リアルの恋は卒業したのですが猫系エリート商社マンの元カレと駄犬系後輩に迫られて困っています

たまりん

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私の賞味期限はいつだったのでしょうか?

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目覚めたのは、その日の深夜だった。

「莉子先輩、目、覚めたっすか?体調どうですか?」

はっとした顔で覗き込まれ、元々繋がれていただろう手に力がギュと込められる。

一瞬状況が理解できなかった。

「い、ずみ…?なんで…?」

「ここ……」

白い天井に白い壁…
この独特の匂いと空間にここが病院の一室なのだと思い当たる。

その瞬間、泉の顔が引き攣った。

「なんで、じゃありません!」

突然そう言われて、目を見開く。
怒ったような泣きそうな顔。

「どうしてですか…?」

「え……」

「どうしてあんなになるまで、一人で我慢なんてするんですか?」

「もっと、…もっと早く知っていたら、何を投げ出してでも、俺、速攻で飛んで行きました…」

悔しそうに歯痒そうに深まる鳶色の瞳。

「なのに、ほんと、…なんなんですか?」

引き攣った口角が切なく歪む。

「前なら…、きっと、相談してくれましたよね?」

責めるように私を睨み付ける泉。

「こんな状態で一人で、もし、もしも、万が一の事があったらどうするんですか?」

「泉…」

「…………」

沈黙の後、絞り出すような声で泉は問いかけた。

「俺が、俺がいけなかったからですか…?」

「え………?」

「俺がしたからですか?」

「…………」

「……………」

その言葉に固まった。
沈黙に耐えかねた。

「え、えっと、…ごめん?」

完全にそう…
なんだけど、この状況で本人を前にして「そうだ」なんてとても言い辛い。

泉の勢いに、謝ることしか出来ない私に、泉は情けなさそうに顔を歪ませた。気のせいか目が血走ってる。

「俺、涙流しながら苦しんで、どんどん息が細くなっていく莉子先輩見て、メッチャ怖かったっす。このまま、…もしも、このまま、…莉子先輩が俺の前からいなくなったらどうしようって…」

まるで置いていかれる子供みたいな頼りない顔。

「泉……?」

クシャって崩れた顔で言葉を続ける泉。

「待ってる時間、生きた心地がしなくて、なのに何にもできなくて、俺、怖くて不安で…」

「もう、大丈夫って、…やっと、そう医師に言われた瞬間、俺、一気に吐き気が込み上げて、トイレで胃が空っぽになるまで、吐いて吐いて吐きまくりました!」

その言葉にギョッとした。

「えっ…、えええ??そっ、それって、私、もしかして、泉に何か変な病気移してたの?大丈夫なの?」

あまりの事実に狼狽える。
そんな私の言葉に苛立ったように泉は声を荒げた。

!それくらい、俺の身体と心が【莉子先輩を無くす不安 】に拒否反応を示したって言ってるんです!」

「え、…なんで?」

不可解な泉の言葉に素朴な疑問が口を突いた瞬間、泉が信じられないとばかりに、顔を強張らせた。

「なんで…?今、って言いました?あんた…」

「だって……」

「だって、何すか?」

「いや、その…、私なんかの為になんでかなって…、その…」

「その…、何ですか?」

「えっと…、ちょっと、?」

そう言った瞬間、泉の顔は憤怒の形相に変わった。

(誰?誰だよ?泉が、小さな事じゃ怒らないって言ってた人…、ここで滅茶苦茶怒っていらっしゃいますが…)

「あんたって人は…」

そう切り出された瞬間、病室のドアが開いた。

「あのっ、もう深夜ですので、お静かにお願いしますね!あら、患者さん目を覚まされたんですね?よかったですね、彼氏さん!」

(かっ、彼氏…?今、そう言った?)

看護師さんはそう諫めたが、その後、労うように泉に目を細めた。

そして、私に向けて微笑んだ。「ほんとに、見てられないほど心配されてたんですよ、直る病気ですからね、安静にして早く良くなってあげてくださいね」と言い残して去っていった。

閉められたドアの前で、静寂に包まれる。

「なんか…、ゴメン、えっと、色々と…?」

状況をようやく少しだけ察した私はそう呟いた。
その言葉のせいか、看護師さんに叱られたからなのか、同じく少し冷静になった様子の泉は息を吐いた。

「俺も、…すみません。病人相手に取り乱して…」

静かに首を振り、初めて言った。

「ううん、泉、ありがとう。来てくれて嬉しかった…」

そう伝えると泉はこの日初めて表情を緩めた。
鳶色の目尻に少しだけ浮かぶ笑い皺。
こんな顔の泉を見るのがなんだかすごく久しぶりで、泣きたくなった。

ポンと大きな手が頭におかれる。

「そう思うなら、ご褒美に心ゆくまで看病させてください…」

「そんなご褒美ってあるの?」

「あるんです。大丈夫、ちゃんと下心込みですから」

その言葉に驚き、ケヒョケヒョと咳き込むと、泉は困ったように笑った。

「大丈夫ですよ、いくら俺でも大事な莉子先輩の身体に障るようなことはしませんから、だから、安心して側に置いてください」

そう言われて小さく笑って頷いた。
そして、そのまま俯いた私は、今この瞬間揺さぶられる感情を顔に出さないように必死に耐えた。

なんか、泣きそうだった。

「泉、…ごめん、喉乾いちゃって、何かスポーツドリンク飲みたい」

「了解っす、ちょっと待っててくださいね!」

そんな私のお願いにさえも、心なしか嬉しそうにドアを開けて出て行く泉。顔を見られたくない、狡い私を疑いもしない。

こんなだから、困るのだ。

自然に優しくて、自然に側にいて…
そしてすごく居心地がいいから、拒めない。

今なら、少しだけ理解できる。

《あんた俺が好きなんですよ…》

《だって、俺、そうなるように努力してきましたもん》

あの言葉の意味。

泉は昔からそうだった。
自分を過大評価も、過少評価もしない。
いつも、全力投球で努力し続ける。

自分を心配する泉の姿…

(泉は、私の事が好き…?)

初めて、その可能性を言葉として心に浮かべた。

(じゃあ、わたしは…?…私は泉が……)

そう導き出そうとした瞬間、心に重たい何かが渦巻く。

(泉と…、私……)

さっきの看護師さんの言葉を思い出す。

《彼氏さん、良かったですね…》

その言葉に安堵の笑顔で頷くように目を細めた泉。

暗くなった病室の窓にはカーテンがされていなくて、少し窶れた私の顔が窓に映る。

さすがに酷い顔をしていると自嘲する。
それなのに、自分の顔から目が離せない。

——私は、まだ、泉の隣に並べるだろうか?

会社の若い女の子達の姿を思い浮かべる。
そして自分の面立ちを重ねる。

顔立ちは、たぶん少し童顔…
昔から、お世辞にも色気のあるタイプではなかった。
でも、昔みたいなハリやあどけなさはもう無い。

他人の容姿と自分の容姿を比べて一喜一憂する。

こんな気持ちを抱く自分が酷く汚く思えた頃を思い出す。三十を目前として、また同じ感情を持て余す日々がくるのだろうか。

そんな事実が嫌で怖くて堪らないのに、その一方で、気付きかけてる思いがある。

という思い。

今日一日で貰った泉の優しさ。

心配してくれる姿
怒ってくれる姿
安心させてくれる大きな手の平
安堵の笑顔
どんな時でも私の為に必死で…。

あれが全て自分の為だけに向けられる愛情なら、両手を広げてしがみ付きたいほど、今、愛おしいと思う。

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