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鶯音を入る
第四十六夜
しおりを挟む「なんで冬? …………あ、『夏は汗掻くからピアス開けるのに向かない』とかでしたっけ? そんな話があったような、なかったような……。でも、そんな先まで待ってられませんよ。私の決意が揺らぐ……って事はないと思いますけど、紅さんもやる気になってくれてますし、ここに道具も揃ってるんですから、先延ばしにする事もないでしょう? さっさと開けて、早くお揃い増やしたいです。…………紅さんは私とお揃いのピアス、着けたいと思ってくれないんですか?」
必要以上に言葉を並べ、考えるための時間を稼いだ。
紅さんは言葉数こそ少ないが、心の中や頭の中ではきっと、表に出る何千倍の言葉を持っていて、様々な理由で胸に秘める事を選ぶ事が多いというだけなのだと思う。
(本当に、私には勿体無い人…………。本当は、もっと確実に幸せにしてくれる人と一緒になるべき人。そんな理由で身を引けたら、私じゃないけど…………敵が多すぎて、どうしたら良いのって途方に暮れてるのは確かで)
覚悟を決めたからといって、敵が消滅する訳ではない。私達のいる場所も、目指す場所までの道中も、敵でいっぱいだ。見えないものからわかりやすく立ちはだかってくる壁まで。
直接的な否定でなくとも、私の親のように『結婚して跡継ぎを作ることを子供の当然の義務として声高らかに主張する人』なども、私……いや、私や紅さんのような人間の敵だと私は思う。
悲劇のヒロインになんて頼まれても望まれても絶対なりたくないが、空笑いが出てくるほど敵だらけな現状を憂うのは当然の事だし、立ち向かうと決めたからと言って、勝算なんていくら考えても見えて来ない。
(……でも、親の妨害なんて怖くない。私は家庭と学校しか世界がなくて、お金もなかった子供じゃないんだから。強がりなんかじゃなく、どこまで追って来ても逃げられる。怖いのは、紅さんがどこかに行っちゃう事……。他の人を選ぶなら良い。紅さんが決めた期間内に十分な利用価値を見せられなかった、私の責任だから。でも、まだ今のうちに尽くせる人事がある。今の私は、紅さんの行きそうな場所をひとつしか知らない)
一時期よりは通う頻度の低くなった店の内装を思い浮かべつつ、思案した。
友達を作るには、好きなものが同じかという観点ではなく、むしろ、嫌いなものが一致しているかどうかという所に注目した方が良いと耳にした事がある。
――――だが、紅さんは友達ではない。
私が彼女に対して最初に持っていたのは、きっと、友愛とシスターフッドを混ぜたような感情で、それらをバラけないように包んでいたのが、下心とか性欲とか呼ばれるようなものだったんじゃないかと思う。
恋愛する相手を選ぶ基準は、友達の見つけ方以上に多岐にわたるだろう。
しかし、こちらは案外、共通点探しというアプローチも有効なのではないかと私は考えている。
例えば、食べ物の好みが同じなら、食事先を決めるのに意見が食い違ったり、片方が我慢を強いられたりという事もないだろうし、性欲のレベルが釣り合っていた方が悲しい擦れ違いを起こさずに済む確率が高くなる――――といった風に。
何が言いたいかと言うと、『同じバーを気に入っていた』という事は、私達の趣味が似通っている事の証拠で、それは同時に、私達の恋人として相性の良さとも換言出来るのではないか……という事だ。
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