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第一章 ウィルとアルと図書館の守人
なつかしい声
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暗闇の中に光を見つけた。
その数は二つ。
一方は白の光。
もう一方は紫がかった光だった。
二つの光は混ざり合い金色に光り輝く。
とても眩しくて目を開けているのがやっとだ。
実際は瞼は閉ざされているのだけど。
光は徐々に輝きを増し、外へ放出しようとしてくる。
「くっ」
「耐えるのよ、ウィル。その光を押さえ込むのよ」
耐えるって、簡単に言ってくれるけど。
物凄い圧迫感。
まるで海底にいるみたいだ。
海の底なんて行ったことないけど、そんなイメージ。
早く外の空気を吸いたくてたまらない。
息苦しい。
押し潰される。
「ぐっ、くっ……うっ」
唯一の光が不規則にグニャグニャと変形し始める。
その力は圧倒的で抑えきれない。光が放出されて飲み込まれる。
暗闇の中、僕の何かが弾けて消えた。
……ウィル。
誰かが僕の名前を呼んでいる。
懐かしい声だ。
『お前また一人で泣いてるのかよ、だっせぇ』
よく知る少年が僕を見て盛大に笑っている。
何故だが僕は幼い日の自分の姿になっていた。
幼い時はいつも一人で泣いてたっけ。
親がいない寂しさを知ってしまった時期でもあったから。
一人でこっそり隠れて泣いていた。
でも不思議なことに彼にはいつも見つかってからかわれるんだ。
どこにいても。
――どうして? どうしてすぐに見つけてくれるの?
『仕方ねぇからしばらく一緒にいてやるよ。ありがたく思えよ、泣き虫ウィル』
その懐かしい声は遠く、いや、凄く近くで。
「……ズ、リ……」
「ウィル! しっかりするのよ!」
瞼を持ち上げて焦点の合わない瞳で声の主を見つけようと動かした。
頭がぼんやりする。
――……レズリー? 違う、レズリーじゃ、ない。
「……、……ロミロア先生?」
視界に映った人物(人じゃないけど)の名を口にした。
酷く喉が渇いていて少し掠れた声だった。
ロミロア先生が安堵の息を吐く。
僕は、どうしたんだっけ?
「目が覚めて良かったのよ。アナタは自身の力に負けしてしまったのよ。それでそのまま意識を、なのよ」
僕が知りたかったことを話してくれた。
表情を見て答えてくれたのかもしれない。
横たえていた身体を起こす。
若干痛みを感じて僕は顔を歪めた。
「……やっぱり僕には無理なのかな」
「そうじゃないのよ」
ロミロア先生は頭を横に振ってそれを否定した。
「アナタの力は間違いなくあなた自身が本来持っている力なのよ。でもまだその力を制御する術を持ち合わせていないだけなのよ。当然なのよ。今まで魔法なんて使ったことないのよ? 普通の人間として生きてきたのよ」
僕は頷き、ロミロアは話を続けた。
「すぐに制御できるなんてお門違いなのよ。魔法はそんなお手軽な代物じゃないのよ。少しずつ精神を鍛えて自らの魔力を制御していくのよ。ウィル、大丈夫なのよ。アナタならできるのよ、まずは自分を信じるのよ。これが一番大切なことなのよ」
「自分を信じる……はい。ありがとうございます。ロミロア先生」
「やはり、マックスとリリアの子供なのよ。魔力の構築方法も何処か二人に似ているのよ」
「父さんと母さんを知っているんですか?」
「もちろん知ってるのよ。当時、ワタシもマジックナイツの一員だったのよ。今はもう引退してるのよ。彼らの死は悲劇としか言いようがないのよ。種族の違いが彼らを死に追いやったのよ」
当時って、たしかあの神魔戦争って千年前の出来事のはず。
「ロミロア先生って今、年いくつなんですか?」
頭を叩かれた。
肉球のお陰であまり痛くはなかったけど。
