双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

第２話「分かれた先」(2019/12/10修正)

アランという男性は執事で、マーガレットという女性は家政婦長だった。
彼らは私を使用人たちの住まう別館に連れて行った。
そこで、私は忙しいにもかかわらず合間の休憩時間にかわるがわる世話をしてもらった。
私に一等優しかったアンナはもちろん、不幸を愉しげに話していたメイドさんたちにもなんだかんだと可愛がってもらいながら、すくすく大きくなっていった。
どんなところに放り捨てられるのかと思ったけれど、腐っても貴族の敷地の中。
なんの危険も心配もなく、平穏に過ごしてきた。


ただ、双子の姉に見つかってからは、姉が別館に来るようになって平穏が一転する。


今日も、何を考えているのかわからない彼女が、幼いとはいえ淑女らしからぬ大きな足音をさせてやってきた。
伸ばされたふわふわの髪をハーフアップにして、フリルがこれでもかと盛られたピンクの襟付きワンピース。
もっとも、金色のきらきらと輝く髪に、宝石を思わせる青い瞳のおかげで、少女趣味全開のロリータファッションでも、彼女には似合っていた。
表情は、残念ながら、ドヤ顔だけれど。

「ナビ、私は今日何をしたらいいの？」

前世のリンゴマークのアシスタントを思い出す。
時々やってきては、Ｈｅｙナビ！なんて感覚で聞いてくるけど、わかるわけがないので困る。
そういうのは、男爵か夫人に聞けばいい。
貴族の息女がどんな生活をするかなんて、平民にはわからないのだから。
それでも、答えないと駄々を捏ね始めるので、何か答えないといけない。
ここは使用人の別館の庭なので男爵たちがくることはないが、彼女が泣き叫べばその声を聞いて、ここまで来てしまうかもしれない。
そうすれば、責められるのは、彼女でなく、私か、あるいはここにいる使用人だ。

「勉強をなさればよいのでは？？」

５歳。
前世で言えば、小学校にまだ入学してない年齢だが、この世界では小学校にあたるものに、５歳で入学するらしい。
この間開かれたお茶会をこっそり見ていたら、「先生に教わったでしょう」と母親であろう女性に窘められる同じ歳くらいの子を見かけた。

「勉強なんかいいのよ！攻略に関わることを教えなさい！」

まぁ、毎回この返答で、聞き入れてもらったことのない意見だ。
以前、攻略とはなんなのかわからず、勉強の攻略法という意味なのかと聞けば、違うと喚かれた。
では、何なのかとさらに聞けば、攻略対象を攻略する方法だと言われて、ますますわからなくなった。
攻略対象とやらは好きな人ということらしい、尚更、私に聞かれても困る内容だった。
貴族の子息を落とす方法なんて知らない。
やっぱり夫人に聞くべきだと思うと言えば、役に立たないと切り捨てていた。
親を役に立たないと言い切るのもなかなかすごいものだ。

「また、お茶会をなさればよいのでは？」

ため息まじりに、提案すれば彼女は満足げに頷いている。
勉強はいつも拒否され、私のわかる範囲で貴族の行動といえば、お茶会になる。
だから、毎回お茶会になってしまうのだけれど、彼女は気にしないらしく満足顔だ。

「仕方ないわね。貴族は情報収集が大事だものね！」

こんな感じで、毎度お茶会に決まるので、わざわざ聞きにくる必要があるのだろうかと首を傾げたくなる。
とりあえず、これでまたしばらく彼女はここを訪れることはない。
お茶会というのは規模にもよるが、招待客の選別、当日の会場の装飾の手配、服装のチェック等いろいろやらねばならないらしい。
どの程度のものを開いているのかは知らないけれど、だいたい１～２週間は来ない。
彼女の来訪がないことに安心していれば、彼女が何か思いついたように手を叩く。

「そうだわ、ナビ！私の代わりに先生の授業を受けておいて」

…どうやら、彼女はまったく勉強をするつもりはないようだ。
彼女のためにと男爵たちが選りすぐった家庭教師は未だに、彼女と顔を合わせたことはない。
私は身代わりとはいえ、勉強させてもらえて嬉しいといえば嬉しいのだけれど。
彼女はまったく勉強していないけれど、大丈夫なのだろうか。