声を失くした女性〜素敵cafeでアルバイト始めました〜

MIroku

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Sweets Party ④

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 時刻は午後3時半。ホテルを後にし、駅の前で百合と別れた後、3人は電車に乗り帰路についた。

 お腹がいっぱいになり、睡魔が襲う。電車に揺られ、うつらうつらと頭を上下させる未来と梓。勇気と明彦は店頭での販売について話し合っていた。

 駅に到着し、勇気は寄り添いあって寝ている2人を起こしす。2人は飛び起き、慌てて電車から降りる。

 「危なかった……店長ありがとう」

 「どういたしまして」

 勇気はニッコリと笑って返事をする。未来はペコリと頭を下げてお礼をした。

 駅で明彦と別れ、3人は“水面カフェ”に向かって歩く。道中、梓が今日のスイーツについて、熱く語っていた。

 「おや?」

 勇気が急に立ち止まり、2人も慌てて止まる。

 「どうしたの?」

 「いや、店の前に誰かが立っているのですが……」

 梓と未来は店の方を見る。そこには、男性が1人立っていた。とても深妙な顔つきで、店の前に貼られた“都合により、今週の土曜、日曜は休ませて頂きます”の張り紙を凝視していた。

 「ちょっと尋ねてきますね」

 そう言って勇気は男性に向かい走る。2人はその後に続き、男性の元へと向かった。

 「どうかされましたか?」

 勇気が笑顔で尋ねる。男性は驚いた様子で勇気を見た。未来達も合流し、不思議そうに首を傾げた。

 「……あの、えっと…貴方は?」

 少したじろぎながら、勇気に問い掛ける男性。勇気はニッコリと笑い、自己紹介をした。

 「“水面カフェ”の店長をしております、皆本 勇気みなもと ゆうきと申します。何かお困りでしたらお話を伺いましょうか?」

 「柊 梓ひいらぎ あずさです。この店でアルバイトしています。こっちは菊永 未来きくなが みらいさん。同じくアルバイトをしています」

 未来はペコリと頭を下げて挨拶をした。

 「い、いえ……ちょっとこの店が気になっただけで……でも今日はお休みなんですね」

 「もう用事は済んだので、コーヒーでもいかがです?」

 勇気が笑顔で休憩して行く事を勧める。その理由は未来にもわかった。

 この男性、かなり疲れている。体も、心も。目は窪み、隈がハッキリと浮き出ており、髪もボサボサで、しばらく櫛を通されていない様だ。頬がこけ、顔色が悪い事から、恐らくは睡眠不足なのだろう。スーツを着ているのだが、皺が目立ち、クリーニングもされていない様だった。

 「いえ……本当に結構です……すみません……失礼いたしました」

 そう言って立ち去ろうとする男性を引き留め、勇気は名刺を渡す。

 「何かご用がございましたら、いつでもご相談下さい。いつでも歓迎致します」

 「あ……ありがとうございます……」

 名刺を仰々しく受け取る男性。自分も名刺を取り出し、勇気、未来、梓に渡した。

 「椚 保徳くぬぎ やすのりです。またお伺いします」

 「ご丁寧にありがとうございます。いつでもお待ちしております」

 勇気はそう言った後、笑顔で頭を下げて見送った。2人も勇気に倣い、お辞儀をして見送る。保徳は軽く頭を下げ、足速に去って行った。

 「何だろうね? あの人」

 梓がポツリと呟いた。未来は首を傾げて返事をする。

 「きっと、何かあるんでしょう。困っている事が」

 勇気は遠い目をしながら梓の呟きに答えた。

 「困っている事があるなら、お店に入って話せば良いのに。話すだけでも楽になるもんでしょ?」

 「いえ、そうとは限りません。一時的に楽にはなれど、その根本から直す事は出来ないんです。それに、今日はこれで十分です。後は椚さんが自分でこの店に来るのを待ちましょう」

 「あの人、また来るかな?」

 「きっと来ますよ。それも近いうちに」

 未来は勇気の言葉に頷いた。未来は保徳にかつての自分と同じ様な空気を感じ取った。恐怖や不安、それともうひとつ、何かとても大きな感情が、保徳を追い詰めている様に感じた。

 「さて、今日の夕飯は外食にしますか? 私がご馳走します」

 勇気の提案に梓と未来の顔が明るくなった。

 「え⁉︎ いいの⁉︎ ビュッフェも奢ってもらったのに‼︎」

 「えぇ、普段頑張ってくれている2人へのお礼です。何が良いですか?」

 「やったー‼︎‼︎ 私、焼肉が良い‼︎」

 未来も梓の意見に対し、コクコクと頷いた。

 「では、焼肉にしましょう。その前に少し散歩をして、ちょっとでもお腹を空かせてから行きましょうか」

 「はーい‼︎ 散歩ついでにお花見もしたい‼︎」

 「ははは、わかりました」

 そう言って3人は歩き出す。途中、“相田コーヒー店”により、明彦を誘うと飛び跳ねて喜んだ。
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