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第2章「憲兵隊准尉の憂鬱」
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ユリウス・アーレルスマイヤー憲兵准尉。
自分の胸に張ってある名札を再度確認しても、ユリウスは出来れば回れ右をして、この憲兵隊指令室のドアから出来る限り遠ざかりたいと願う事を押さえられなかったが、そんな事が出来ない事も重々承知しており、渋々ノックする形で腕を振った。
ユリウスと言う名前からも分かるとおり、彼はある古代の英雄の名前を冠しているが、彼自身はジェノバ連合系でも、ローマ生まれでも、ましてやルビコン川と命名された、本物との違いさえ既に分からない、今はほんの数歩で渡れる川を渡った事も無い。
彼にこの名前をつけた親が、人間種で偉くなるならばこの名前しかないと思いつめて命名したのが、ユリウスだった。
しかしながらユリウスは完全な人間種ではなく、猫種と人間種のクォーターである。
元来、人間が自らの奴隷として開発した人間型動物種族には異種族間交配の能力は排除されていたのだが、そこは生命の神秘と言う奴で、何世代も世代を重ねた結果、ユリウスの親の世代では低い確率ながら成功例も出る様になっていた。
ハーフだったのは母親のほうで、小さな頃に漏れ聞いた話では、かなり苦労したらしいが、ドイツに移り住んでから父に出会い、救われたという典型的な寝物語だった。
ぱっと見たところで、ユリウスがクォーターであることを見破れる人類種も動物種も居ない。ハーフでさえ珍しい世の中で、クォーターなんか見たことある方がおかしいのだ。見た目だけならば人類種、だがその身体能力の点で、動物種の中でも上位の能力を誇る猫型種族の血を受け継いでいるのがユリウスという青年だった。
「ユリウス・アールスマイヤー准尉、入り・・・・・・・・ます?」
振り上げた拳を軽く握って、手の平方向でノックするのが正式なやり方。
クォーターゆえの気苦労から、かなり神経質にマナーについては学ばされた。だから俺のやり方が間違っていたんじゃない、これは事故としか表現しようが無いし、こんな自体を想定してマナー本を作れるやつが居たら、やってみて欲しい。
「どうしたアーレルスマイヤー憲兵准尉!」
目の前に立って居たのは元憲兵士官学校上席、今の部隊では上官に当たるミント・シルバー憲兵少尉だった。
彼女は完全なる純血の猫種で、ユリウスよりも身体能力に優れ、ユリウスよりも祖先の血を色濃く残している。つまりは猫特有の残忍さと獰猛さを
「あっあのこれは、事故です!」
「ほ~私がこのドアを開けた瞬間に准尉が目の前に来た事が事故なのかな?それとも、君のノックしようとした拳が、私の胸の谷間に収められている今の現状が事故なのかな?」
とっさに嘘だ!とユリウスは言いたくなったが、それは時と場合と場所をわきまえる憲兵としては出来なかった。
武装憲兵隊司令官室の目の前で、お前の胸の何処に谷間があるんだ?と言い返せるわけも無い。
「それで答えは?准尉」
「あっすみません少尉、自分が間違っておりました」
以心伝心とでも言えば良いのか?
さすがに憲兵士官学校で二年間同じ部屋の飯を一緒に食った仲だと、僅かな表情の変化で、なんでもばれてしまう。
きっと彼女はこっちが貧しい胸発言を辛うじて抑えたことに気付いているのだろう。美麗な茶色のショートカットからのぞく猫種特有の三角耳の毛が僅かに逆立っているし、瞳孔が鋭く細くなっている。
常人の相手なら気付かないんだけど、こっちが気付いたとおり、向こうも気付いたって話かな?