「レディにそういうことを聞かないのよ」
「ごめんなさい」
凄い形相で怒られた。
年齢を聞いただけなのに、女の人(人じゃないけど)は難しいなぁ。
ロミロア先生は「まったく」と息を吐きながら、
「マックスは何事も一生懸命な奴だったのよ。根がとても真面目なのよ。だからよく厄介事を抱え込んではワタシたちを巻き込んでいたのよ。迷惑な男だったのよ」
そう言う割には表情が柔らかく見える。
「リリアはお菓子作りが趣味でよく作ってはワタシたちに振舞ってくれたのだけど、とても食えたものじゃなかったのよ。なんというか、全体的に黒い物体にしかならなくて、それでよく、ジークはお腹を壊していたのよ。無理して食べるからなのよ」
「うわぁ……」
「でもね、二人とも本当にいい奴らだったのよ。種族の違いなんて関係ないのよ。だって、たしかにあの二人には種族を超えた絆があったのよ」
「……うん。ありがとう、ございます」
もう死んでしまって僕は父さんのことも母さんのことも話しに聞いたり、写真でしかわからない。
でもアルやジルハルド国王やロミロア先生から聞く両親の話しはとても、凄く、嬉しい気持ちになる。
一目逢って話がしてみたかった。
「少し脱線しちゃったけど、今日の修行は此処までなのよ」
「え? でも僕、まだやれますよ」
「ウィル、気持ちはわかるけど、無理は禁物なのよ。魔法を制御するということは精神を強くするということなのよ。自分では気付かない内に疲労が溜まっているということはよくあることなのよ。焦っては駄目なのよ」
真剣な瞳を向けられて僕は大人しく頷くことしかできなかった。
たしかにロミロア先生の言うとおり、僕は少し焦っていたのかもしれない。
「わかりました。それじゃあ、今日はこれで帰ります」
「えぇ、ゆっくり身体を休めるのよ、ウィル。また明日。おやすみなのよ」
僕は頷き、「おやすみなさい」と返して研究室を後にした。
その数は二つ。
一方は白の光。
もう一方は紫がかった光だった。
二つの光は混ざり合い金色に光り輝く。
とても眩しくて目を開けているのがやっとだ。
実際は瞼は閉ざされているのだけど。
光は徐々に輝きを増し、外へ放出しようとしてくる。
「くっ」
「耐えるのよ、ウィル。その光を押さえ込むのよ」
耐えるって、簡単に言ってくれるけど。
物凄い圧迫感。
まるで海底にいるみたいだ。
海の底なんて行ったことないけど、そんなイメージ。
早く外の空気を吸いたくてたまらない。
息苦しい。
押し潰される。
「ぐっ、くっ……うっ」
唯一の光が不規則にグニャグニャと変形し始める。
その力は圧倒的で抑えきれない。光が放出されて飲み込まれる。
暗闇の中、僕の何かが弾けて消えた。
……ウィル。
誰かが僕の名前を呼んでいる。
懐かしい声だ。
『お前また一人で泣いてるのかよ、だっせぇ』
よく知る少年が僕を見て盛大に笑っている。
何故だが僕は幼い日の自分の姿になっていた。
幼い時はいつも一人で泣いてたっけ。
親がいない寂しさを知ってしまった時期でもあったから。
一人でこっそり隠れて泣いていた。
でも不思議なことに彼にはいつも見つかってからかわれるんだ。
どこにいても。
――どうして? どうしてすぐに見つけてくれるの?
『仕方ねぇからしばらく一緒にいてやるよ。ありがたく思えよ、泣き虫ウィル』
その懐かしい声は遠く、いや、凄く近くで。
「……ズ、リ……」
「ウィル! しっかりするのよ!」
瞼を持ち上げて焦点の合わない瞳で声の主を見つけようと動かした。
頭がぼんやりする。
――……レズリー? 違う、レズリーじゃ、ない。
「……、……ロミロア先生?」
視界に映った人物(人じゃないけど)の名を口にした。
酷く喉が渇いていて少し掠れた声だった。
ロミロア先生が安堵の息を吐く。
僕は、どうしたんだっけ?
