わんだふるOTカフェへようこそ!

OT.deguchi

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第2章:ここで、生きてく人たち

第12話「“支える”ってなんですか?」

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 昼過ぎのカフェ。
 今日は朝からバタバタしていた。犬たちが走り回り、厨房は臨時メニューの準備でてんやわんや。

 その一角で、新人犬カイは、妙に落ち着かない様子で尻尾を振っていた。

「よしっ、俺、リード外して自由に動いてくるから!」

「ちょっ、カイ、それ今やっちゃダメなやつ!」

 タロウが制止する間もなく、カイは食事中の利用者の足元を駆け抜け、
 椅子に頭をぶつけ、ミルクの飾った花瓶を転倒させ、ついには厨房に突入。

「キャアアアッ!?カイくん、今、鍋……!」

 悲鳴とともに、カイは寸前のところで転倒し、床に滑り込んだ。

「……完全に、暴走機関車じゃない……」

 ひなたが肩を落とす。

 



 その光景を見ていたのが、OT学生・小鳥遊さきだった。
 前日、あれほどやる気を見せていた彼女は、明らかに浮かない顔をしていた。

 「……私、やっぱりこの世界、向いてないかもしれません」

 休憩室でぽつりとつぶやくさきに、ひなたはゆっくりと向き合った。

 「どうしたの?」

 「“支援する”って、何が正解なのかわからないんです。
 リュウジくんのセッションで、動きすぎたカイを注意したら、逆に泣かれてしまって……」

 



 その日、リュウジくんは、セッション中に急に座り込んでしまった。
 カイがテンション高く盛り上げた結果、刺激が強すぎたらしい。

 さきは、カイに「もう少し静かにして」と注意し、代わりにカード遊びに切り替えようとした。

 でも、リュウジくんは拒否した。

 「カイがいい。カイじゃなきゃ、やだ」

 その時の“拒絶の目”が、さきの心に突き刺さっていた。

 



 「……私は、空回りしてるんだと思います」

 さきは、声を落として言った。

 「誰かのためって思っても、それが伝わらなかったら、意味がない気がして」

 その言葉に、ひなたはしばらく黙っていた。

 ――彼女のその迷い、かつての自分とそっくりだった。

 



 「ねえ、さきさん。少しだけ話、してもいいですか?」

 「はい……」

 「“支援”って、相手の正解を探すことじゃないと思うんです。
 “この人なら、どうしたいかな”って、一緒に迷うことだと思ってます」

 「迷う、ことが……?」

 「うん。迷いながらも“そばにいること”を選び続ける。
 そのうち、誰かの“したい”がぽろっとこぼれたとき、気づけるようになる」

 「……」

 「だから、今日のことも、“失敗”じゃなくて、“気づきの種”だったんじゃないかな」

 



 その日の閉店後。
 カイが、しょんぼりしながらひなたの隣に座った。

 「……オレさ、誰かの役に立てると思ったけど、また迷惑かけたよな」

 「うん。かけてた。
 でも、リュウジくんが“カイじゃなきゃやだ”って言ってくれたの、あれ本音だったよ」

 カイの耳がピクリと動いた。

 「支援って、全部が完璧じゃなくていいんだよ。
 必要なのは、“次はどうしたらいいかな”って考えること」

 「……ひなた、そういうの、どこで覚えたの?」

 「私も、誰かにそう言ってもらったから。ここでね」

 



 次の日のセッション。
 さきとカイは、再びリュウジくんと向き合った。

 でも今日は――

 カイは一歩引いたところで、軽く走り、リュウジくんに目線を合わせてみせた。
 さきは、声かけを“誘導”ではなく、“選択肢”として与えるようにした。

 リュウジくんは笑って言った。

 「じゃあ、きょうは“サッカーやってからカードゲーム”にする!」

 ……その小さな変化が、確かな前進だった。

 



 その夜、さきはひなたに小さなメモを渡した。

「“支援って、寄り添い続けること”なんですね。
今日、ちょっとだけ分かった気がします。
ありがとうございます。」



 ひなたはその文字を読みながら、そっとつぶやいた。

 「大丈夫。あなたも、ちゃんと“わんだふる”の仲間になってきてるよ」

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