鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

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第二話

張り巡らされた糸の中で(上)⑭

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「お前……一体何者だ?」

俺も、驚愕し震えている百合子に代わり、そう問いかけるのが精一杯だった。
百合子との容姿の違いは、黒い髪、真っ白な肌、やや大人びているところだ。
しかし、雰囲気は全く違う。
身震いを覚える妖艶さ、それに奴に纏わりついている禍々しい闇の気配。
その力は、鳥飛光の当主クラス……それ以上かもしれない。
奴は微笑むと、俺達に一歩近づき、一礼した。

「私は、鶯黒 美夜おうぐろ みや
ダスク魔道教団の最高指導者を務めさせていただいている者です。
鷹空……いえ、ここでは空見と名乗るようですね?
空見 凱さん……お会いできて嬉しいですわ。」

鶯黒 美夜?
聞いた事が無い名だ。
しかも、こいつがダスク魔道教団の最高指導者……納得は行く。
俺は小声で百合子の様子を伺う。

「百合子、大丈夫か?」

「は、はい。」

百合子は返事を返してはきたが、鶯黒美夜という女を見つめたまま、ほぼ固まっている。
ここに居て、一番動揺しているのが百合子だというのは分かるが、聞かなければならない。

「この女のこと、知っているか?」

『何故、この女はお前と同じ顔をしている?』などとは聞けなかった。
その問いに百合子は、

「い、いえ……初めてお会いしました。」

俺に返答し、首を横に振った。
さて、どうするか?
……いや、何を迷う必要があるのだ。

「とにかく、こいつは敵の、ダスク教の親玉ってことは間違いねえ!」

俺が構えると同時に、朱兄や先輩達も、鶯黒美夜と鶯黒弥宵を囲むように集まってきた。

「あらあら……これは物々しいこと。」

鶯黒美夜は集まってきた朱兄達を見回すと、口元を手で隠しながらクスクスと笑っている。

「なんだ……こいつは!?」

朱兄達も、鶯黒美夜が百合子にそっくりなことに、少し動揺しているようだった。
鶴星セキュリティサービスの先輩達は、鶯黒美夜と百合子を交互に見て近くの社員と顔を見合わせていた。

この状況下で、鶯黒美夜の部下でもあるハウレスとアンドラスは、俺達の動きを阻止しようとしなかった。
それどころかハウレスは、こちらを遠巻きに見ながらニヤニヤと笑っている。
奴らの余裕な態度が、鶯黒美夜という存在が、どれほどの実力者なのかを物語っているように思えた。

「私は傷ついた娘を助けに来ただけで、貴方達に危害を加えるつもりはございません。」

「鶯黒 美夜、と言ったな?
こちらには、人質もいるんだ。大人しくしていただこうか?」

朱兄は、百合子の魔法『光の結界』に捉えられている鶯黒悠の近くに素早く移動し、奴に光輪を突き付けた。
鶯黒美夜は「はぁ…」と溜息をつくと、

「悠……いつまで遊んでいるのです?
そのくらい、貴方が本気を出せば、どうにでも出来るでしょう?」

悠を優しい声で窘めた。

「疲れるんですよ。
それに『奥の手』は、まだ見せたくないですし。
叔母様の力で、ちゃちゃっと僕の事を助けてくれませんかー」

鶯黒悠は、お手上げといったポーズを取る。
こいつが、トップを捕まえて馴れ馴れしく『おばさま』と言っているということは、そういう関係なのだろうか?
確かに、この二人は、どことなく似ている気がする。

「ちょっと悠!
アンタねぇ!ママに向かって失礼じゃない!?」

鶯黒弥宵が腰に手を当てて、悠を咎める。
逆に、この女を『ママ』と呼んでいる鶯黒弥宵は、鶯黒美夜と全く似ていない。
養女なのか、それともトップを母と呼ぶのが、鶯黒弥宵の習慣なのかもしれないが……

「いいのよ。弥宵ちゃん……全く仕方のない子ね。」

鶯黒美夜は悠に対して呆れを口にはしたが、優しい笑みを浮かべていた。
百合子であれば聖母を思い起こさせるが、この女からは禍々しさと妖艶さ以外感じられない。

鶯黒美夜が、結界に捕らわれていた鶯黒悠に向かって手をかざした。
奴の全身から黒く禍々しい魔力が立ち昇ってくると、鶯黒悠を覆っていた球体状の結界がパリンという音を立てて砕け散った。

「へぇ……少し、本気を出してしまいました。
流石です……小夜啼 百合子さん。」

鶯黒美夜は、百合子の方を見て、微笑んだ。
百合子は顔を真っ青にしながら後退る。
俺は、百合子を鶯黒美夜から守る様に、前に出た。
途端に、俺は奴から明らかな殺気を感じとり、額や背中に冷や汗がドッと流れ始めた。
……やはり、この二人の間には、百合子の知らない因縁があるようだ。

「叔母様、ありがとうございます。」

鶯黒悠は、胸に手を当てて鶯黒美夜に一礼すると、俺達を見回しニヤニヤと笑みを浮かべながら、鶯黒美夜の下に向かう。
朱兄は、悔しさに歯を食いしばりながら、鶯黒悠を見送った。

