追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

emi

文字の大きさ
32 / 33

彼の感情に触れるとき 2

しおりを挟む
屋敷に入ると外よりも更に空気が冷えていてリリアナに防寒魔法をかけて貰っていても震えが止まらない。今は外でリリアナがこれ以上の被害が行かない様に抑えて貰っているけど10分程度が限界だと言っていた。この状態が続けば凍死してしまうのも時間の問題だった。


(改めてジャックの魔法の強さを実感するわ……魔力が漏れ出た状態の被害が大きすぎる)


幼いころは今よりも魔力が無かったにしても制御なんて出来なかっただろう事はリリアナを育てているから分かる。……その時に彼の傍には誰かいたのだろうか?


「早くこの状態をどうにかしないと……。」


滑る床に気を付けながら食事場に行くと彼は其処でうずくまっていた。駆け寄ろうと一歩踏み出すと先程とは比べものにならないくらいに気温が下がり息を吸うと冷気で喉がやられて咳き込んでしまった。


「アシュリー? 」


私に気が付いたのか声をかけてきたけど、咳が止まらないので返事をすることも出来ない。それを彼は返事をする気が無いと捉えたのか仕方ないよねと呟いた。


「俺はアシュリーを傷つけてしまったんだよね。話したくないは辛いけど仕方ない……。」


(いや、現在進行形で物理的ダメージを負っているんですが!? 何で傷つけたことが過去形になっているの!? )


驚くことに話したくないよりも話せないという状況を彼は理解していない。圧倒的な認知の歪みが生じている事を何とか知らせようと歩みを進めていくけど彼に近づくにつれ最初は痛痒いと感じていた手が感覚をなくしていく。


やっと彼の目の前に来る頃には意識が朦朧としてきて立っている事がやっとで、そんな状態にも関わらず思った事は随分と暢気なものだった。


(やっぱり彼はリリアナとそっくりだわ)


癇癪で魔力暴走を起こして家をめちゃくちゃにしてしまった時も娘はこんな表情をしていた。まるで怒られるのを怖がるみたいに。


殆ど感覚のない手でジャックの手を握った。息は苦しいし意識は朦朧とするしで散々だったけど苦しいのはジャックだって同じだから。


(これじゃ……話が出来ない……)


喉が痛すぎて止めての一言すら言えなかった。これ以上喉に冷気を入れたら肺が可笑しくなってしまいそうだ。どうしようかと再び彼を見ると無意識に体が動いていた。


「え……? 」


彼が驚くのも無理はない。私は両手でジャックの頬を包み額に口付けをしていたのだから。そして最後の力を振り絞って彼に思いを伝える。


「泣かないで……私はずっと貴方の傍にいるから。」


そう言って抱きしめてから意識が遠のくのを感じる。


(結局話し合いも出来ずに私は何をしてるんだろう……)


不甲斐なさを感じながらとうとう意識を手放してしまった。




---------------------
意識が戻った時に息苦しさを感じず不思議に思っていると先程までいた場所じゃない事に気が付いた。

「此処は私の部屋……? 」


ベッドから起き上がろうとするともう一つの違和感に気が付いた。何とジャックが私の手を握りしめながらこちらを見ていた。


「……こうやって手を握ってもらって嬉しかったから。」


何の事を言っているのか分からずに戸惑っているとジャックは話を続けた。


「俺は、貰ったものを返す事しかできない。」

「人間は大体そうだと思いますよ。」


そう言うと違うといってきたので尚更理解が出来なかった。


「俺は君の様な行動を起こせないし今だってあの行動原理は分からない。これじゃ俺の事を愛してくれるわけもないなって納得したんだ。」

「何だか話が飛躍してる気もしますが……私はあんなことをしておいて良くその言葉を私に言えたなって思っただけですよ。」


すると今度は彼が理解できないといった表情を見せた。


「責任も取らずに肉体関係に持ち込んだ挙句に私に目もくれずにリリアナと家族になろうと勝手をする人の愛の言葉を信じられると思いますか? 」


そう言うと今度はきりっとした表情をして私に向き合った。

「じゃあ、俺の言葉が本当だって思ってもらえれば君は俺の事好きになってくれるの? 」

「ばっかじゃないの!?!? 」


あまりの楽天的な考えに怒りが芽生えたけどそれも彼のニコニコと笑う顔を見てしぼんでいった。


(そうよ……ジャックはこういう人間だったわ……)


過去に何があってどんな心の痛みを抱えているかは知らないけど、今此処に居るジャックはあの朝の時に感じた無神経で何処か憎めないそんな男だのだと再認識するのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...