110 / 132
時忘れの海
『共鳴反応』と『回帰作用』
しおりを挟む『なるほどね……。だったら、好きになっちゃったほうがお得だ。最初は形だけだったり自己暗示だったりしたとしても、そのうち本当に大切な存在になったり――……あ。気の合う友達から恋人に発展するみたいなことも多そうだね?』
そういった事例も多いじゃろうな。わらわはあの子ら個人の事情に詳しくはないが、比較的聞く話ではあったと思う。
ともかく、『魂の気質』の近い者同士が近くにいることで身体機能の向上が見込め、延いては老化防止にも繋がるということを押さえておけば問題ない。
これらの作用じゃが、長年の研究によってきちんと裏付けも取れておるだけではなく、名称も付けられておる。――――『共鳴反応』と。
『言葉だけはさっき教えてくれてたっけ? めちゃめちゃかっこいいな! ゲームに例えると、同じフィールドにいる間、味方全体に自動付与されるバフみたいなもんかな? ……にしても、そんなチート生物が当たり前に存在する世界、すごくない?』
陸の娯楽はようわからんが、『共鳴反応』の名前を付けた者は老化防止の仕組みの核心にも迫っておったのかもしれんな。
『ああ、そっか。なにも語感やその場のノリだけで名付けたわけじゃないだろうしね。まさか本当に“気質の近い魂同士は共鳴する”のか……?』
そなたもそう考えるか。わらわも単なる比喩ではなく、魂同士が共鳴している可能性はそれなりに高いのではないかと思うておる。
『……考えたんだけどさ、一緒に行動するってことは、訪れる場所が同じってことじゃん。――ってことはだよ? 取り込む水の質も同じになるから、元々似てた魂の気質だけじゃなくて、同じ行動を重ねることで魂の性質まで似てくるんじゃないかな。でも、決定打には欠けるか……。そんな地味な変化を“共鳴”とは言わなそうだ』
いや? そうでもないかもしれぬぞ?
直接的な交わりの有無にかかわらず、互いに魂が近い気質と性質を帯び、なおかつ生まれ持った魂の状態に戻る隙も与えられぬというのであれば、それはなかなかにインパクトのある変化じゃ。
ちなみに、魂が生まれたときの――他の何者の影響も受けていない――状態に戻ろうとすることを回帰作用と呼ぶ。月に一度、魂の純度がリセットされるというあれじゃな。
『へぇ、そこにもちゃんと名前ついてたのか。えーと……。ちょっと待ってね? 魂の純度だけが魂の状態を測る基準ってわけじゃないのに、純度以外の状態も含めてまっさらな状態に戻ろうとする働きを回帰作用って呼ぶの? ……人魚たちもなかなか大雑把だな!?』
まあ、あの子らにとってはそれが当然で、突き詰める必要性を感じんのじゃろう。
『でも、無理もないか……。人間たちが健康に気を遣う理由のひとつは、元々の寿命が人魚たちに比べたら圧倒的に短いせいだ。人魚たちは長すぎる寿命を持て余してる感じだし、できるだけ長生きしたい人魚だって魂の気質が近い人と一緒に行動してれば、自動的に願いは叶っちゃうってことだもんね?』
そうじゃな。共鳴反応の恩恵はあまりに大きい。老化防止にとどまらず身体機能の向上にまで貢献するというのだから、利用しない手はあるまい。
『維持どころか向上にまで…………。ってなると、よっぽどひとりが好きでもない限り、固まって行動するよなぁ……。あの国の王子、マジでかっこいい人魚だったんだな。船大工くんが嫉妬するのもエグいほどわかるわ~……。いや、あっちもあっちで王子だったっけ……』
淡い黄緑色の鱗の――――。あの子の場合、愛しき者と出会ったのも、海の底に招かれた日が近くなったのも、単独行動を好んでおったおかげかもしれぬな。
『……ごめん。“運命的”って言いかけた。本当にごめんなさい……』
構わぬさ。わらわはどちらかというと『宿命的』だと思うたが、あの子らの運命は奇跡という言葉でも言い表せぬほど強く結び付いておった。
もしわらわが人魚であったなら、大勢の人魚たちと同様に気質の似通った者と過ごしながら、己が感情を疑っていたであろうよ。
――――『魂の性質が近い者に抱くこの好意は、自分でも気付かぬうちに作り出されたものではないか?』と。
そのうえ、疑いつつも単独行動には出られんかったじゃろう。思考停止して、おとなしく恩恵を享受しておればよいものを……。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる