりすることだけだった。
疲れた顔を見せる翔。
そんな頃、時々携帯にかかった電話に私の前では出なくなり、少し時間をおいて場所を変えて折り返す事が多くなった。
そんな翔を何気なさを装って探りを入れる度に面倒臭そうに話を逸らされる日々。
距離を詰めようとすればするほど、その距離が開いていく感覚が怖かった。日々翔が遠く感じるようになり不安に押し潰されそうだった。
ある日、翔がシャワーを浴びている時に鳴った携帯。その電話に何かを感じた私は無言でそれに出てしまった。
「翔君?私。この間は楽しかった。今度、いつ会えるかなって思って」
そう含みを持たせた妖艶な言い回しで信じたくなかったけど、一つの事実を悟った。
(あぁ、そういう関係の女性がいたんだ……)
それでも、翔を失いたくなかった。
本当に馬鹿だと思う。
やめとけばいいのに…
本当に今にして思えば、あの頃の私に本当にそう言いたい。
それ以上傷つく前に翔に詰め寄って責めて、責めて、責めて、それでも許せなかったなら自分から別れてしまえばよかったのだ。
なのに、あの頃の私はそうはできず、気付かぬふりと貫いた。
今にして思えば、私が大好きだった翔の傍は、その頃には既に一人でいるよりも寂しくて苦しい場所に変わってしまっていた。
それなのに、あの時、翔の手を離せなかったのは何故だろう。
《意地なのか、執着なのか、恐れなのか……》
それからも胸に一杯一杯にそんな黒い何かを抱えながら、私は翔を求めた。
それなのに翔を好きなのか意地なのかすら、もう分からなかった。
きっと、翔に疑いを持ってしまった私も、もう、翔にとってはそれまでの私ではなくなっていたのだろう。
それに気づかなかった事が、今にして思えば一番愚かだったと思うのに。
人には経験しなければ分からない事が多すぎる。
疑心暗鬼の中で、今まで以上に無理を言って疲れた翔に会う事を強要して……
疲れた様子の翔の前でわざと拗ねたようなことを口にして意地悪く気持ちを計ったりして困らせた。
きっと、可愛げさえ失った私のあの頃の執着は、当時慣れない仕事で一杯一杯だった翔には重すぎたのだと思う。
逢うたびに口論は増え、私の翔への電話回数が増える毎に、翔から私への連絡は目に見えて少なくなっていった。
「疲れているんだ。頼むから普通にしてくれないか?一体何なんだよ?」
何度、そんな言葉を聞いただろう。
でも、どうしてもあの頃の私は、浮気相手の存在を「知っている…」とは告げられなかった。
そうすれば、その瞬間終わりになるかもしれない。
それが怖かった。
そうして、ギクシャクしたまま一年が経った頃、翔から別れを告げられた。
「ごめん……。俺には莉子を幸せにはしてやれない。それにどうせ思うままに生きられないなら、きっと早い方がいいんだ。別れてくれ。」
そう切り出された時、絶望と共にどこかようやくこの日が来たのだと安堵する自分がいた。
私自身、心身をすり減らすあの頃の生活に限界を感じていたのだろう。
きっと、私だけでなく当時の翔もボロボロだった。
かつてはあんなにも互いが一緒にいる事で世界が優しく映し出されていた。
そうだったはずなのにいつの日からか、私達の世界はとっくに色を失っていた。
傷付けあってばかりだった。
振るえる拳を握りながら、ようやく言えた。
「……私の為みたいに、言わないでよ?そんな言い方卑怯だよ?」
そう顔を歪める私に翔は怪訝な顔をした。
それに遣り切れない私はずっと言えなかった言葉を口にした。
「他に、……好きな人がいるんだよね?……私、知ってたよ。ずっと前から知ってたよ!?」
そう絞り出すように言った私の言葉に翔は晴天の霹靂のように目を見開いた。
「ち、違う……、莉子?」
そう言いかけて、翔は苦し気に唇を結んだ。
「だけど……、いや、違わないか」
そして、少しの沈黙の後、酷く苦し気に言った。
「そうだね、莉子…」
その後に続いた翔の言葉を忘れる日は来ないだろう。
「今の俺にはお前より、……楽につき合える女の方が、きっとお似合いだ。」
その言葉に、翔と付き合っていた頃の自分を全て否定されたような気持ちになった。
楽しかった二人の時も、貰った笑顔も、それを留める為にしてきたあらゆる努力も。
ようやく立っている為に使っていた僅かに残るなけなしの気力の全てそぎ落とされるような感覚。
根幹からガタガタと震えそうになる身体。
「そっか……。ごめんね。重くて」
俯いたまま、震えを堪えながらそう言った。
「でも私、翔の事本当に大事だったから、自分の一部くらいに思っちゃうくらいに。でも、きっとそれは間違ってたんだね……」
睨み付けるように翔の瞳を見つめた目からは図らずも涙が溢れた。
「莉子……?」
痛そうに顔を歪める翔に告げた言葉が最期になった。
「……私の、独りよがりだったね。ゴメン」
ようやくそう言って、踵を返した。
それが私達の別れだった。
今にして思えば、翔が言ったように私は重い女だったのだろう。
それくらいに、きっと心が翔に依存し過ぎていたんだと思う。
そんなだから、本当の意味で一人という事に慣れるまでには、想像以上に時間がかかった。
それでも私は藻掻いた。
心が無理なら、身体だけでも必死に動かして、それに心が追いついてくることに一縷の望みをかけて。
そんな中で、私も就職して、過去の思いを振り切るように男の人と再び付き合ってみたけれど、もう以前のように誰かにのめり込むのが怖くなっていて、そんな可愛げのない女の恋は毎度直ぐに終わって、そんなの自業自得だと相手を責める事さえもできやしなかった。
多分、あの頃から私はリアルで生きるには欠陥人間になっていた。
***********
「莉子……?」
そう名を呼ばれて、我に返る。
すっかり高級そうなビジネススーツが板についた目の前の男の瞳を見つめ返す。
席の傍を通り過ぎた女性客の多くが二度見するように振り返るくらいに翔は素敵になっているのだろう。
「あの頃はごめん。莉子に不満があった訳じゃないんだ。ただただ、自分が不甲斐なくて毎日に一杯一杯で、そんな自分をまだまだ社会に出る事に夢を持っている莉子に見られるのが辛くなって、俺さ、順風満帆な社会人でも無かったから……」
そう言われて今なら悟る。
人には自尊心がある。
度重なる就職活動で何度も何度も不採用となった翔。
入社できた唯一の会社はきっと縁故採用だったのだろう。
当時、三丸の系列会社に実力で就職できるような同期はそれは選りすぐりの優秀な人達だったのではないだろうか。
そんな中で就職活動での失敗で自己肯定感を失ったトラウマを抱えながら、“らしく”振舞うしかなかった翔は当時どれほどのストレスを抱えていただろう。
今なら、気遣う心も、かける言葉も選べたかもしれない。
でも、あの頃の私にそれが出来た訳もないのだ。
無邪気な若さが災いしたのだとしたら、実に皮肉だ。