「間違っていたのが准尉なら、いつまでも同じ姿勢で居るのは良くない、よくないぞ准尉」
だんだんと怒りのボルテージを上げているミント少尉。彼女もこの司令室前であまり騒ぎは大きくしたくないのだろう。
慌ててノックしてしまった彼女の胸板から、手を引き戻す。
後日、ユリウスは思う、悪い事って言うのは重なるもので、どう注意していようが、悪い事って奴は起きるべくして起きるもんだよなぁと。
ユリウスの戻した手に僅かな感触があり、ミント少尉のブラウスのボタンが同じタイミングではじけとんだ。
彼女の胸がいきなり成長して、その圧力に耐えかねてと言う訳じゃなく、単純にユリウスの手が彼女のボタンを引っ掛けてしまっただけだ。
ふわりと白いブラウスが乱れ、その中では彼女の名前に良く似合う淡いグリーンのブラが、貧しい胸を少しでも助けようと頑張っていた。
「あっ、あの・・・・・・」
「・・・・・・」
「に、似合ってるよ、少尉・・・・・・」
口から言葉が出た瞬間に、これは失敗だと思っても、既に出てしまった言葉は戻せない。「言いたいことはそれだけかぁ~!」
幸いなるかな、彼女のアッパーカットを顎に直撃されながら、彼女がまだ理性を保ち、猫特有の爪を出していないことに感謝する。もし爪が出ていたら、顔の前面に、取り返しのつかない一生物の傷を負うところだった。
自分の胸に張ってある名札を再度確認しても、ユリウスは出来れば回れ右をして、この憲兵隊指令室のドアから出来る限り遠ざかりたいと願う事を押さえられなかったが、そんな事が出来ない事も重々承知しており、渋々ノックする形で腕を振った。
ユリウスと言う名前からも分かるとおり、彼はある古代の英雄の名前を冠しているが、彼自身はジェノバ連合系でも、ローマ生まれでも、ましてやルビコン川と命名された、本物との違いさえ既に分からない、今はほんの数歩で渡れる川を渡った事も無い。
彼にこの名前をつけた親が、人間種で偉くなるならばこの名前しかないと思いつめて命名したのが、ユリウスだった。
しかしながらユリウスは完全な人間種ではなく、猫種と人間種のクォーターである。
元来、人間が自らの奴隷として開発した人間型動物種族には異種族間交配の能力は排除されていたのだが、そこは生命の神秘と言う奴で、何世代も世代を重ねた結果、ユリウスの親の世代では低い確率ながら成功例も出る様になっていた。
ハーフだったのは母親のほうで、小さな頃に漏れ聞いた話では、かなり苦労したらしいが、ドイツに移り住んでから父に出会い、救われたという典型的な寝物語だった。
ぱっと見たところで、ユリウスがクォーターであることを見破れる人類種も動物種も居ない。ハーフでさえ珍しい世の中で、クォーターなんか見たことある方がおかしいのだ。見た目だけならば人類種、だがその身体能力の点で、動物種の中でも上位の能力を誇る猫型種族の血を受け継いでいるのがユリウスという青年だった。
「ユリウス・アールスマイヤー准尉、入り・・・・・・・・ます?」
振り上げた拳を軽く握って、手の平方向でノックするのが正式なやり方。
クォーターゆえの気苦労から、かなり神経質にマナーについては学ばされた。だから俺のやり方が間違っていたんじゃない、これは事故としか表現しようが無いし、こんな自体を想定してマナー本を作れるやつが居たら、やってみて欲しい。
「どうしたアーレルスマイヤー憲兵准尉!」
目の前に立って居たのは元憲兵士官学校上席、今の部隊では上官に当たるミント・シルバー憲兵少尉だった。
彼女は完全なる純血の猫種で、ユリウスよりも身体能力に優れ、ユリウスよりも祖先の血を色濃く残している。つまりは猫特有の残忍さと獰猛さを
「あっあのこれは、事故です!」
「ほ~私がこのドアを開けた瞬間に准尉が目の前に来た事が事故なのかな?それとも、君のノックしようとした拳が、私の胸の谷間に収められている今の現状が事故なのかな?」
とっさに嘘だ!とユリウスは言いたくなったが、それは時と場合と場所をわきまえる憲兵としては出来なかった。
武装憲兵隊司令官室の目の前で、お前の胸の何処に谷間があるんだ?と言い返せるわけも無い。
「それで答えは?准尉」
「あっすみません少尉、自分が間違っておりました」
以心伝心とでも言えば良いのか?
さすがに憲兵士官学校で二年間同じ部屋の飯を一緒に食った仲だと、僅かな表情の変化で、なんでもばれてしまう。
きっと彼女はこっちが貧しい胸発言を辛うじて抑えたことに気付いているのだろう。美麗な茶色のショートカットからのぞく猫種特有の三角耳の毛が僅かに逆立っているし、瞳孔が鋭く細くなっている。
常人の相手なら気付かないんだけど、こっちが気付いたとおり、向こうも気付いたって話かな?
「間違っていたのが准尉なら、いつまでも同じ姿勢で居るのは良くない、よくないぞ准尉」
だんだんと怒りのボルテージを上げているミント少尉。彼女もこの司令室前であまり騒ぎは大きくしたくないのだろう。
慌ててノックしてしまった彼女の胸板から、手を引き戻す。
後日、ユリウスは思う、悪い事って言うのは重なるもので、どう注意していようが、悪い事って奴は起きるべくして起きるもんだよなぁと。
ユリウスの戻した手に僅かな感触があり、ミント少尉のブラウスのボタンが同じタイミングではじけとんだ。
彼女の胸がいきなり成長して、その圧力に耐えかねてと言う訳じゃなく、単純にユリウスの手が彼女のボタンを引っ掛けてしまっただけだ。
ふわりと白いブラウスが乱れ、その中では彼女の名前に良く似合う淡いグリーンのブラが、貧しい胸を少しでも助けようと頑張っていた。
「あっ、あの・・・・・・」
「・・・・・・」
「に、似合ってるよ、少尉・・・・・・」
口から言葉が出た瞬間に、これは失敗だと思っても、既に出てしまった言葉は戻せない。「言いたいことはそれだけかぁ~!」
幸いなるかな、彼女のアッパーカットを顎に直撃されながら、彼女がまだ理性を保ち、猫特有の爪を出していないことに感謝する。もし爪が出ていたら、顔の前面に、取り返しのつかない一生物の傷を負うところだった。
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