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水面カフェ新めにゅー ④
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“チリンチリン”
ドアベルが静まり返る店内に鳴り響く。恐る恐る顔を覗かせたのは桃華と保徳、それに良太だった。
「マスター? もうお店閉めましたよ?」
保徳が気を失っている明彦の肩を叩き、声をかける。明彦は微動だにせず、口からよだれを垂らしながら白目を向いていた。
「返事がない。ただのしかばねの様だ」
「こら‼︎ 良太‼︎ 縁起でもない事を言うんじゃない‼︎」
「そうよ。良太君、まだ息があるから、死んでなんかいないわ」
良太は不機嫌に“ただの冗談じゃん”と口を尖らせ、ふてくされていた。
保徳は改めて店を見渡すと、明彦以外にも勇気、百合がテーブルに突っ伏して眠っていた。
「一体これは……」
「私達の料理を食べたせいだよ」
背後から声をかけられ、驚き飛び跳ねる保徳。慌てて振り向くと、薄暗い厨房で未来と梓がうずくまっていた。
「み、未来さん? 梓さん? どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたも無いよ。さっき言った通り、私達の料理を食べ過ぎてこうなっちゃったの。悪気は無かった、殺すつもりもなかったの……」
「いやいや、誰も死んではいませんって‼︎」
梓にツッコミを入れた後、保徳は梓に経緯をざっくりと聞き、両手を組んで考え込んでいた。
「料理大会ですか……」
「うん。それで私と未来さんが参加する事になたの」
「それで練習にと…」
保徳が辺りを見渡すと、テーブルの上のはまだ料理が数種類並んでいた。
「お二人とも……1つ申し上げますと、“料理の腕”と言うのは、作った料理の数で上がるのもでは無いと思います」
未来と梓は顔を合わせ、保徳の言葉が理解出来なかったのか首を傾げた。
首を傾げる2人を見た保徳は、少しため息を吐いた後、口を開く。
「お二人にとって、“料理”とは何でしょうか?」
2人はそれぞれ腕を組み考えた。未来が何かを思いついた様にホワイトボードに文字を書き、保徳に見せた。
『食べ物を作る事?』
「未来さんにとって、“料理”とは“食べ物を作る事”なんですね?」
未来は保徳の言葉にコクコクと頷いた。
「私もそう考えてた」
梓も未来と同意見だと言う。保徳は少し微笑み、2人の顔を交互に見て言った。
「確かに、“料理”と言う言葉を幅広く捉えれば“食べ物を作る事”と結びつける事も可能でしょう。しかし、食材の加工から口に入れるまでの工程を大きく分離した場合、“食べ物を作る事”は一般的に“調理”と言い、食べられる様に既に加工されている物を更に食べ易くする為に行う工程が“料理”と言います。なので“料理”とは、相手が食べ易いかを考えて、食材の味付け等を行う事です」
保徳がそう2人に説明すると、それを聞いていた桃華が感心した様に目を輝かせ、保徳を尊敬の眼差し見つめていた。
「なるほど……“相手の事を考えて”かぁ…」
梓は腕を組み、考え込む様に俯いた。未来はホワイトボードに文字を書き、保徳に見せる。
『料理は愛情って、そう言う事だったのですね』
「あ、それ私も思った」
梓は未来の文字を読んで言った。その回答を聞いた保徳は満足気に頷き、2人を笑顔で見つめた。保徳が何かを話そうと口を開きかけた時、桃華が話し出す。
「椚さんすごいです‼︎ 私、感激しました‼︎」
梓が急に話し出した桃華を見た後、保徳の顔を見て、表情のみで“誰?”と尋ねた。保徳は苦笑いし、頬をかきながら桃華の紹介を始めた。
「この人は私と一緒に“相田コーヒー店”で働いている“須々木 桃華”と言います」
「桃華です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる桃華に対し、梓と未来も頭を下げ、自己紹介を簡潔にする。
「柊 梓です」
『菊永 未来です』
「で、桃華さんは何に感激したの?」
会話の腰を折られた梓は、不機嫌な声で桃華に尋ねる。
「それは勿論、椚さんの知識の深さと広さにです。“料理は相手の事を考えて作る”ものだと、確かにその通りだと思います‼︎ 私も料理する時、椚さんの事を考えながら作ると上手く行きますから‼︎」
「はぁ……そうなんだ。って、事はだよ? 桃華さんって、料理が得意だったりするの?」
梓は桃華に尋ねた。桃華は笑顔で梓を見て、恥ずかしそうに頷いた。
「決めた‼︎ 桃華さん、私に料理を教えて‼︎ その胸焼けしそうな保徳さんへの愛情は置いておいて、料理の仕方を教えて下さい‼︎」
「私で良ければ喜んで」
桃華は笑顔で手を差し伸べた。梓は頷き、桃華の手を握る。こうして梓は、桃華に料理の教えを請う事になったのだった。
毎日“相田コーヒー店”で料理を習う事を考える約束し、その事を聞いた明彦が“勘弁してくれ”と叫んでいたが、明彦の意見は梓によって全て無視された。