でも、それも人生であり、縁と言うものだったのかもしれない。
そんななか、年下の私に弱音も吐けなかった翔は、きっとその苦労が判る身近な誰かに癒された。
きっと、そんなところなのだろう。
「もう、いいよ。昔のことだから、時効だよ…」
そう言って、ぎこちなく口角を釣り上げようとした私に焦ったように翔は食いついた。
「違う!俺にとっては昔の事じゃない」
その勢いに眉を寄せる。
「翔……?」
その瞬間テーブルの上に肘をついていた手首を引き寄せられて指先をキュッと握られた。
「ちょ……?」
「今も、……あれからも、ずっと探してた。莉子を探すのをやめられなかった。誰と付き合ってても、それなりに真剣に付き合おうと自分の中のルールとして決めてたって、どうしても心が、目が、指先が莉子を探す事をやめないんだ!もしかしたら、また会えるかもしれないって…。」
「ちょっ、翔、何言って、あれから7年だよ??大袈裟に言わないよ?」
「大袈裟なんかじゃない!」
そう、激しく否定した翔だったが、自嘲するように俯いた。
「そう言われても仕方ないよな。そう、俺さ、莉子と別れてから、不甲斐ない話、自分の気持ちなのに直ぐには気付かなかった。馬鹿だよな」
そう言って、一息ついて絞り出された声。
「認めたく無かったんだ。」
「認めたくない?……何を?」
意味が判らず、そう問いかける私に翔は顔を歪めた。
「自分は正しかった。これでよかったんだ。俺は間違ってない。」
そう、呆れたように口にされる言葉。
「翔…?」
「馬鹿だろ?そう思おうとした。俺なりにそう考えて懸命に先に進もうとした。でも……」
「翔……?」
「進めなかった……、進めるはずなんて無かったんだ」
「な、なんで……?」
「だって、莉子のいない毎日は……、莉子のいない毎日でしかないんだ」
「は……?」
その言葉に、今度は私が顔を引き攣らせた。
「そ…、そりゃ、そうだよね?」
そのままの言葉に呆れて、翔にそう突っ込む。
「そうなんだけど、……それじゃ駄目なんだ!だって、何年付き合ってたと思ってるんだ?莉子はもう俺の一部なんだ!!」
その言葉に私は固まった。
ちょっと待てと心が盛大に突っ込みを入れている。
「わ、別れてくれって言ったの翔だよね?」
そうだ、そうだったはずだ。
「分かってる。どれだけ勝手だってことも…」
縋るような目で顔を上げた翔は続けた。
「だから莉子、俺の事、罵ってくれてもいい!殴ってくれたって構わない、だから…」
何故そうなる?
顔を引き攣らせた私は一歩退いた。
「そ、そんな事しないよ?」
その言葉に突き放された子供のような顔を見せた翔は一歩進み出て私の指先を握る手に力を込めた。
「今の俺じゃ駄目?……莉子にとって俺はもう無価値??今なら、今の俺ならきっと莉子を幸せにできる!」
(だから、何故そうなる??)
「何、言ってるのかなぁ?」
自分を落ち着かせるように、あえて軽く受け流す。
でも目の前の相手の勢いは衰える事を知らなかった。
「お願いだ!莉子、俺にもう一度チャンスをくれないか?」
「はい……?」
「きっと、もう一度好きになってもらえるように俺、頑張るから!そして今度こそ二人で幸せになろう!?」
その時、私は全く持って馬鹿みたいな話だが、この目の前の自分勝手極まりない言葉に、一瞬、ほんの一瞬だけ、心が揺らいでしまった。
だって、この人は私に恋愛面での喜怒哀楽の全てを教えてくれた人なのだ。
愛される喜びも、愛する喜びも、それを知るからこその失う事の恐れも……
そして今の私は、時の無常のなかでいつかそんな恋の終わりを認め、乗り越えていく強さを、人が持っている事も知ったはずだった。
それなのに、今目の前にいる男はそうでは無くて……
私が今、この人に抱いている感情は何だろう。
それが私には分からなかった。
**********
「もう少し、話を聞いてくれないか?」
真剣な瞳でそう言われて二件目のバーの個別席に場所を移した。
翔と別れてから7年目にして、こうして私はあの頃、翔が抱えていた本当の悩みと気持ちを聞いた。
翔は、自らの心の内をさらけ出すのを少し躊躇う様子を見せながらも、あの頃の気持ちを訥々と語った。
今の翔は三丸の副社長の養子だと言う。
それを再開してから知った私は、正直意外に思った。
翔はどこか愛に飢えたような甘えたところがあったけれど、金銭観悪はごく普通で、むしろしっかりしていた。
でも、お金持ちだったのは、翔の両親ではなく、翔の亡くなったお母さんの実家だったと聞き、腑に落ちるものがあった。
当時若い大工だった翔のお父さんと翔のお母さんは恋に落ちた。
そんな仲を認めてもらえず、持ち上がる見合い話に耐えきれなかった翔のお母さんは全てを捨てて翔のお父さんの元に走った。
素敵だなと、素直に思う。
だけど、現実はハッピーエンドだけでは終わらない。
駆け落ちしたお母さんは翔が小学校の時に亡くなった。
それから翔は、母方の実家とは交流のないまま父親と二人で暮らしていたという。
「好きだったんだ。親父が、夏には絞れるほどの汗をかいたシャツをぞうきんみたいに絞って、工事の進捗状態を満足そうに語って、お前はいい子してたか?って俺を抱き上げるあの腕が… あの笑顔が…」
小さな頃の翔はお父さんが大好きで、そして父親が手掛ける建物が大好きでその仕事に憧れていた。
「将来は僕も大工になるんだ!」そう嬉しそうに意気込む翔の頭を父親は嬉しそうに撫でながら晩酌していたと言う。
でもその父親が現場の事故による怪我で仕事が出来なくなったのは翔が高校生の頃だったと言う。
そんな経緯から自暴自棄になった父親は酒が手放せなくなり借金がかさんでいた。
翔はそんな話をしながら「よくある話だろ?」って茶化したように寂しく笑った。
当初、奨学金制度を利用して進学して建築の勉強をしようとしていた翔は、進学を諦め、たたき上げで父の様に一人前の大工になろうと就職先を探そうとしていた。
折しもそんな時期に突然の転機が舞い込んだのだ。
若き日の父親を罵倒した祖父からの金銭援助の申し入れだった。
でもその条件は、《父親と縁をきって、叔父の養子に入る事》だったそうだ。
「これだから、あんな男との結婚なんか認めなかったんだ」
祖父と名乗る人物にそう言われた翔はその時、その申し出を即座に断ったのだと言う。
父親と二人で積み重ねてきた暮らしを他人同然の親戚に否定などされたくなかったと言う。
父と二人の生活。寂しくなかったかと言ったら、嘘になるかもしれない。
でもそこにはいい事も悪い事含めて、確かに翔と翔の父親だけが共有するかけがえのない歴史があったから。
だけど数日の後、今度は祖父ではなく、初めて会う叔父がやってきて改めて説得されたと言う。
怜悧な美貌に飄々とした笑みを浮かべた叔父は一つの提案をしたと言う。
この叔父がゲイでイケメンの三丸副社長その人である。
(はぁーん!)