「さて、用も済みましたし、私はこれで失礼します。
……と言いたいところですが、私としても悠の提案に乗っていただきたいのですが?」

鶯黒美夜は、穏やかに言うと、朱兄を指差した。
奴の体から立ち昇る、鋭い妖気とヤバさを感じ取った俺は、朱兄に向かって、

「朱兄、逃げろ!」

と、大声を上げた。
朱兄は俺の声に反応し、咄嗟に体を横に動かすが、早いとかそういう次元では回避出来ないものだったのかもしれない。
奴の魔法によって、朱兄の光輪を持った右手首はスッパリと切断され、地面にぽとりと落ちた。

「うッ!ぐああああああああッ!」

朱兄の絶叫が辺りに響き渡る。
切断された箇所から血が吹き出し、地面を真っ赤に染めた。

「鶴星さん!」

百合子は咄嗟に朱兄のところに駆け寄ろうとするが、

「動かないでください!」

鶯黒美夜の鋭い声に、百合子は足を止めた。

「今のは、ハウレスへのお返しです。
……次は、分かっていますよね?」

鶯黒美夜は次に俺に指を向けた。

「やっぱ、そう来たか。」

自分でも驚くほど、冷静な声が出た。
次は俺に『娘』の仕返しをするつもりだろう。

「返答次第では、貴方のしたことは水に流して差し上げます。
そもそも、凱君。貴方は悠の考えたゲームに、参加するつもりだったのでしょうか?」

鶯黒美夜は微笑んだまま、俺に問いかける。
この状況なら一択でしかないのだが……
実の兄のように慕っている朱兄を傷つけられ、俺からは、今まで感じていた恐怖は消え去っていた。今あるのは鶯黒美夜に対する激しい怒りだけだった。

参加するかクソ野郎!
そういいながら飛び掛かろうと意を決した瞬間。
突然、空に表れた腕が、鶯黒美夜の首に巻き付いた。

「あら?」

鶯黒美夜は間抜けな声を上げながら、首を絞め上げた者によって、バク転するように宙を舞い、顔面をコンクリートに叩きつけられた。

「あはッ!」

更に、首を捻り上げられながら、キャメルクラッチのように頭を強引に引き上げられ、苦痛の声を上げた。
俺も驚いたが、この場にいるほとんどの人間は、何が起こったのか理解できず呆気にとられていた。
腕が空から現れた時、それが誰なのか、すぐに感づいたが……

「お袋!何故ここに!」

鶯黒美夜をぶん投げたのは、うちのお袋・空見 怜姫そらみ れいきだった。

「凱……こういう状況では冷静さが肝心だと、いつも言っているだろう?」

お袋は、鶯黒美夜の首を絞めたまま、強引に立ち上がらせる。

「ママッ!」

ようやく状況を理解した鶯黒弥宵の悲痛な叫び声が辺りに響き渡る。

「全く気づきませんでした。
今のが、『空見流空術』というものですか?
確かに、魔法とは違う……」

鶯黒美夜は顔のあちこちに血を滲ませ、ついでに鼻血を流しながらも、平静を保ったままだった。
鶯黒美夜をぶん投げた技は、『空見流柔術・奈落』と呼ばれている。
空見流柔術の中では、かなりえげつない殺人技の一つで、競技試合では使用を禁止されている。
それをもろに食らったのだ。顔面の骨だけではなく、頸椎を破壊されていても、おかしくはないのだが……

「黙れ。」

お袋は凄むと、鶯黒美夜の首を締め上げ、ダスク教の面々に向かい合う。

「さて、大事な教祖様を殺されたくなかったら、奪った降魔の神器を全て、こちらに返してもらおうか?」

お袋は鶯黒悠達に声を張り上げた。
しかし、鶯黒悠、ハウレス、アンドラス、それどころか鶯黒弥宵も笑っているだけで、何も答えようとしない。

「さっきから、何を言っているのです?」

どこからともなく、鶯黒美夜の声が辺りに響き渡る。
鶯黒悠と鶯黒弥宵の間に黒い渦が現れ、そこに鶯黒美夜が現れた。

「何!」

それに合わせて、お袋が締め上げていた鶯黒美夜は、黒いエネルギー体に変貌すると、膨れ上がって破裂し、その衝撃波でお袋を吹っ飛ばした。

「うあああああああ!」

「お袋!」

俺は咄嗟にお袋を受け止め、そのまま地面を転がり、体勢を整えるが、

「クッ…ソ……!」

お袋は、そう一言残すと気を失った。

「お袋!」

お袋に気を取られていると、

「きゃあッ!」

俺は、百合子の声に、ハッと顔を上げた。
鶯黒美夜が百合子の首を掴んで、持ち上げていた。

「凱君。最後にもう一度だけ、聞きましょう。
ゲームへの参加、いかがなさいますか?
断るのならば……分かりますよね?」

鶯黒美夜はニッコリと笑みを浮かべた。
蛇に睨まれた蛙とはこのことか……
俺は恐怖に、喉がカラカラになる感覚を覚えた。
この女がその気になれば、百合子だけではない。
俺達は、あっと言う間に、この女に殺される。

「分かった。ゲームに参加する。
だから、百合子を解放してくれ。」

俺はお袋をそっと地面に置くと、降参を示すため膝立ちになり手を挙げた。

「快諾いただき、ありがとうございます。」

鶯黒美夜は百合子を解放すると、まるでドレスのスカートを掴むように、ローブの裾を掴み、ニンマリ笑みを浮かべながら、俺に一礼した。

ふざけやがって……!
仕草と言動に、俺は怒りでどうにかなりそうだったが、なんとか堪えた。


俺は……この女に完全に負けたのだ。
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