ウィルとアルと図書館の守人

第一章 ウィルとアルと図書館の守人

下界を見下ろす者

　この街は平穏そのものだと思った。
　人々の笑い声や罵声や泣き声も聞えるがそれは些細な事に過ぎない。
　そんな平穏な街を厄災が襲ったらどうなるか。
　ダリルはそんなことを考えながら再びこの地に降りて来た。
　主から与えられた自身の目的を果たすために。

「絶景！」

　黒を基調とした服装の上から羽織っているレザーコートが風にたなびいている。
　街を囲う強固な石の壁に片足を掛け平穏な街を見下ろした。

「どいつもこいつも、腑抜けた面してやがるぜ」

　人間たちが何故こうも感情豊かにコロコロと表情を変える意味がガリルには理解出来なかった。
　快楽を司るガリルには快楽以外の感情を持ち合わせていないのだ。

「もっと気持ちいーいことすりゃいいのによぉ。つまんねぇぜ、人間は」

　望めばすぐにでもこの街に生きるもの全てを快楽に落とすことはできる。

「今は主の命令をこなさねぇと、怒ると怖ぇーし、それにもしかすりゃあ、またあいつに会えるかもだしなぁ」

　ガリルの脳裏に先日出会った一人の少年の姿が思い浮かぶ。
　その白い肌に印を刻み自分のものだと主張したい。
　己の欲望を捻じ込み快楽に落とせば、善がりさぞかし可愛く鳴いてくれることだろう。
　ガリルは身体を振るわせた。
　想像するだけでイきそうだ。

　――あぁ、会いたい。今すぐにでも。奪い去って今度こそ俺のものにしたい。

　ぺろりと舌なめずりする。

「なぁ、愛しのウィルちゃん」

　ダリルの瞳が妖しく光る。

　いずれ、快楽の海へと誘い、落としてやる。