と言う事で、なんとなく話が見えてきた気がした。
きっと、この頃ようやく翔の祖父は息子が男しか愛せない(=もはや孫は期待できない)事を受け入れざるを得なくなったのだろう。
だから、家を継ぐ後継ぎが必要だったと言うわけだ。
(なるほどねぇ……)
翔はこの事を知っているのだろうか?
副社長は言ったのだと言う。
「安心しろ、金は貸してやるだけだ。自分のチャンスを自分で作れるんなら、好きに生きたらいい。でも、大学だけは行っておけ。もしお前の力量で貸した金を返せるくらいの生き方ができるなら好きに生きればいいさ」
迷った末に、翔はその話をのんだ。
突如進学に切り替える事になった翔。
それからの猛勉強で第一志望の大学は逃したが、それでも第二志望の大学には合格をした。
第二志望の大学とは私のでた大学でもあるが、私は長きに渡る猛勉強の末の入学である事を考えると驚きの期間だった。本来造りはハイスペックにできているに違いなかった。
そして叔父からの借入金で父親の借金を清算して、残りのお金で大学に進学した。
だけど、それを報告した翔の父親はそれを機に翔とは口を利かなくなったのだと言う。
きっと、父親としてのプライドを傷つけてしまったんだろうと、翔は苦く笑った。
「その時は分かってもらえなくても、結果で、認めてもらおうと思ったんだ……」
自嘲するように翔は笑った。
あの頃、翔がだんだんと実家に帰らなくなったのはそう言う経緯があったからだと今更知る。
その頃の翔の満たされない気持ち。
それに気付かなかった私。
でもそんな私がその頃の翔を支えてくれたのだと翔は言う。
《莉子の無条件に注いでくれる愛情は本当に心地よかった。それがどれほど特別かもあの頃の俺には分かっていなかったんだ》
翔は、そう言って切なく笑った。
本当に今更で嫌になる。
当時の翔の目標は、建築関係の会社に就職してきちんと収入を得て、叔父からの借金を清算して、父親に会いに行くことだった。
そして、私との結婚を報告したかったのだと……
それが、あの頃、翔が求めていた“未来の幸せの形”だったのだ。
それを聞いて、一つの疑問が解けた。
少なくとも、私達はその頃までは幸せだったんだと。
でも、そうはならなかった。
あの年の就職はそんな多くの若者の真剣な努力すらも受け入れられない程の厳しい状況だった。
まして、大手建築会社を始めとしてその子会社も不況の影響でどこも採用には積極的ではなかった。
建築関係一本で就職活動の準備を進めてきた翔だがそうも言っていられない状況に、他の業種の就職活動も始めたが、専門色が強すぎて逆に努力が足枷になったのだ。
それからは私の知っている通りの二人になっていった。
翔は言った。
自分は一つだけ、決して取り返しのつかない誤解をしてしまっていたのだと。
あの頃、翔に交際相手のいる事を知った叔父は言ったのだという。
『遊びならいい。でも、結婚を考えるなら、それなりの相手をしっかり選びなさい』
それを聞いた私は翔に問いかけた。
「結婚相手はお母さんの実家に相応しい然るべき人とって事だよね?」
7年目の真実に私は目を見開いた。
そんな決断を迫られていたとは…。
それに翔は困ったように顔を歪めた。
「普通、そう思うだろ?俺もそう捉えた。全てを投げ出そうかとも思い悩んだんだ。」
そう言って遣り切れない顔をした翔は続けた。
「でも、どう考えても自信が無かった。その時、叔父から借りている金を無職で背負った俺なんかが、お前を幸せにできるのか、ずっと考えていた。」
「翔……」
それで追い詰められて公私ともに上手くいかなくてどんどん余裕を失くしていったというのだろうか。
「浮気は事実で…、自暴自棄の時、酔って誘われて…、流されて。それで益々莉子に顔向けできなきて…」
「言い訳だよな。別れる覚悟なんてできてなかったのに莉子を傷つけて、どんどん拗れて…、俺が好きだった顔どんどん歪ませて…、それでも別れたくなくて」
「お前段々体調まで崩して、あー、俺のせいだって…。もう潮時なんだって、後ろ髪引かれる思いで別れて、…これでよかったんだって、無理に自分に言い聞かせた。時に食事会に同席する大企業のお偉いさんの娘だとかと食事して、真似事でもいいから恋愛して、それなのに、その度になんか違うって続かなくて…。でも、それでもいいと思ってた。どうせいつか然るべきという結婚相手がきて自分は結婚するんだって、もうどうでもいいってなって、……莉子じゃないなら、もう誰でもいいからって」
「そんな……」
「なのにね、莉子?何時まで経ってもお見合い話なんて来なかったんだ。笑っちゃうだろ?そして、ある日、叔父に問いかけられたんだ」
苦く笑う翔の顔に私は首を傾げた。
「何て、言われたと思う?」
「え、そんなのわかんないけど…」
「お前、いい歳なのに結婚しないのか? ゲイでもないだろうに…だよ」
「へ……?」
(なにそれ?なにそれ?)
「然るべきって……」
そう問いかけた私に、翔はため息を吐きながら教えてくれた。
「(俺が納得のいく、こんな俺のこれからの生活を共に支えるだけの器のある)然るべき女性と言う意味で何気なく言った言葉だったっていうんだぜ、あの人?」
「あ~……」
何とも言えず、私はよく分からないうなり声を上げた。
(尊い恋に生きている人だもんねぇ………あの副社長)
「そんなの、もうとっくに目の前にいたのに! あの頃の俺の傍には……」
涙ぐみながら、縋る様に私を見据える翔。
話が大体わかった私は頭を抱えた。
(言わない方も言わないほうだけど、聞かない方も聞かないほうだよね……?)
