追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

emi

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娘が私の上司に無茶なお願いをしていた時の気持ちを答えよ

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リリアナが4歳を迎えた次の日、職場に行くとギルドマスターからの呼び出しがあったので執務室に向かった。

ノックをすると中からどうぞと聞こえたので中に入るとソファに座るように言われた。
お茶を準備しているこの人はギルドマスターのヨハン。彼は私の素性を知る数少ない人である。

「何か帳簿にミスがありましたか? 」

「いいや、君の行う業務は何時だって完璧だよ。」

「では一体なぜ……。」

呼ばれた理由が分からず首をかしげていると、とても重要な事だよと彼が言う。

「昨日リリアナの誕生日だっただろう。」

そう言うと私に一冊の本を渡した。


「これ、魔導書ですよね? 絶版しているという噂の。」

「誕生日に何が欲しいって聞いたらこれを強請られてね、入手に手間取ってしまったよ。」


お蔭で誕生日までに間に合わなかったとケラケラ笑っているが内心では冷汗が止まらなかった。

(これ、どうやって入手したの!? )


さっきも言った通りこの魔導書はもう販売しておらず読めるとしたら王宮の図書館か魔術を教えている教育機関にしかないはずなんだけど……。

「一部のマニアはコレクションとして所持しているんだ。持っていた奴に心当たりがあったから脅し……じゃなくてお願いしたら譲ってくれたんだ。」


所持することが目的だったみたいだから殆ど新品だよと言っているけど、さっきの言葉が不穏すぎる。その事が顔に出ていたのか、くすりと笑って彼は答えた。

「ちょっとした借りがあったんだよ、君達みたいにね。」

借りの大きさで言えば僕達のギルドの方が大きいけどねと言われると何も言えなくなる。

この商人ギルドはルーマン侯爵家馴染みのギルドでアクセサリー類は此処で買っていたし、鉱石等の入手ルートの手配も侯爵家がやっていた。


ぶっちゃけて言うとずぶな関係なのだ。

(国で出回っている情報や噂はこのギルドから聞いて、代わりに他の国とも交友関係を結んでギルドに利益が出るようにお父様が仲介に回っていたんだっけ)

まぁ、そんな仲なので今回の就職の件は俗に言うコネ入社だった。

「最初はびっくりしたよ。懇意にしている侯爵家のご令嬢を一般国民として働かせてくれって言ってきたんだから。」

敬語で話していたお方を部下にしろって言われた時は暫く胃薬が必要だったねと言って笑ってくれた。

「その節は本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。」

このギルドで働くことによって侯爵家の出入りが出来やすくなった。だけど、表向きは取引先相手の訪問なので両親と会話をする回数は年に5回あればいい方だ。

勿論、この事はリリアナには伝えてない。伝える必要を感じないから私からは言わないけど、誰に似たのか聡いあの子が気付くのも時間の問題かもしれない。
リリアナの事を考えていたらヨハンから貰ったこの本の存在を思い出した。


「この本……記憶が正しければアカデミーの卒業論文にも使われる高度な魔法が記されていませんでした? 4歳のあの子には少し早い気がするのですが……。」


前世の記憶でリリアナに魔力があるのは知っているし、やはりジャックの血なのかヨハンが教える簡単な魔法であれば使いこなせていた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずかヨハンは大丈夫と言った。

「今は全部を理解できないかもしれないけど、リリアナには才能がある。僕達の予想より早くこの魔術書を理解するだろう。近い将来アカデミーに飛び級で入るのだって夢物語じゃないよ。」


アカデミーをトップで卒業したヨハンがそう言うのならそうなのかも知れない。でも、これだけは言っておかなくちゃ。


「才能があるとしてもあの子はまだ4歳なんです。怪我をするような事は教えないでくださいね。」

「それはリリアナに言わなくちゃね。あの子が学びたいと言っているんだから。」


(魔法の話をしているときだけジャックと同じロクデナシ感が出るのは何故なのかしら? )


遠回しにリリアナが怪我をする時は僕のせいじゃないと言っている様な気がしてカチンときてしまった。

(いけない、彼は雇用主。昔みたいに気さくに話していい相手じゃないわ)


切り替えようと一回深呼吸をしてから彼に向き直った。


「このような贈り物をいただけてリリアナもきっと喜びます。本当にありがとうございます。」

「喜ばしい事は祝わないとね。……最近は特に国の雰囲気も良くないから。」

「税金が上がりましたよね……。これ以上、税金が上げれば国民の生活が立ち行かなくなってしまいます。」


帳簿をつけてる君なら分かっちゃうかと悲しげに呟いた。

「王妃の浪費癖は前からだったけど皇女が生まれてから……この2年間は特に酷いらしい。とうとう国庫では賄えなくなって国民から徴収している。」


マリアベルは王妃になってからパーティーを多く開き、その度に服や宝石を良く買っていたらしい。噂ではマリアベルは交流の為と言っているが外国の特使を招いてのパーティーではなく本当に貴族と交流するためだけに開いていた。


(特使を招かない交流目的にしても使いすぎているのは明らか。新聞にどんな行いをしているか書かれているなんて微塵も思っていないんでしょうね)

税金は上がり、国ではマリアベルの豪遊が毎日の様に新聞で書かれている。今の王室の印象は凄い勢いで落ちていた。

(町の人が暴動を起こさない様に祈るしか今の私には出来ないんだけどね)

そんな事を考えていると、ヨハンがジッとこちらを見ていた。

「何か? 」

「いや、もし君が国母であればこの状況にはなっていないんじゃないかとそう考えてしまってね。」

確かにマリアベルの件が無ければ今頃私はこの国の母になっていただろう。でも、たらればを言っても仕方ないのだ。

「今の私は一般国民であり、商人ギルドで働くリリアナの母親。それ以上でもそれ以下でもございませんわ。」



 今の私では国母にはなれないだろう。



だって、何十万人の国民よりもたった一人の娘が笑ってくれるならこの国がどうなったって構わないと思っているのだから。

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