声を失くした女性〜素敵cafeでアルバイト始めました〜

MIroku

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水面カフェ新めにゅー ③

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 「ふーん。“創作料理”ねぇ~……」

 百合がチラシを眺めながら呟いた。勇気が百合の呟きに苦虫を噛み潰した様な表情で答える。

 「えぇ、柊さんが“暇”だと言うので、刺激になればと思ったのですが…」

 「刺激が強過ぎたのね……」

 沢山の料理が並ぶテーブルの前に、百合と勇気が座っていた。

 未来と梓は、料理研究の為にと、勇気と百合に味見役を頼み、試作品を作っていた。

 2人とも真剣に取り組んでいるので、勇気と百合は2人に協力し、味見役を買って出たのだが……

 「まさか……これ程の事態になるとは思いもしませんでした……」

 目の前に置かれた様々な料理を前に、軽くため息を吐きながら勇気が言った。

 「私も……もうお腹いっぱいで吐きそう……」

 苦しそうにお腹を押さえ、百合は机に突っ伏した。

 2人の胃袋は既に限界に達し、“もう1ミリの隙間も無い”と悲鳴を上げている。そんな2人の事は何処吹く風と、未来と梓は思い思いの料理を作っては勇気と百合の前に並べるのだった。

 「もう駄目だ……助っ人を呼ぼう…このままだと殺される……」

 「そ、そうですね……」

 百合はスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。

 「……うん。そう、だから出来るだけ多く……3人? 構わないわ、助かる。えぇ……出来るだけ早く……」

 「どなたに声を掛けたのです?」

 スマートフォンを鞄にしまう百合に、勇気が尋ねた。

 「明彦ん所に協力要請をした……3人来てくれるんですって」

 「それは有難いですね」

 既にテーブル2つ分になった料理を見て、勇気と百合が蒼褪めながら、頼もしい助っ人の到着を待った。

 10分後……

 “チリンチリン”

 ドアベルが鳴り、明彦が顔を出した。

 「な、何っすか⁉︎ この状況⁉︎」

 テーブルにズラリと並ぶ料理の数々。美味しそうに見える物もあれば絶対に口にしたくない様な料理もあった。

 明彦はその光景を見て、叫ばずにはいられなかった。

 「………あれ? 明彦1人?」

 百合が虚ろな目で明彦を見る。3人で来ると聞いていたが、明彦1人の姿しか無い。

 「残りの2人は俺と交代で来るっす。流石に店を空ける訳にはいかないので、交代で来る事にしたっす」

 「何でもいいわ……お願いだから……目の前の料理を美味しく食べて頂戴……あとは………たの………んだわ…………よ………」

 「え⁉︎ 百合さん⁉︎ 大丈夫っすか⁉︎」

 テーブルの上で突っ伏したまま気を失う百合。明彦は不安を覚えながらも、椅子に座り、割り箸を割った。

 「百合さんの仇は必ず取るっす‼︎」

 手当たり次第、料理に箸を伸ばす明彦に対し、勇気は救世主を見る様な眼差しを向けた。

 「普通に旨いっすけど……どれもひと味足りない様な気がするっすね」

 と、感想を言う余裕がある事に頼もしさを覚える。

 「でも、この黒い塊シリーズは食べる気しないっすけど」

 明彦が皿に乗った“黒く焦げた物”を眺めて言う。その黒く焦げた物を乗せている皿がいくつもあった。

 「これ、食べたら駄目なやつっすよね? 体に悪そうっす…」

 「………すみませんねぇ…それ、一応はハンバーグのつもりなのですよねぇ~……」

 背後から梓に声をかけられ、驚き飛び上がる明彦。梓の声はとても低くていつになく透き通った声だった。その為か、より一層怖く感じられた。

 「ビックリした‼︎ 梓ちゃんいたんっすか⁉︎」

 「えぇ、新しい料理を運んできて、”たまたま“明彦さんの呟きが聞こえたんですよねぇ~」

 “どうぞ”と、明彦の前に“黒い物シリーズ”が置かれる。

 「こ、これは? 一体何っすか?」

 「見てわかりませんか?」

 「見てわからないから聞いているんっす……それに、話し方もいつもの調子に戻して欲しいっす……」

 「見て分からぬのであれば、食べれば良いではありませぬか。見た目程味は悪くない故、箸休めに最適かと存じます。さあさ、どうぞ遠慮なさらず、お召し上がりくださいまし」

 「何っすかその喋り方‼︎ もはや別キャラっすよ⁉︎ どこの時代劇っすか‼︎」

 「何よ‼︎ 早く食べてよ‼︎」

 「いやぁ~…これはちょっと……」

 明彦は話をそらす為、別の料理を指差して言う。

 「これなんか良くできてるっすよね⁉︎ 味もなかなか美味しかったっす」

 「それ…未来さんが作った料理」

 「あ、そうなんっすか? じゃあこっちの肉じゃがは?」

 「それも未来さん」

 「えっと……じゃあ梓ちゃんが作った料理ってどれっすか? それから食べるっす」

 梓が無言で“黒焦げ”シリーズを指差して行く。明彦は顔が青くなっていった。“そんなお約束的展開はいらないっす”と、心の中で文句を言った。

 「えぇい‼︎ 男に二言は無いっす‼︎」

 と覚悟を決め、“黒焦げ”シリーズを平らげた後、青い顔が青白く変化し、気を失った。
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