「助けると思ってお願いしますよ、莉子先輩!」
私は、目の前に土下座する勢いの三人の男達を見下げて、ヒクヒクと顔を引き攣らせていた。
私の手には、見合い相手の写真……
もとい、元カレである翔の写真がフルフルと震えながら握られている。
「これ……、部長、専務……?」
そう、部長に、牧田、それに加わるもう一人はこの会社の専務だ。
「頼むよ、莉子くん、この通りだ!! 我が社を見捨てないでくれ!!」
「いいお話じゃないか君、まして君の元カレなんだろう?いや、正直驚いたよ、まさか君がなんて。でも、かつては、一つの布団で仲良く同衾する、やっぱりそんな仲だったんだろう?いやはや、驚かされたよ」
「ぶ、部長、さすがにそれはいくら莉子先輩でも……、セクハラと取られても??」
(いくら、莉子先輩でもって、牧田コラっ…)
「あっ、そうかすまない!とにかく、我が社の為に…、ゴホン、いや、君も、そういう事であればそろそろ、まぁなんだ、将来の事を意識してもいい頃合いかと思って、取り合えず受けたんだ。」
(とりあえずって……)
「莉子先輩、怒らないで、会うだけでもいいんです~!! 助けてください!!先方の副社長からの正式なお話なんですよ?莉子先輩、聞けば副社長とも仕事で顔見知りだったっていうじゃないですか?」
「あっ……。」
(私の事覚えていた…?まさか、…でも見合いなんてなんだって…)
「相手を知っての名指しじゃよっぽどの理由がないと断り辛いんです!」
「玉の輿じゃないか!」
「いや、でも君ね、莉子君が結婚しちったら、それはそれで我が社はこれから…」
「はっ……、確かに」
「う~ん、と、兎に角だね、君は会うだけでいい!そうしよう、その後は失礼のないようにお断りしたって…」
「で、でもそれこそ失礼のないように断るなんて難しくないでしょうか?」
「うーん、でもそこは君…、後は個人と個人の話だからね…」
「我々、会社には責任がないと…」
そんなコソコソと続けられる会話を聞くでもなく、三丸の副社長を思い出す。
確かに、何度かあったことがあるのだ。
翔の叔父。
いや、義理の父なーんてことは、全く知らずに……
(だってあの副社長、ダンディなイケメンなんだもの…、そしてカミングアウトはしていないようだが、絶対ゲイなのだ♡)
何度かお会いする機会があって、すぐに分かった。
大好物の匂いを嗅ぎ分けないような私ではない!
そして、三丸副社長は我が社の美貌の企画部課長に狙いを定めていたのだ。ちなみに、企画部課長とは我が社の社長令息でもある。
私はまるで喉を鳴らすような視線を企画課長に注ぐ三丸副社長にいつぞやのパーティの席で、お酒を注ぎながら小さく囁いた。
「いけると思いますわ。企画課長はノンケですが押せば流されるタイプです♡ゴルフ、お好きですか?雨の日なんて、きっと素敵ですわね♡うふふふふ♡」
あの時、三丸副社長の瞳は狙いを定めた獣のように獰猛な輝きを見せた。
その時、名を聞かれた。
「君は?」
「はい、片桐莉子と申します」
「片桐さんか、面白い人だね。覚えておこう」
そう言って微笑む副社長の艶やかな仕草に、その後二人に訪れるドラマを妄想してその夜は悶絶したものだ。ずぶ濡れで時を持て余しながら絡み合う年の離れたダンディな叔父様と普段は寡黙なイケメン上司。
(尊過ぎる……)
そして、季節は代わり、当時企画課長に持ち上がっていた某会社の社長令嬢とのお見合い話が破談となったという噂が社内で広がり、それと時を置かず三丸との業務提携の話が動き出した。
そこに私は一つの尊い恋の成就と、我が社の発展を確信したのだ。
これもまたウィンウィン♡
(それが何故今更、私の見合い話になっている。…何故、こっちに話が流れてくるのか?これは自らの煩悩の為に人を陥れた祟りだろうか?)
***********
そして何故私はここにいるのだろう?
夜景を見下ろすレストラン。
目の前には秀麗なイケメン。
だけどこれは妄想ではなくて、間違いなく嘗ての恋人。
私を絶望に突き落とした当人。
そんな相手が感慨深くジッと私を見つめ、目を細める。「莉子、本当に莉子だ…。」
その瞳にどんな顔を返していいのか分からない私の笑顔はきっと引き攣ったものだろう。
「お決まりでいらっしゃいますか!」
そう店員さんに声をかけられ私から逸らされた目にホッとする。
慣れた様子で料理に合うワインをオーダーする翔。
確か昔も誕生日だか、記念日だかにこんな店に連れて来てもらったかな…。
あの頃は確か、二人とももっと初々しくて、慣れない様子が微笑ましかったと思い出す。
あの頃の翔は、今目の前にいる男のように余裕なんてなくて、むしろ私がしっかりしなきゃなんて気を張ってたな。
オーダーを終えた翔が再び私を見て微笑む。
「莉子が本当に俺の前に座ってるなんて夢みたいだ」
「俺、……ずっと、莉子に逢いたかった」
そう言って、会えなかった時間の寂しさを語る翔。
嘗ての二人の思い出を嬉しそうに、あれだこれだと振り返る目の前の男。
その思い出は確かに私の思いででもあるはずなのにどこか遠い他人の思い出話を聞いているような違和感を感じる自分に戸惑った。
それが7年という時の持つ力なのかもしれない。
そんな私の気持ちにすら気付かず、翔は沈黙を嫌うように、語り続けた。
「覚えてる、莉子の誕生日に二人でディナー食べに来たよね?あの時もさ、俺、気を利かせて頼んだつもりの料理が思ったのと違って、よりによってさ、莉子が最初にオーダーした分と重複してたよね?しかも、俺が食べられないバジルソースのやつでさ、俺、めちゃくちゃ気まずかったのに莉子、…笑って食べてくれて、『大好物はね、いくらでも入るんだよ』って、それなのに刺激が強すぎたのか帰りは気持ち悪いって言ってリバースして、俺メチャクチャ心配して…」
そう言えばそんな事があったなあと、あの頃を思い、初々しかった自分達に頬を緩める。
トイレで背中をさすられながら涙を流した黒歴史を思う。
あの時はひたすら恥ずかしくて死にたかったけど、今思えば微笑ましい若いカップルのエピソード。
そう思うほどには、時は経ち、歳をとったのだろう。
その瞬間、視線を感じて前を見て戸惑った。
ジッと私を見つめる翔の顔は凄く思いつめた表情だった。
「莉子、ずっと言いたかった。ちゃんと謝りたかったんだ」
そう顔を歪めながらも私を真っすぐに見つめる翔の瞳を逸らす事ができなくて私も真っすぐに受け止める。
きっと、あの頃の事を言っているのだろう。
取り乱さないようにと、唇の端をグッと上げて、何とか微笑を保つように翔の言葉の続きを待つ。
もう、昔の事だから、大人の顔をして笑い飛ばせるくらいには成長していたかった。
「そして、ずっと後悔してた」
その悔恨の表情に私のそんな微笑は一掃された。
私の知る翔はこんな顔はしなかった。
もしかしたら私は潜在意識の中で、こんな言葉を聞きたかったのだろうか。
それは、どうしてだろう?