未来は梓と共に桃華の元で料理を学ぼうかと思っていたが、梓ともライバル関係にある現在、一緒に習っても仕方がないと思い、最強の助っ人にメールを送るのであった。
ドアベルが静まり返る店内に鳴り響く。恐る恐る顔を覗かせたのは桃華と保徳、それに良太だった。
「マスター? もうお店閉めましたよ?」
保徳が気を失っている明彦の肩を叩き、声をかける。明彦は微動だにせず、口からよだれを垂らしながら白目を向いていた。
「返事がない。ただのしかばねの様だ」
「こら‼︎ 良太‼︎ 縁起でもない事を言うんじゃない‼︎」
「そうよ。良太君、まだ息があるから、死んでなんかいないわ」
良太は不機嫌に“ただの冗談じゃん”と口を尖らせ、ふてくされていた。
保徳は改めて店を見渡すと、明彦以外にも勇気、百合がテーブルに突っ伏して眠っていた。
「一体これは……」
「私達の料理を食べたせいだよ」
背後から声をかけられ、驚き飛び跳ねる保徳。慌てて振り向くと、薄暗い厨房で未来と梓がうずくまっていた。
「み、未来さん? 梓さん? どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたも無いよ。さっき言った通り、私達の料理を食べ過ぎてこうなっちゃったの。悪気は無かった、殺すつもりもなかったの……」
「いやいや、誰も死んではいませんって‼︎」
梓にツッコミを入れた後、保徳は梓に経緯をざっくりと聞き、両手を組んで考え込んでいた。
「料理大会ですか……」
「うん。それで私と未来さんが参加する事になたの」
「それで練習にと…」
保徳が辺りを見渡すと、テーブルの上のはまだ料理が数種類並んでいた。
「お二人とも……1つ申し上げますと、“料理の腕”と言うのは、作った料理の数で上がるのもでは無いと思います」
未来と梓は顔を合わせ、保徳の言葉が理解出来なかったのか首を傾げた。
首を傾げる2人を見た保徳は、少しため息を吐いた後、口を開く。
「お二人にとって、“料理”とは何でしょうか?」
2人はそれぞれ腕を組み考えた。未来が何かを思いついた様にホワイトボードに文字を書き、保徳に見せた。
『食べ物を作る事?』
「未来さんにとって、“料理”とは“食べ物を作る事”なんですね?」
未来は保徳の言葉にコクコクと頷いた。
「私もそう考えてた」
梓も未来と同意見だと言う。保徳は少し微笑み、2人の顔を交互に見て言った。
「確かに、“料理”と言う言葉を幅広く捉えれば“食べ物を作る事”と結びつける事も可能でしょう。しかし、食材の加工から口に入れるまでの工程を大きく分離した場合、“食べ物を作る事”は一般的に“調理”と言い、食べられる様に既に加工されている物を更に食べ易くする為に行う工程が“料理”と言います。なので“料理”とは、相手が食べ易いかを考えて、食材の味付け等を行う事です」
保徳がそう2人に説明すると、それを聞いていた桃華が感心した様に目を輝かせ、保徳を尊敬の眼差し見つめていた。
「なるほど……“相手の事を考えて”かぁ…」
梓は腕を組み、考え込む様に俯いた。未来はホワイトボードに文字を書き、保徳に見せる。
『料理は愛情って、そう言う事だったのですね』
「あ、それ私も思った」
梓は未来の文字を読んで言った。その回答を聞いた保徳は満足気に頷き、2人を笑顔で見つめた。保徳が何かを話そうと口を開きかけた時、桃華が話し出す。
「椚さんすごいです‼︎ 私、感激しました‼︎」
梓が急に話し出した桃華を見た後、保徳の顔を見て、表情のみで“誰?”と尋ねた。保徳は苦笑いし、頬をかきながら桃華の紹介を始めた。
「この人は私と一緒に“相田コーヒー店”で働いている“須々木 桃華”と言います」
「桃華です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる桃華に対し、梓と未来も頭を下げ、自己紹介を簡潔にする。
「柊 梓です」
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「で、桃華さんは何に感激したの?」
会話の腰を折られた梓は、不機嫌な声で桃華に尋ねる。
「それは勿論、椚さんの知識の深さと広さにです。“料理は相手の事を考えて作る”ものだと、確かにその通りだと思います‼︎ 私も料理する時、椚さんの事を考えながら作ると上手く行きますから‼︎」
「はぁ……そうなんだ。って、事はだよ? 桃華さんって、料理が得意だったりするの?」
梓は桃華に尋ねた。桃華は笑顔で梓を見て、恥ずかしそうに頷いた。
「決めた‼︎ 桃華さん、私に料理を教えて‼︎ その胸焼けしそうな保徳さんへの愛情は置いておいて、料理の仕方を教えて下さい‼︎」
「私で良ければ喜んで」
桃華は笑顔で手を差し伸べた。梓は頷き、桃華の手を握る。こうして梓は、桃華に料理の教えを請う事になったのだった。
毎日“相田コーヒー店”で料理を習う事を考える約束し、その事を聞いた明彦が“勘弁してくれ”と叫んでいたが、明彦の意見は梓によって全て無視された。
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