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時忘れの海
『限りあるを識り、限界を越える者』
しおりを挟む『…………でも、女神様の言ってることわかる気がするよ。やだもん。いくら魂の気質が性格にめちゃめちゃ影響してて、気の合う仲間とつるめて、おまけに元気な状態でいられるんだとしても』
理由は?
『だって、自分で選んだわけじゃないじゃん。その仲間。そういう“元々、決められてたもの”のことだけを“運命”って言う人もいるけど、運命ってそういうのだけじゃないと思うんだ。……自分はさ、たくさんの人と出会って、そのなかから探し出したいんだよ。気の合う仲間を。見つけ出せるまでに何度も傷つけられたり裏切られたりするだろうけど…………』
――――わらわはそなたが傷付く姿なぞ、一度たりとも見たくはないのじゃがな。
『でも、それでも――――……! やっぱり自分から探しに行きたいよ。待ってるなんて嫌だ。できない。誰かもわからない存在に割り当てられた“最適”なんかじゃなくて、自分の思う“最高”の仲間に出会いにいって、その人たちにふさわしい自分になりたい。なったあとは最高の自分で在り続けたいし、命が続く限りは自分史上最高を更新し続けたい。死んでも、死に物狂いで』
…………死んでも?
『うん。だって、肉体はなくなっても魂は残るみたいだし。……生意気だけど、心からそう思ってる。それが“自分の足でこの命を前に、上に運んでいく”ってことなんじゃないかな』
――――そなたの進行方向は、常に前と上だけか?
『もちろん! 危なっかしいって言われるけど、自分は前と上にしか興味ない。……躓いても、後ろから引っ張られても、あっちこっちから石が飛んできても、別にいいんだ。この足は止めない。……そんなことじゃ、自分は止まれない人間だって知ってるし』
そうか。生き急いでおるようでなによりじゃ。
『ははっ! それもよく言われるよ! 女神様がどこを目指してるかはわからないけど、女神様だって、“こっち側”のはずだよ。自分にそのことを教えてくれたのは、あなただよね? ――“生きてるなら、自分の足で命を運べ”って。行き先は自分で決めていいって勝手に受け取ってたんだけど、違ったかな?』
いいや。行き先は各々が好きに決めればよい。心の赴くままでも、呼び声のするほうでも。
『よかった! じゃあ、この先も突っ走るね。生きてる限り、生き急ぐよ。それが自分の生き方だから』
そなたは、魂の気質が近い者同士で行動することを、みなが口を揃えて言う『運命』のようで――――そなたの考える『運命』とは対極に位置する生き方を強いられているようで受け入れがたい、と。
『そう。言ってること自体は女神様とそこまで変わらないよね? “世の中の大多数と運命の定義が違う!”って嘆いてたじゃん』
左様。わらわもおおむね同じ考えじゃが、わらわの言葉は運命の女神としてのもの。世界の内側で足掻く生命ではなく、世界の理の外側。遥か高みから内側を見下ろす者の言葉じゃ。
そなたのように同じ地平に足をつけ、行動を伴わせることのできる人間の言葉としての効力を持つことはない。
『いやいやいや! 今日だけで何回思ったかわかんないけど、女神様は自分のこと買い被りすぎだって!! もしかしたら口だけで、本当の自分はすごくぐうたらで努力なんて大っ嫌いな棚ぼた待ちのどうしようもない人間かもしれないよ? 二度目ましての人間のことなんて、そんな簡単に信用しちゃダメだって!』
――――いいや。知っておるさ。そなたが人の心を掴む弁舌を振るうだけの詐欺師ではないということは。
しかし、そなたの指摘も尤もじゃ。わらわは浸水――……失礼。心酔しておるのかもしれんな。一個人であるそなたに。
『まさかのファン表明? 神様に推される人間に自分がなるなんて予想できなかったよ。ほんと人生なにがあるかわかんないな。だからこそ楽しいんだけどさ……!!』
そなたの笑顔はほんに眩いのぅ。正真正銘、『限りあるを識る』者のものじゃ。
『ありがとう。…………でも、ちょっと違うかも。自分は“限界を越えていく者”だよ。……まぁ、半分以上は願望なんだけど!! もし本当にこんな自分のこと好きでいてくれてるんだったら、帰ったあとも応援してて。限界があることを知ってても、挑み続けるちっぽけな人間のこと!』
うむ。確かに承ったぞ。
そなたであれば、海と陸を本当の意味で繋ぐ橋になることも夢ではないのかもしれぬな。
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