**********
私の知る翔……
真っ直ぐに好きだった人、裏切られるとも思っていなかった翔。
二人の時は永遠に続くんだと信じていたあの頃、翔は私の全てだった。
それが変わってしまったのは何時だったのだろうか。
きっと、私は未だにその境界線を知らない。
私達はいつまで幸せで、いつからそうではなくなってしまったのか。
まだ学生だった頃、私と翔は付き合い始めた。
きっと翔には私は何人目かの恋人で、私にとってはまともにつき合った初めての人だった。
サークルの先輩後輩として出会い、何度目かのサークルイベントでお互いを意識し始め、好きだと確信したころ、翔から告白された。
初めての彼氏が好きな人なことに舞い上がった。
キスもその先も翔が初めてで、二人で過ごす時間は今までに感じた事のない程、満たされていた。
バイトが終わっても、顔を見たくてどこかで待ち合わせて、離れがたくて結局は一緒に朝を迎えた。
そんなことを何度も何度も繰り返しているうちに、半分一緒に住むような状態になって、生活のほとんどを互いが支配していった。
少しでも離れているのが寂しくて、互いに里帰りすらあまりしなくなって、私達は若い日々を春夏秋冬いつも共に過ごした。
春には花見をして、温かくなったねって海を見に行って、日が暮れるのを浜でぼんやりみつめた。
夏には毎年二人で浴衣を着て恋人繋ぎで花火にでかけて何度も大輪の光の華に見とれた。
花火を見よう場所取りしていた公園で夕立に逢い、濡れ鼠のようになってホテルに駆けこんで抱き合って笑った事もあった。
頬を冷たい風が冷やすようになった秋には、「やっぱりさんまだよね」って、私が魚を焼いている間に翔が大根をおろして二人で安いビールで乾杯して…
冬には、二人で冬支度をして、正方形の小さなこたつで身を寄せ合ってお気に入りのビデオを見て、毎年クリスマスには私の覚えたての手作り料理とスパークリングワインで小さなテーブルを拙い料理で一杯にして乾杯した。
ありきたりな学生同士の付き合いだった。
互いのよくあるワンルームマンションを行き来する日々。
でも、それが何よりも満たされていて幸せだった。
多分あの頃はお互いの気持ちは同じだった。
そうしてそんな春夏秋冬を何度二人繰り返しただろう。
あのころ当たり前に繰り返された季節のなかでいくつもの笑顔を留めていた写真すらも、今ではほとんど私の手元にはない。
きっと、それは翔も同じだろう。
それでも、今もこの胸にあの頃この目に映った数々の思い出は鮮明に焼き付いている。
桜が綺麗だったことも
空一面の大きな花火も
夏の匂いも…
若い日の何をも恐れない恋愛と言うのはきっと人生の中で一番印象が強いからだろうか。
今も変わらず訪れる春夏秋冬の風の香りにあの頃と同じ空気を感じ足を止め……
通り過ぎる車から流れる、あの頃流行した音楽に切なさと懐かしさが込み上げて……
レンタル映画のリストに手を止めて、共に見た人の顔を思い浮かべる……
そして、年に一度訪れる日は、必ず私の心を騒めかせる。
何度も祝った誕生日。
嫌でも自然と思い出すその記念日に、別れた相手の年齢を再認識して、そんなじぶんに自嘲する。
きっと、それくらいには好きだった。
一つ年上だった翔が卒業を控えて就職活動を始めたあの頃は社会的に見ても、とても就職が厳しい年だった。
就職試験で一つ、二つと不採用通知が届く度に、翔は無口になった。
「だ、大丈夫だよっ!だって、こういうのって出会いのものっていうじゃない?きっと翔の事分かってくれる会社があるよ、ね!?」
そう言って励ましていたあの頃、きっと一年早く、世間の厳しさを知った翔と私の世界は歪み始めていたのかも知れない。
翔は就職活動の進捗状況を私に話すのを嫌がる様になった。
そして、ある日、唐突に就職が決まった事を告げられたけど、そこに翔の笑顔は無かった。
今思えば、あの時の私にはピンとは来なかったけれど、その就職先は三丸商事の関連会社だったのだと思う。
ようやく決まった就職に手をたたいて「良かったね」って自分の事のように喜ぶ私に翔は少し皮肉に見える笑顔で小さく笑った。
「俺の力じゃないけどね……」って、どこか冷めた表情を浮かべた翔。
ふと今更そんな表情を思い出してハッとした。
翔は叔父である三丸の副社長の養子だと会社の情報では聞いた。
(あぁ…)
そして悟った。
あの日、翔が顔を歪めていた理由を……。
私があの頃、良かれと思って安易に翔にかけていた言葉。
「きっと翔の事分かってくれる会社に出会えるから!」
あの頃の私なりに励ましのつもりだった。
でも、今ならその言葉は、諸刃の剣となりうるかもしれない怖さを知っている。
一歩間違えれば翔の存在価値すらも否定する呪いにすらなり得る言葉。
この歳になり多くの新社会人と関わっているからこそ分かる事もある。
ガラスの様に傷つき安い心を皆必死に守りながら、何とか社会の中で生きて行こうとしている。
時に壁を作ったり、生き辛さを払拭する為に、本来の自分とは別の愛されキャラを作ったり……。
あの頃の翔は少し気まぐれなところもあったけど、なんだかんだと私にはとても優しい人だった。
まるで気まぐれな猫の様で、時に甘く時に気まぐれで、そんなところが堪らなく愛しかった。
背中を向けていると思ったら、ウトウトしている間にじゃれるように抱きしめられていたり、朝までは張り切って出かけると言っていたのに、曇天の空を見上げて、急に布団に潜り込んだり。
そして私の知る翔は、少しだけ人間関係においては不器用な人だった。
器用でセンスも良くて、慣れた仕事ならきっとそつなくこなせるタイプ。
頭も切れるし、喋りも説得力がある。
それでも人見知りが災いして、人に容易く心を開けなくて、自己アピールが苦手な人。
親しい人にしか自分をさらけ出さないタイプ。
そんなだから、集団の輪に馴染むのにいつも時間がかかるのだ。
ルックスがいいだけに嫌味ととられる事も多かった。
だから、認めてもらうのに時間がかかる人。
一旦仲間だと認め合ったら、結構頼りになるハイスペックな一面も持っていた。
(でも、家事能力だけは極端に低かったっけ……)
片付けや、洗濯物に苦戦していた翔を思い出し、目を細める。
「莉子助けて……」
そう言って甘えられて苦手な家事の一切を引き受けた。
それに気持ちよさそうに上手に甘えていた翔。
甘えられるのが嬉しかった私。
それが私の知っている翔。
優秀さをグラフにしたならきっと歪な円を描く。
そんな愛しい人だった。
(今の翔は…?)
