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こんな弱気は身体のせいでしょうか?
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熱を出した。
やはり倉庫室の冷風を長時間受けたのが良くなかったのだろう。
完全に自業自得だ。
体温計を見つめると三十八度を少し超えていた。
病院に行くほどでもないと思い込む。
何をする気もおこらないのだ。
今日会社を休ませてもらったら、三連休なのが救いだった。
熱い息を持て余しながら会社に電話をしたら飛鳥ちゃんがでた。
「大丈夫ですか?莉子先輩、病院、行きました?」
ごめんね、と謝る私を気遣いながらも快く引き継ぎの指示を受ける飛鳥ちゃんの成長に目を細める。
飛鳥ちゃんは研修の後、本人の希望もあり、私の補佐をしてくれている。
この三年間、多くの新社会人と過ごしてきた。
泉を始め、各部門でその活躍を耳にする事も増えてきた。最近では良縁を得たと家庭を持つ者も出始めた。
素直に嬉しく思う。
でも、最近どうした事か、時が流れているという当たり前の事に寂しさのようなものを感じる。
何故だろう。
きっと、身体がこんなだから弱気になっているだけ。
見送る背中なんて見慣れてるはずなのだ。
それこそが、私の喜びであり、私の収穫なのだから。
でも、何故だろう。
子供のように、離れていく後ろ姿に手を伸ばしたくなる。そんな時、何故か目に浮かび遠ざかる温かい背中はとても、大きくて広いのだ。
布団に縮こまり体を丸める。
さっきよりも熱が上がっているのかも知れない。
寒気にガタガタと震える。
ひっきりなしに込み上げる咳に体力を奪われて、内臓まで酷く苦しい。
眠りたいのに眠る事すらできない。
こんな事なら、何とか歩けるうちに、面倒がらずに病院に行くべきだったのだろう。ここまで悪化するとは思わなかった。悔やんでも今更だ。
こうなってしまえば、ひたすらに我慢するしかない。
痛みや辛さが過ぎてくれるのをジッと待つことしかできないのだ。
こんな状態は何かに似ている。
(寒い、苦しい、辛い、泣きたい…)
それでも、誰にも訴える事などできない。
酷く心細い。
小さな子供だったら、こんな時は母がいてくれたと顔を歪める。でも今は私一人…。
再婚して旦那さんと高校生の義理の子供達の世話に日々奮闘している母にこんないい歳になって迷惑なんてかけられない。
こんな時は親の言葉が身に染みる。
「結婚、考えてみたらどうかしら?お見合いって方法もあるじゃない?ね、莉子ちゃん、ずっと一人って訳にもいかないでしょ?お母さん心配だわ…」
そんかありふれた言葉を上手く流しながら生きてきた。それで大丈夫だと思ってきた。
私には妄想があるから大丈夫だと、寂しくなんてない。上手くやってみせるって。
でも、今、リアルに直面していた。
(あぁ、私、もしかするとこのまま、…死んじゃったりするのかな…)
死んでしまったら…
本当のところ、人はどうなるのだろう?
身体は無くなる。
——じゃあ、心は?
多分、永遠に無が続くのだと思う。
もしくは、まるで夢でも見ているように、まだ知らぬどこかを終わりなく彷徨うのだろうか。
だとしたら、私はどんな夢を見ようか。
私の心一つで決められて、誰にも迷惑をかけない世界なら。そうだ…
——大きな大きな優しい犬を抱きしめて、子供のように無邪気に笑っていよう。
ずっと一緒だと抱きしめていよう。
☆
苦しさに夢と現実を何度も行き来していた。
何度目の夢だろうか、酷く騒がしい音がした。
ドアをたたく乱暴な音…
ドアの前で争うような険しい声…
そして突然、大きな塊に覆い被さられ、揺さぶられる。頰に冷たくて大きな手の感触。
「莉子先輩!?、大丈夫ですか?意識、ありますか??」
お願いですから、答えてください!!
