銀色の精霊族と鬼の騎士団長

文字の大きさ
19 / 97
出会い編 オビングの小さな家

しおりを挟む

 それから少し経ったある日のこと。珍しく早く帰ってきたエリトはひどく嬉しそうだった。

「スイ、ついに明日応援部隊が到着するぞ! あいつら結局俺たちが王国騎士団だってことに気づけなかったんだ。長かったけどやっとこの仕事も終わる。デアマルクトに帰れるぞ!」

 スイはスープの鍋をお玉でかきまわしながら突然の話にきょとんとした。エリトは台所までやってきてスイを抱きすくめた。

「もうすぐだ、スイ。全部終わったら一緒にデアマルクトに帰ろう。俺の本当の家を見せてやるよ。あそこならここよりずっとしっかりしてるから、確実にお前を守ってやれる」

 エリトは満面の笑みで早口に言う。

「結界もはってあるから安心しろ。あそこなら絶対に安全だ」
「結界……?」
「俺の許可なく誰も出入りできないようにする結界だよ。お前を狙う輩が現れても家の中にいれば絶対大丈夫だからな」
「家の中って……でも、おれだって働かないと……」
「俺が稼いでくるから気にするな。前も言っただろ? ほかのことは全部俺がやってやるって。庭には出ていいから、好きな花を育てろよ。欲しいものは買ってきてやるし。な?」

 スイはなにも言えなかった。エリトはスイを自分の家に閉じこめる気だ。誰も侵入できない堅固な家の中で、スイはエリトに養われて暮らすのだ。エリトが生活の面倒をすべて見てくれるから、スイがエリトの家を出る必要はない。安全な家から一歩も外に出ずにふたりきりで暮らす。

 それはファリンガー家の屋敷となにが違うのだろう。

 その夜、エリトはスイを抱いた。エリトはスイに覆い被さって怒張を突っこみ、スイの細い腰をゆさぶった。スイは溶けきったケーキのようなでろでろに甘い快楽を与えられてあえぎ声を上げた。

「ひあ、っん」
「スイ、愛してる……お前は誰にも渡さない……」

 エリトはスイの首筋に舌をはわせ、あちこちにキスをしながら言った。スイがぶるりと震えると、エリトはスイが達しそうだと思ったのかくすりと笑った。しかし、スイが震えたのは恐怖のためだった。

 自分を抱いているのがエリトなのかディリオムなのか、スイにはもう区別がつかなかった。自分のせいでエリトはおかしくなってしまった。自分はここにいるべきではなかったのだ。呪いだ、と思った。



 翌朝、エリトは晴れやかな顔で出かけていった。

「行ってくる。今日もちゃんと夕方に帰るからな」
「うん。いってらっしゃい」

 スイはなるべく自然に笑えるように苦心した。エリトはスイには開けられない扉を開けて外に出て、すぐに扉を閉めた。革靴の音が遠のいていく。

「…………」

 スイはしばらくその場に突っ立って耳をすませた。エリトの足音が完全にしなくなると、二階にかけあがって自分の部屋に入った。フラインにもらったきり使っていなかった鞄を引っ張り出し、クローゼットから服やズボンを出して詰めこんでいく。そのあと鞄を手に一階の台所へ行き、ナイフやスプーンやコップ、パンやチーズなどの食料を限界まで詰めこんだ。最後に革袋に飲み水を入れて紐で鞄に結びつける。

 靴紐を固く結び直し、マントをはおって帽子をかぶる。準備が整うとスイは再び二階に向かった。一階の窓も魔法で施錠されているが二階の窓は開く。スイは自分の部屋の窓を開け、ぱんぱんの鞄を外に放り投げた。その後、慎重に窓枠を乗り越えて足を出し、ひと思いに飛び降りた。

「うぐっ」

 着地に失敗してべちゃりと庭に倒れこんだが、すぐに起き上がって体についた土を払った。どうやらスイが外に出ると発動するような魔法はかかっていなかったようだ。ほっとして息をはく。

 スイは鞄を拾って肩にかけ、枯れた庭を忍び足で通り抜けて裏口の木戸をそうっと開けた。最後にちらりと一年間暮らした家を見上げる。

「……さよなら」

 そう言い残し、スイはどこかへ走っていった。


 ◆


 エリトは帰路を急いでいた。夕方に帰ると言っておきながら、結局夜中近くになってしまったからだ。予定より遅れて到着したデアマルクトからの応援部隊を迎えて状況を説明し、作戦会議を終えるころにはすっかり夜が更けていた。

 町外れの家に着いたエリトは、家の中がまっ暗なことに気がついた。遅くなったのでもうスイは寝てしまったのだろう。

「ただいま」

 扉を開けて中に入る。家の中はしんと静まりかえっている。エリトは暗闇の中を歩き、テーブルの上になにも置かれていないのを見て肩を落とした。

「なんだ……ご飯作ってくれてないのか」

 珍しいこともあるものだと思いながら階段を上がる。寝室をのぞくと、空っぽの大きなベッドがあった。

「……スイ?」

 エリトの胸がざわついた。隣の子供部屋ものぞいたが、スイの姿はない。誰も寝ていないベッドの奥で窓が開け放たれていて、夜風が入りこんでカーテンをわずかに揺らしている。エリトの顔から血の気がひいた。