どんな円を描くのか。
大人になる事は、社会で生きる事は、何かを演じ続ける事に似ている。
あの頃、私より一年先に就職した翔は、一見以前と変わらないように私に接してくれたけど、私には日々翔が変わっていくのが分かって苦しかった。
社会人一年生と就職活動中の学生。
どちらにも心に余裕なんてある訳は無かった。
私と一緒にいるときにもどこか心ここにあらずな事が多くなった翔。なんとなく仕事に悩んでいる事も私なりに分かっていたつもりだった。
けれど、まだ学生だった私には気の利いた事なんてできなくて、私にできることは自分から会いに行ったり、料理を作ったりすることだけだった。
疲れた顔を見せる翔。
そんな頃、時々携帯にかかった電話に私の前では出なくなり、少し時間をおいて場所を変えて折り返す事が多くなった。
そんな翔を何気なさを装って探りを入れる度に面倒臭そうに話を逸らされる日々。
距離を詰めようとすればするほど、その距離が開いていく感覚が怖かった。日々翔が遠く感じるようになり不安に押し潰されそうだった。
ある日、翔がシャワーを浴びている時に鳴った携帯。その電話に何かを感じた私は無言でそれに出てしまった。
「翔君?私。この間は楽しかった。今度、いつ会えるかなって思って」
そう含みを持たせた妖艶な言い回しで信じたくなかったけど、一つの事実を悟った。
(あぁ、そういう関係の女性がいたんだ……)
それでも、翔を失いたくなかった。
本当に馬鹿だと思う。
やめとけばいいのに…
本当に今にして思えば、あの頃の私に本当にそう言いたい。
それ以上傷つく前に翔に詰め寄って責めて、責めて、責めて、それでも許せなかったなら自分から別れてしまえばよかったのだ。
なのに、あの頃の私はそうはできず、気付かぬふりと貫いた。
今にして思えば、私が大好きだった翔の傍は、その頃には既に一人でいるよりも寂しくて苦しい場所に変わってしまっていた。
それなのに、あの時、翔の手を離せなかったのは何故だろう。
《意地なのか、執着なのか、恐れなのか……》
それからも胸に一杯一杯にそんな黒い何かを抱えながら、私は翔を求めた。
それなのに翔を好きなのか意地なのかすら、もう分からなかった。
きっと、翔に疑いを持ってしまった私も、もう、翔にとってはそれまでの私ではなくなっていたのだろう。
それに気づかなかった事が、今にして思えば一番愚かだったと思うのに。
人には経験しなければ分からない事が多すぎる。
疑心暗鬼の中で、今まで以上に無理を言って疲れた翔に会う事を強要して……
疲れた様子の翔の前でわざと拗ねたようなことを口にして意地悪く気持ちを計ったりして困らせた。
きっと、可愛げさえ失った私のあの頃の執着は、当時慣れない仕事で一杯一杯だった翔には重すぎたのだと思う。
逢うたびに口論は増え、私の翔への電話回数が増える毎に、翔から私への連絡は目に見えて少なくなっていった。
「疲れているんだ。頼むから普通にしてくれないか?一体何なんだよ?」
何度、そんな言葉を聞いただろう。
でも、どうしてもあの頃の私は、浮気相手の存在を「知っている…」とは告げられなかった。
そうすれば、その瞬間終わりになるかもしれない。
それが怖かった。
そうして、ギクシャクしたまま一年が経った頃、翔から別れを告げられた。
「ごめん……。俺には莉子を幸せにはしてやれない。それにどうせ思うままに生きられないなら、きっと早い方がいいんだ。別れてくれ。」
そう切り出された時、絶望と共にどこかようやくこの日が来たのだと安堵する自分がいた。
私自身、心身をすり減らすあの頃の生活に限界を感じていたのだろう。
きっと、私だけでなく当時の翔もボロボロだった。
かつてはあんなにも互いが一緒にいる事で世界が優しく映し出されていた。
そうだったはずなのにいつの日からか、私達の世界はとっくに色を失っていた。
傷付けあってばかりだった。
振るえる拳を握りながら、ようやく言えた。
「……私の為みたいに、言わないでよ?そんな言い方卑怯だよ?」
そう顔を歪める私に翔は怪訝な顔をした。
それに遣り切れない私はずっと言えなかった言葉を口にした。
「他に、……好きな人がいるんだよね?……私、知ってたよ。ずっと前から知ってたよ!?」
そう絞り出すように言った私の言葉に翔は晴天の霹靂のように目を見開いた。
「ち、違う……、莉子?」
そう言いかけて、翔は苦し気に唇を結んだ。
「だけど……、いや、違わないか」
そして、少しの沈黙の後、酷く苦し気に言った。
「そうだね、莉子…」
その後に続いた翔の言葉を忘れる日は来ないだろう。
「今の俺にはお前より、……楽につき合える女の方が、きっとお似合いだ。」
その言葉に、翔と付き合っていた頃の自分を全て否定されたような気持ちになった。
楽しかった二人の時も、貰った笑顔も、それを留める為にしてきたあらゆる努力も。
ようやく立っている為に使っていた僅かに残るなけなしの気力の全てそぎ落とされるような感覚。
根幹からガタガタと震えそうになる身体。
「そっか……。ごめんね。重くて」
俯いたまま、震えを堪えながらそう言った。
「でも私、翔の事本当に大事だったから、自分の一部くらいに思っちゃうくらいに。でも、きっとそれは間違ってたんだね……」
睨み付けるように翔の瞳を見つめた目からは図らずも涙が溢れた。
「莉子……?」
痛そうに顔を歪める翔に告げた言葉が最期になった。
「……私の、独りよがりだったね。ゴメン」
ようやくそう言って、踵を返した。
それが私達の別れだった。
今にして思えば、翔が言ったように私は重い女だったのだろう。
それくらいに、きっと心が翔に依存し過ぎていたんだと思う。
そんなだから、本当の意味で一人という事に慣れるまでには、想像以上に時間がかかった。
それでも私は藻掻いた。
心が無理なら、身体だけでも必死に動かして、それに心が追いついてくることに一縷の望みをかけて。
そんな中で、私も就職して、過去の思いを振り切るように男の人と再び付き合ってみたけれど、もう以前のように誰かにのめり込むのが怖くなっていて、そんな可愛げのない女の恋は毎度直ぐに終わって、そんなの自業自得だと相手を責める事さえもできやしなかった。
多分、あの頃から私はリアルで生きるには欠陥人間になっていた。
***********
「莉子……?」
そう名を呼ばれて、我に返る。
すっかり高級そうなビジネススーツが板についた目の前の男の瞳を見つめ返す。
席の傍を通り過ぎた女性客の多くが二度見するように振り返るくらいに翔は素敵になっているのだろう。
「あの頃はごめん。莉子に不満があった訳じゃないんだ。ただただ、自分が不甲斐なくて毎日に一杯一杯で、そんな自分をまだまだ社会に出る事に夢を持っている莉子に見られるのが辛くなって、俺さ、順風満帆な社会人でも無かったから……」
そう言われて今なら悟る。
人には自尊心がある。
度重なる就職活動で何度も何度も不採用となった翔。
入社できた唯一の会社はきっと縁故採用だったのだろう。
当時、三丸の系列会社に実力で就職できるような同期はそれは選りすぐりの優秀な人達だったのではないだろうか。
