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第1話「分かれ道」後(2019/12/10修正)
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そんな感じで赤ん坊をしていた、ある日。
赤色がキツいド派手なドレスを着こなした女性と、光沢のある高級そうなタキシードを着こなした男性が部屋に入ってきた。
揺り籠を揺らしながら喋っていたメイドが、慌てて立ち上がり、礼をとった。
この男女が屋敷の主人で、私たちの両親なのだろうと確信した。
両親は、二つ並べられた揺り籠のところへやってきて、中を交互に覗き見た。
「違いがわからないな」
双子、しかも、一卵性なのだろうか。
私はいまだに鏡を見たことがないので、自分の顔を見たことがない。
彼女とどれくらい似ているのかわからないが、メイドが間違えることはないので違いはあると思う。
服の色で見分けているということはなく同じ服を着ているし、寝かされる揺り籠もその時その時で違うので、やっぱり違いがあるはず。
「この子の方が可愛いのではないかしら?」
「それなら、こちらの方が利発そうだ」
揺り籠のどちらかを指しては、ああだこうだと話す男女。
その様子に、どちらを貴族の娘にするかを選びにきたのだとわかってしまった。
何かアピールをした方がいいのだろうか、と見下ろしてくる男女に考えていれば、隣の彼女の方が早かった。
私から見えないところから、キャッキャと可愛らしい声が聞こえていた。
その声によって、両親の視線は、そちらに流れた。
多分、隣の彼女と目があったのだろう。
二人の口元が、表情が、ふわっと緩んだ。
あぁ、決まったな、と私は悟った。
「この子にしましょう」
「あぁ、そうだな」
先ほどまでは、しかめっ面だったのに、今や顔が綻び、雰囲気すら和らいでいた。
女性が、揺り籠から彼女を抱き上げた。
じっと見上げていれば、男性が女性に寄り添い、腕の中の赤ん坊を覗き込んだ。
また、男女から笑みが溢れた。
「なんと可愛い子だ」
「きっと、この子は天使よ」
私と彼女の違いがわからないと言っていたと思うのは気のせいだろうか。
そんなことを思うも、あっさり掌を返した男女と選ばれた彼女は、絵になっていた。
仲睦まじく寄り添う姿は、幸せそうな家族だった。
私はこれからどうなるのだろうか。
漠然とした不安が一気に押し寄せてきた。
泣きたくなって、それでも、ここで泣くのは気が引けた。
我慢しなければと思ったのに、ぅぅっと惨めに声が漏れてしまった。
ギョロッと、二対の目がこちらを向いた。
彼女を愛おしそうに見つめていた目とは、全然違った。
とても冷たく、暗い、なんの感情もない目だった。
「アラン、マーガレット」
男性が人の名前だろうものを口にした。
寄ってきたのは、ほっそりした体型で白髪混じりの男性と、ふくよかな体型を首まで覆う黒のワンピースで隠した女性。
「“コレ”はお前たちが面倒を見ろ」
あっさり、私は娘候補から“コレ”になった。
「ただし、屋敷の中からは絶対に出すな」
「「……かしこまりました」」
捨てられるわけではない。
そう自分を慰めながら、貴族とは、なんと凄い生き物なのかと思っていた。
どうか、どうかこの世界が平民に過ごしやすいところでありますように。
ふくよかな女性に優しく抱き上げられて、部屋を出て行きながら、そう願った。
赤色がキツいド派手なドレスを着こなした女性と、光沢のある高級そうなタキシードを着こなした男性が部屋に入ってきた。
揺り籠を揺らしながら喋っていたメイドが、慌てて立ち上がり、礼をとった。
この男女が屋敷の主人で、私たちの両親なのだろうと確信した。
両親は、二つ並べられた揺り籠のところへやってきて、中を交互に覗き見た。
「違いがわからないな」
双子、しかも、一卵性なのだろうか。
私はいまだに鏡を見たことがないので、自分の顔を見たことがない。
彼女とどれくらい似ているのかわからないが、メイドが間違えることはないので違いはあると思う。
服の色で見分けているということはなく同じ服を着ているし、寝かされる揺り籠もその時その時で違うので、やっぱり違いがあるはず。
「この子の方が可愛いのではないかしら?」
「それなら、こちらの方が利発そうだ」
揺り籠のどちらかを指しては、ああだこうだと話す男女。
その様子に、どちらを貴族の娘にするかを選びにきたのだとわかってしまった。
何かアピールをした方がいいのだろうか、と見下ろしてくる男女に考えていれば、隣の彼女の方が早かった。
私から見えないところから、キャッキャと可愛らしい声が聞こえていた。
その声によって、両親の視線は、そちらに流れた。
多分、隣の彼女と目があったのだろう。
二人の口元が、表情が、ふわっと緩んだ。
あぁ、決まったな、と私は悟った。
「この子にしましょう」
「あぁ、そうだな」
先ほどまでは、しかめっ面だったのに、今や顔が綻び、雰囲気すら和らいでいた。
女性が、揺り籠から彼女を抱き上げた。
じっと見上げていれば、男性が女性に寄り添い、腕の中の赤ん坊を覗き込んだ。
また、男女から笑みが溢れた。
「なんと可愛い子だ」
「きっと、この子は天使よ」
私と彼女の違いがわからないと言っていたと思うのは気のせいだろうか。
そんなことを思うも、あっさり掌を返した男女と選ばれた彼女は、絵になっていた。
仲睦まじく寄り添う姿は、幸せそうな家族だった。
私はこれからどうなるのだろうか。
漠然とした不安が一気に押し寄せてきた。
泣きたくなって、それでも、ここで泣くのは気が引けた。
我慢しなければと思ったのに、ぅぅっと惨めに声が漏れてしまった。
ギョロッと、二対の目がこちらを向いた。
彼女を愛おしそうに見つめていた目とは、全然違った。
とても冷たく、暗い、なんの感情もない目だった。
「アラン、マーガレット」
男性が人の名前だろうものを口にした。
寄ってきたのは、ほっそりした体型で白髪混じりの男性と、ふくよかな体型を首まで覆う黒のワンピースで隠した女性。
「“コレ”はお前たちが面倒を見ろ」
あっさり、私は娘候補から“コレ”になった。
「ただし、屋敷の中からは絶対に出すな」
「「……かしこまりました」」
捨てられるわけではない。
そう自分を慰めながら、貴族とは、なんと凄い生き物なのかと思っていた。
どうか、どうかこの世界が平民に過ごしやすいところでありますように。
ふくよかな女性に優しく抱き上げられて、部屋を出て行きながら、そう願った。
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