その声を最期に安心したのだろう。
私は意識を完全に手放した。
やはり倉庫室の冷風を長時間受けたのが良くなかったのだろう。
完全に自業自得だ。
体温計を見つめると三十八度を少し超えていた。
病院に行くほどでもないと思い込む。
何をする気もおこらないのだ。
今日会社を休ませてもらったら、三連休なのが救いだった。
熱い息を持て余しながら会社に電話をしたら飛鳥ちゃんがでた。
「大丈夫ですか?莉子先輩、病院、行きました?」
ごめんね、と謝る私を気遣いながらも快く引き継ぎの指示を受ける飛鳥ちゃんの成長に目を細める。
飛鳥ちゃんは研修の後、本人の希望もあり、私の補佐をしてくれている。
この三年間、多くの新社会人と過ごしてきた。
泉を始め、各部門でその活躍を耳にする事も増えてきた。最近では良縁を得たと家庭を持つ者も出始めた。
素直に嬉しく思う。
でも、最近どうした事か、時が流れているという当たり前の事に寂しさのようなものを感じる。
何故だろう。
きっと、身体がこんなだから弱気になっているだけ。
見送る背中なんて見慣れてるはずなのだ。
それこそが、私の喜びであり、私の収穫なのだから。
でも、何故だろう。
子供のように、離れていく後ろ姿に手を伸ばしたくなる。そんな時、何故か目に浮かび遠ざかる温かい背中はとても、大きくて広いのだ。
布団に縮こまり体を丸める。
さっきよりも熱が上がっているのかも知れない。
寒気にガタガタと震える。
ひっきりなしに込み上げる咳に体力を奪われて、内臓まで酷く苦しい。
眠りたいのに眠る事すらできない。
こんな事なら、何とか歩けるうちに、面倒がらずに病院に行くべきだったのだろう。ここまで悪化するとは思わなかった。悔やんでも今更だ。
こうなってしまえば、ひたすらに我慢するしかない。
痛みや辛さが過ぎてくれるのをジッと待つことしかできないのだ。
こんな状態は何かに似ている。
(寒い、苦しい、辛い、泣きたい…)
それでも、誰にも訴える事などできない。
酷く心細い。
小さな子供だったら、こんな時は母がいてくれたと顔を歪める。でも今は私一人…。
再婚して旦那さんと高校生の義理の子供達の世話に日々奮闘している母にこんないい歳になって迷惑なんてかけられない。
こんな時は親の言葉が身に染みる。
「結婚、考えてみたらどうかしら?お見合いって方法もあるじゃない?ね、莉子ちゃん、ずっと一人って訳にもいかないでしょ?お母さん心配だわ…」
そんかありふれた言葉を上手く流しながら生きてきた。それで大丈夫だと思ってきた。
私には妄想があるから大丈夫だと、寂しくなんてない。上手くやってみせるって。
でも、今、リアルに直面していた。
(あぁ、私、もしかするとこのまま、…死んじゃったりするのかな…)
死んでしまったら…
本当のところ、人はどうなるのだろう?
身体は無くなる。
——じゃあ、心は?
多分、永遠に無が続くのだと思う。
もしくは、まるで夢でも見ているように、まだ知らぬどこかを終わりなく彷徨うのだろうか。
だとしたら、私はどんな夢を見ようか。
私の心一つで決められて、誰にも迷惑をかけない世界なら。そうだ…
——大きな大きな優しい犬を抱きしめて、子供のように無邪気に笑っていよう。
ずっと一緒だと抱きしめていよう。
☆
苦しさに夢と現実を何度も行き来していた。
何度目の夢だろうか、酷く騒がしい音がした。
ドアをたたく乱暴な音…
ドアの前で争うような険しい声…
そして突然、大きな塊に覆い被さられ、揺さぶられる。頰に冷たくて大きな手の感触。
「莉子先輩!?、大丈夫ですか?意識、ありますか??」
お願いですから、答えてください!!
その声を最期に安心したのだろう。
私は意識を完全に手放した。
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