「スイ! どこだ! スイ!」

 エリトはスイの名を呼びながら家じゅうを回った。台所にも風呂場にも、どこにもスイの姿はない。

 エリトは家を飛び出して夜道を疾走した。フラインの家に行き、壊さんばかりの勢いで扉を開け放つ。

「フライン!!」

 中ではフラインと数人の騎士団員がテーブルを囲んでまだ話しこんでいた。突然戻ってきたエリトに、フラインたちはぎょっとして一斉に振り向いた。

「どうした」

 エリトの表情を見たフラインは異常を察して立ち上がった。

「スイがいなくなった! 探すからお前も来い!」
「なに!?」

 フラインは椅子に立てかけてあった自分の剣をひっつかんだ。エリトはフラインと一緒に自分の家に駆け戻った。

「家に帰ったらもぬけの殻だったんだ! きっとやつらが俺の家をかぎつけてスイをさらっていきやがったんだ!」

 エリトが憎々しげに叫ぶ。フラインは燭台に明かりをともして二階にあがっていく。エリトもそれに続いた。

 フラインは子供部屋をぐるりと見渡すと眉をひそめた。

「……これは……」
「なにか痕跡が残ってるかもしれねえ、よく探せ」
「……おい、エリト」
「なんだよ!」

 エリトはちっとも焦っていないフラインにいらだって声を荒げた。フラインはなにか言いたそうで、でも言いたくない様子でエリトをじっと見つめている。

「エリト……気づかないのか? お前らしくもない……よく見ろ」
「なにか気づいたのか?」
「……これ」

 フラインは燭台を掲げて開けっ放しのクローゼットを照らした。

「……俺がスイにやった鞄がない。着替えの服も消えてる……」
「……なんだと?」
「それにこの部屋には荒らされた形跡が一つもない……」

 エリトは黙りこんだ。フラインは下唇をかみ、エリトの様子をうかがっている。

 エリトは階段を降りて一階に戻った。フラインは黙ってエリトに続いた。

 台所に入ったエリトは、作業台の上にいつも置かれているナイフがないことに気がついた。朝にはたくさんあったはずのパンもまるごと消えている。食の細いスイが一日で食べきれる量ではない。

 食器棚の一番手前には、エリトが使っている木製のコップが左に寄せられてぽつんと置かれている。右隣にコップがもう一つ置けるスペースがあるが、そこにあったはずのスイのコップはどこにもない。

「…………」

 エリトは言葉もなく、だらりと両手を下ろしてその場に立ちつくした。

「エリト……」

 フラインは旧友におそるおそる声をかけた。

「俺には、スイが荷物をまとめて出て行ったように見え――」
「そんな馬鹿なことがあるか!」

 エリトは目にも止まらぬ早さでフラインにつかみかかり、胸ぐらをつかんで引き寄せた。

「で、でも、玄関には鍵がかかってたんだし、家の様子を見る限りそう見えるだろ……? 二階の窓が開いてたし……」
「なんでスイに出て行く必要があるんだよ!? あいつはほかに行くところなんかないんだぞ!」
「それは……俺にもよくわからないけど……」

 フラインは怯えた様子で、目を泳がせて言いよどんだ。エリトはフラインを離してまた外に飛び出した。厩舎まで走っていくと自分の馬を引っ張り出して飛び乗り、あちこち探し回った。スイが洗濯に行っていた川や、ほかの騎士団員が借りている家など、オビング中をまわったがスイの姿はなかった。

 スイはずっとエリトの家で過ごしていたのだ。スイの行きそうなところなどエリトには皆目見当がつかない。生まれ育った村の場所もわからず、ファリンガー家の屋敷が焼けた今、スイが身を寄せられる場所などありはしない。

 エリトは額を流れる汗をぬぐい、馬を走らせてオビングを出た。

「スイ……!」

 夜中の道には人っ子一人いない。もし夜盗が襲ってきても、エリトの形相を見ればしっぽを巻いて逃げていっただろう。エリトは月明かりを頼りに以前スイと行った森に向かった。

 森の中の泉は夜の闇を映して真っ黒だった。きらめく銀色の光はどこにも見当たらない。

「スイ!!」

 エリトは泉に向かって吠えた。近くで眠っていた鳥たちが目を覚ましてばさばさと逃げていく。泉は変わらず静まりかえっている。

 エリトは泉のほとりにがくりと膝をついた。もう探すあてはどこもない。

「スイ……どこにいるんだ……。おい、スイのいるところを教えてくれよ!」

 エリトは泉の精霊に向かって叫んだ。しかし、返事はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

処理中です...