そんな中で就職活動での失敗で自己肯定感を失ったトラウマを抱えながら、“らしく”振舞うしかなかった翔は当時どれほどのストレスを抱えていただろう。
今なら、気遣う心も、かける言葉も選べたかもしれない。
でも、あの頃の私にそれが出来た訳もないのだ。
無邪気な若さが災いしたのだとしたら、実に皮肉だ。
でも、それも人生であり、縁と言うものだったのかもしれない。
そんななか、年下の私に弱音も吐けなかった翔は、きっとその苦労が判る身近な誰かに癒された。
きっと、そんなところなのだろう。
「もう、いいよ。昔のことだから、時効だよ…」
そう言って、ぎこちなく口角を釣り上げようとした私に焦ったように翔は食いついた。
「違う!俺にとっては昔の事じゃない」
その勢いに眉を寄せる。
「翔……?」
その瞬間テーブルの上に肘をついていた手首を引き寄せられて指先をキュッと握られた。
「ちょ……?」
「今も、……あれからも、ずっと探してた。莉子を探すのをやめられなかった。誰と付き合ってても、それなりに真剣に付き合おうと自分の中のルールとして決めてたって、どうしても心が、目が、指先が莉子を探す事をやめないんだ!もしかしたら、また会えるかもしれないって…。」
「ちょっ、翔、何言って、あれから7年だよ??大袈裟に言わないよ?」
「大袈裟なんかじゃない!」
そう、激しく否定した翔だったが、自嘲するように俯いた。
「そう言われても仕方ないよな。そう、俺さ、莉子と別れてから、不甲斐ない話、自分の気持ちなのに直ぐには気付かなかった。馬鹿だよな」
そう言って、一息ついて絞り出された声。
「認めたく無かったんだ。」
「認めたくない?……何を?」
意味が判らず、そう問いかける私に翔は顔を歪めた。
「自分は正しかった。これでよかったんだ。俺は間違ってない。」
そう、呆れたように口にされる言葉。
「翔…?」
「馬鹿だろ?そう思おうとした。俺なりにそう考えて懸命に先に進もうとした。でも……」
「翔……?」
「進めなかった……、進めるはずなんて無かったんだ」
「な、なんで……?」
「だって、莉子のいない毎日は……、莉子のいない毎日でしかないんだ」
「は……?」
その言葉に、今度は私が顔を引き攣らせた。
「そ…、そりゃ、そうだよね?」
そのままの言葉に呆れて、翔にそう突っ込む。
「そうなんだけど、……それじゃ駄目なんだ!だって、何年付き合ってたと思ってるんだ?莉子はもう俺の一部なんだ!!」
その言葉に私は固まった。
ちょっと待てと心が盛大に突っ込みを入れている。
「わ、別れてくれって言ったの翔だよね?」
そうだ、そうだったはずだ。
「分かってる。どれだけ勝手だってことも…」
縋るような目で顔を上げた翔は続けた。
「だから莉子、俺の事、罵ってくれてもいい!殴ってくれたって構わない、だから…」
何故そうなる?
顔を引き攣らせた私は一歩退いた。
「そ、そんな事しないよ?」
その言葉に突き放された子供のような顔を見せた翔は一歩進み出て私の指先を握る手に力を込めた。
「今の俺じゃ駄目?……莉子にとって俺はもう無価値??今なら、今の俺ならきっと莉子を幸せにできる!」
(だから、何故そうなる??)
「何、言ってるのかなぁ?」
自分を落ち着かせるように、あえて軽く受け流す。
でも目の前の相手の勢いは衰える事を知らなかった。
「お願いだ!莉子、俺にもう一度チャンスをくれないか?」
「はい……?」
「きっと、もう一度好きになってもらえるように俺、頑張るから!そして今度こそ二人で幸せになろう!?」
その時、私は全く持って馬鹿みたいな話だが、この目の前の自分勝手極まりない言葉に、一瞬、ほんの一瞬だけ、心が揺らいでしまった。
だって、この人は私に恋愛面での喜怒哀楽の全てを教えてくれた人なのだ。
愛される喜びも、愛する喜びも、それを知るからこその失う事の恐れも……
そして今の私は、時の無常のなかでいつかそんな恋の終わりを認め、乗り越えていく強さを、人が持っている事も知ったはずだった。
それなのに、今目の前にいる男はそうでは無くて……
私が今、この人に抱いている感情は何だろう。
それが私には分からなかった。
**********
「もう少し、話を聞いてくれないか?」
真剣な瞳でそう言われて二件目のバーの個別席に場所を移した。
翔と別れてから7年目にして、こうして私はあの頃、翔が抱えていた本当の悩みと気持ちを聞いた。
翔は、自らの心の内をさらけ出すのを少し躊躇う様子を見せながらも、あの頃の気持ちを訥々と語った。
今の翔は三丸の副社長の養子だと言う。
それを再開してから知った私は、正直意外に思った。
翔はどこか愛に飢えたような甘えたところがあったけれど、金銭観悪はごく普通で、むしろしっかりしていた。
でも、お金持ちだったのは、翔の両親ではなく、翔の亡くなったお母さんの実家だったと聞き、腑に落ちるものがあった。
当時若い大工だった翔のお父さんと翔のお母さんは恋に落ちた。
そんな仲を認めてもらえず、持ち上がる見合い話に耐えきれなかった翔のお母さんは全てを捨てて翔のお父さんの元に走った。
素敵だなと、素直に思う。
だけど、現実はハッピーエンドだけでは終わらない。
駆け落ちしたお母さんは翔が小学校の時に亡くなった。
それから翔は、母方の実家とは交流のないまま父親と二人で暮らしていたという。
「好きだったんだ。親父が、夏には絞れるほどの汗をかいたシャツをぞうきんみたいに絞って、工事の進捗状態を満足そうに語って、お前はいい子してたか?って俺を抱き上げるあの腕が… あの笑顔が…」
小さな頃の翔はお父さんが大好きで、そして父親が手掛ける建物が大好きでその仕事に憧れていた。
「将来は僕も大工になるんだ!」そう嬉しそうに意気込む翔の頭を父親は嬉しそうに撫でながら晩酌していたと言う。
でもその父親が現場の事故による怪我で仕事が出来なくなったのは翔が高校生の頃だったと言う。
そんな経緯から自暴自棄になった父親は酒が手放せなくなり借金がかさんでいた。
翔はそんな話をしながら「よくある話だろ?」って茶化したように寂しく笑った。
当初、奨学金制度を利用して進学して建築の勉強をしようとしていた翔は、進学を諦め、たたき上げで父の様に一人前の大工になろうと就職先を探そうとしていた。
折しもそんな時期に突然の転機が舞い込んだのだ。
若き日の父親を罵倒した祖父からの金銭援助の申し入れだった。
でもその条件は、《父親と縁をきって、叔父の養子に入る事》だったそうだ。
「これだから、あんな男との結婚なんか認めなかったんだ」
祖父と名乗る人物にそう言われた翔はその時、その申し出を即座に断ったのだと言う。
父親と二人で積み重ねてきた暮らしを他人同然の親戚に否定などされたくなかったと言う。
父と二人の生活。寂しくなかったかと言ったら、嘘になるかもしれない。
でもそこにはいい事も悪い事含めて、確かに翔と翔の父親だけが共有するかけがえのない歴史があったから。
だけど数日の後、今度は祖父ではなく、初めて会う叔父がやってきて改めて説得されたと言う。
怜悧な美貌に飄々とした笑みを浮かべた叔父は一つの提案をしたと言う。
この叔父がゲイでイケメンの三丸副社長その人である。
(はぁーん!)
と言う事で、なんとなく話が見えてきた気がした。
きっと、この頃ようやく翔の祖父は息子が男しか愛せない(=もはや孫は期待できない)事を受け入れざるを得なくなったのだろう。
だから、家を継ぐ後継ぎが必要だったと言うわけだ。
(なるほどねぇ……)
翔はこの事を知っているのだろうか?
副社長は言ったのだと言う。
「安心しろ、金は貸してやるだけだ。自分のチャンスを自分で作れるんなら、好きに生きたらいい。でも、大学だけは行っておけ。もしお前の力量で貸した金を返せるくらいの生き方ができるなら好きに生きればいいさ」
迷った末に、翔はその話をのんだ。
突如進学に切り替える事になった翔。
それからの猛勉強で第一志望の大学は逃したが、それでも第二志望の大学には合格をした。
第二志望の大学とは私のでた大学でもあるが、私は長きに渡る猛勉強の末の入学である事を考えると驚きの期間だった。本来造りはハイスペックにできているに違いなかった。
そして叔父からの借入金で父親の借金を清算して、残りのお金で大学に進学した。
だけど、それを報告した翔の父親はそれを機に翔とは口を利かなくなったのだと言う。
きっと、父親としてのプライドを傷つけてしまったんだろうと、翔は苦く笑った。
「その時は分かってもらえなくても、結果で、認めてもらおうと思ったんだ……」
自嘲するように翔は笑った。
あの頃、翔がだんだんと実家に帰らなくなったのはそう言う経緯があったからだと今更知る。
その頃の翔の満たされない気持ち。
それに気付かなかった私。
でもそんな私がその頃の翔を支えてくれたのだと翔は言う。
《莉子の無条件に注いでくれる愛情は本当に心地よかった。それがどれほど特別かもあの頃の俺には分かっていなかったんだ》
翔は、そう言って切なく笑った。
本当に今更で嫌になる。
当時の翔の目標は、建築関係の会社に就職してきちんと収入を得て、叔父からの借金を清算して、父親に会いに行くことだった。
そして、私との結婚を報告したかったのだと……
それが、あの頃、翔が求めていた“未来の幸せの形”だったのだ。
それを聞いて、一つの疑問が解けた。
少なくとも、私達はその頃までは幸せだったんだと。
でも、そうはならなかった。
あの年の就職はそんな多くの若者の真剣な努力すらも受け入れられない程の厳しい状況だった。
まして、大手建築会社を始めとしてその子会社も不況の影響でどこも採用には積極的ではなかった。
建築関係一本で就職活動の準備を進めてきた翔だがそうも言っていられない状況に、他の業種の就職活動も始めたが、専門色が強すぎて逆に努力が足枷になったのだ。
それからは私の知っている通りの二人になっていった。
翔は言った。
自分は一つだけ、決して取り返しのつかない誤解をしてしまっていたのだと。
あの頃、翔に交際相手のいる事を知った叔父は言ったのだという。
『遊びならいい。でも、結婚を考えるなら、それなりの相手をしっかり選びなさい』
それを聞いた私は翔に問いかけた。
「結婚相手はお母さんの実家に相応しい然るべき人とって事だよね?」
7年目の真実に私は目を見開いた。
そんな決断を迫られていたとは…。
それに翔は困ったように顔を歪めた。
「普通、そう思うだろ?俺もそう捉えた。全てを投げ出そうかとも思い悩んだんだ。」
そう言って遣り切れない顔をした翔は続けた。
「でも、どう考えても自信が無かった。その時、叔父から借りている金を無職で背負った俺なんかが、お前を幸せにできるのか、ずっと考えていた。」
「翔……」
それで追い詰められて公私ともに上手くいかなくてどんどん余裕を失くしていったというのだろうか。
「浮気は事実で…、自暴自棄の時、酔って誘われて…、流されて。それで益々莉子に顔向けできなきて…」
「言い訳だよな。別れる覚悟なんてできてなかったのに莉子を傷つけて、どんどん拗れて…、俺が好きだった顔どんどん歪ませて…、それでも別れたくなくて」
「お前段々体調まで崩して、あー、俺のせいだって…。もう潮時なんだって、後ろ髪引かれる思いで別れて、…これでよかったんだって、無理に自分に言い聞かせた。時に食事会に同席する大企業のお偉いさんの娘だとかと食事して、真似事でもいいから恋愛して、それなのに、その度になんか違うって続かなくて…。でも、それでもいいと思ってた。どうせいつか然るべきという結婚相手がきて自分は結婚するんだって、もうどうでもいいってなって、……莉子じゃないなら、もう誰でもいいからって」
「そんな……」
「なのにね、莉子?何時まで経ってもお見合い話なんて来なかったんだ。笑っちゃうだろ?そして、ある日、叔父に問いかけられたんだ」
苦く笑う翔の顔に私は首を傾げた。
「何て、言われたと思う?」
「え、そんなのわかんないけど…」
「お前、いい歳なのに結婚しないのか? ゲイでもないだろうに…だよ」
「へ……?」
(なにそれ?なにそれ?)
「然るべきって……」
そう問いかけた私に、翔はため息を吐きながら教えてくれた。
「(俺が納得のいく、こんな俺のこれからの生活を共に支えるだけの器のある)然るべき女性と言う意味で何気なく言った言葉だったっていうんだぜ、あの人?」
「あ~……」
何とも言えず、私はよく分からないうなり声を上げた。
(尊い恋に生きている人だもんねぇ………あの副社長)
「そんなの、もうとっくに目の前にいたのに! あの頃の俺の傍には……」
涙ぐみながら、縋る様に私を見据える翔。
話が大体わかった私は頭を抱えた。
(言わない方も言わないほうだけど、聞かない方も聞かないほうだよね……?)
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