誰かが尾鰭をつけたがった話

片喰 一歌

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時忘れの海

『共鳴反応』と『回帰作用』

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『なるほどね……。だったら、好きになっちゃったほうがお得だ。最初は形だけだったり自己暗示だったりしたとしても、そのうち本当に大切な存在になったり――……あ。気の合う友達から恋人に発展するみたいなことも多そうだね?』

 そういった事例も多いじゃろうな。わらわはあの子ら個人の事情に詳しくはないが、比較的聞く話ではあったと思う。

 ともかく、『魂の気質』の近い者同士が近くにいることで身体機能の向上が見込め、延いては老化防止にも繋がるということを押さえておけば問題ない。

 これらの作用じゃが、長年の研究によってきちんと裏付けも取れておるだけではなく、名称も付けられておる。――――『』と。

『言葉だけはさっき教えてくれてたっけ? めちゃめちゃかっこいいな! ゲームに例えると、同じフィールドにいる間、味方全体に自動付与されるバフみたいなもんかな? ……にしても、そんなチート生物が当たり前に存在する世界、すごくない?』

 陸の娯楽はようわからんが、『共鳴反応』の名前を付けた者は老化防止の仕組みの核心にも迫っておったのかもしれんな。

『ああ、そっか。なにも語感やその場のノリだけで名付けたわけじゃないだろうしね。まさか本当に“気質の近い魂同士は共鳴する”のか……?』

 そなたもそう考えるか。わらわも単なる比喩ではなく、魂同士が共鳴している可能性はそれなりに高いのではないかと思うておる。

『……考えたんだけどさ、一緒に行動するってことは、訪れる場所が同じってことじゃん。――ってことはだよ? 取り込む水の質も同じになるから、元々似てた魂の気質だけじゃなくて、同じ行動を重ねることで魂の性質まで似てくるんじゃないかな。でも、決定打には欠けるか……。そんな地味な変化を“共鳴”とは言わなそうだ』

 いや? そうでもないかもしれぬぞ?

 直接的な交わりの有無にかかわらず、互いに魂が近い気質と性質を帯び、なおかつ生まれ持った魂の状態に戻る隙も与えられぬというのであれば、それはなかなかにインパクトのある変化じゃ。

 ちなみに、魂が生まれたときの――他の何者の影響も受けていない――状態に戻ろうとすることをと呼ぶ。月に一度、魂の純度がリセットされるというあれじゃな。

『へぇ、そこにもちゃんと名前ついてたのか。えーと……。ちょっと待ってね? 魂の純度だけが魂の状態を測る基準ってわけじゃないのに、純度以外の状態も含めてまっさらな状態に戻ろうとする働きを回帰作用って呼ぶの? ……人魚たちもなかなか大雑把だな!?』 

 まあ、あの子らにとってはそれが当然で、突き詰める必要性を感じんのじゃろう。
 
『でも、無理もないか……。人間たちが健康に気を遣う理由のひとつは、元々の寿命が人魚たちに比べたら圧倒的に短いせいだ。人魚たちは長すぎる寿命を持て余してる感じだし、できるだけ長生きしたい人魚ひとだって魂の気質が近い人と一緒に行動してれば、自動的に願いは叶っちゃうってことだもんね?』 

 そうじゃな。共鳴反応の恩恵はあまりに大きい。老化防止にとどまらず身体機能の向上にまで貢献するというのだから、利用しない手はあるまい。

『維持どころか向上にまで…………。ってなると、よっぽどひとりが好きでもない限り、固まって行動するよなぁ……。あの国の王子、マジでかっこいい人魚だったんだな。船大工くんが嫉妬するのもエグいほどわかるわ~……。いや、あっちもあっちで王子だったっけ……』

 淡い黄緑色の鱗の――――。あの子の場合、愛しき者と出会ったのも、海の底に招かれた日が近くなったのも、単独行動を好んでおったおかげかもしれぬな。

『……ごめん。“的”って言いかけた。本当にごめんなさい……』

 構わぬさ。わらわはどちらかというと『宿命的』だと思うたが、あの子らの運命は奇跡という言葉でも言い表せぬほど強く結び付いておった。
 
 もしわらわが人魚であったなら、大勢の人魚たちと同様に気質の似通った者と過ごしながら、己が感情を疑っていたであろうよ。

 ――――『魂の性質が近い者に抱くこの好意は、自分でも気付かぬうちに作り出されたものではないか?』と。

 そのうえ、疑いつつも単独行動には出られんかったじゃろう。思考停止して、おとなしく恩恵を享受しておればよいものを……。
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