「目が覚めて良かったのよ。アナタは自身の力に負けしてしまったのよ。それでそのまま意識を、なのよ」
僕が知りたかったことを話してくれた。
表情を見て答えてくれたのかもしれない。
横たえていた身体を起こす。
若干痛みを感じて僕は顔を歪めた。
「……やっぱり僕には無理なのかな」
「そうじゃないのよ」
ロミロア先生は頭を横に振ってそれを否定した。
「アナタの力は間違いなくあなた自身が本来持っている力なのよ。でもまだその力を制御する術を持ち合わせていないだけなのよ。当然なのよ。今まで魔法なんて使ったことないのよ? 普通の人間として生きてきたのよ」
僕は頷き、ロミロアは話を続けた。
「すぐに制御できるなんてお門違いなのよ。魔法はそんなお手軽な代物じゃないのよ。少しずつ精神を鍛えて自らの魔力を制御していくのよ。ウィル、大丈夫なのよ。アナタならできるのよ、まずは自分を信じるのよ。これが一番大切なことなのよ」
「自分を信じる……はい。ありがとうございます。ロミロア先生」
「やはり、マックスとリリアの子供なのよ。魔力の構築方法も何処か二人に似ているのよ」
「父さんと母さんを知っているんですか?」
「もちろん知ってるのよ。当時、ワタシもマジックナイツの一員だったのよ。今はもう引退してるのよ。彼らの死は悲劇としか言いようがないのよ。種族の違いが彼らを死に追いやったのよ」
当時って、たしかあの神魔戦争って千年前の出来事のはず。
「ロミロア先生って今、年いくつなんですか?」
頭を叩かれた。
肉球のお陰であまり痛くはなかったけど。
「レディにそういうことを聞かないのよ」
「ごめんなさい」
凄い形相で怒られた。
年齢を聞いただけなのに、女の人(人じゃないけど)は難しいなぁ。
ロミロア先生は「まったく」と息を吐きながら、
「マックスは何事も一生懸命な奴だったのよ。根がとても真面目なのよ。だからよく厄介事を抱え込んではワタシたちを巻き込んでいたのよ。迷惑な男だったのよ」
そう言う割には表情が柔らかく見える。
「リリアはお菓子作りが趣味でよく作ってはワタシたちに振舞ってくれたのだけど、とても食えたものじゃなかったのよ。なんというか、全体的に黒い物体にしかならなくて、それでよく、ジークはお腹を壊していたのよ。無理して食べるからなのよ」
「うわぁ……」
「でもね、二人とも本当にいい奴らだったのよ。種族の違いなんて関係ないのよ。だって、たしかにあの二人には種族を超えた絆があったのよ」
「……うん。ありがとう、ございます」
もう死んでしまって僕は父さんのことも母さんのことも話しに聞いたり、写真でしかわからない。
でもアルやジルハルド国王やロミロア先生から聞く両親の話しはとても、凄く、嬉しい気持ちになる。
一目逢って話がしてみたかった。
「少し脱線しちゃったけど、今日の修行は此処までなのよ」
「え? でも僕、まだやれますよ」
「ウィル、気持ちはわかるけど、無理は禁物なのよ。魔法を制御するということは精神を強くするということなのよ。自分では気付かない内に疲労が溜まっているということはよくあることなのよ。焦っては駄目なのよ」
真剣な瞳を向けられて僕は大人しく頷くことしかできなかった。
たしかにロミロア先生の言うとおり、僕は少し焦っていたのかもしれない。
「わかりました。それじゃあ、今日はこれで帰ります」
「えぇ、ゆっくり身体を休めるのよ、ウィル。また明日。おやすみなのよ」
僕は頷き、「おやすみなさい」と返して研究室を後にした。
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