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駒繋
第五夜
しおりを挟む(…………ああ、そうなんだ。私が思っている以上に、紅さんは私の一部で……紅さん家は、私の一番の居場所なんだ。勿論、最初からそうだった訳じゃなくて、いつからかそうなってたんだ)
「期限近い食べ物、多い?」
挨拶らしきものをされたのか、されていなかったのかもわからない。
(流石、紅さん。自分の家みたい。……良いなあ、自分の家に紅さんがいるの。紅さんも、私が泊まる日はこんな気持ちなのかな)
彼女が、家主の私を差し置いてすでに廊下を歩き出している事だけが、私の眼前に広がる――私にとっての真実だった。
一般的には推奨されない振る舞いかもしれない。礼を欠いていると非難されてしまう虞もある。
だが、それでこそ、私の愛した彼女ではないか。
この家の主である私が許容しているのだから、彼女はそれで良い。私達はこれで良いのだ。
「少なくはない……かもしれません。面倒臭がりのまとめ買い派なんで、自分でも覚えてない買い物があるかも…………。保存きくものとかは、多めに買っちゃったりしますし。……それで期限切れたら、意味ないのに」
気を取り直して、実家に帰省した私よりも自然体な彼女の問いに答えた。
「意味、なくさないように取りに来たんでしょ」
「そうでした。……でも、一回で持って行けるか怪しいです」
「大丈夫、アタシも半分持つ。そのために来た」
「ありがとうございます。助かります。とりあえず、冷蔵庫からチェックして行きますね。……えーっと、卵卵……」
「……あ、これ。美味しいやつ。翠も好き?」
彼女の家に設置されているものよりもコンパクトな冷蔵庫からお目当ての卵を出し、三パック入りの納豆の残り一パック(※完全に忘れていた。賞味期限は昨日で切れていた。)と、紅さん家の冷蔵庫内で切れかかっているケチャップを小脇に抱えたところで、後ろから声を掛けられた。
「どれですか? …………ああ、そのお素麺。私も好きですよ」
どうやらそれは、ダイニングテーブルの上に放置していた素麺に対してのコメントだったらしい。
彼女は、しゃがんでまで素麺の入った箱をしげしげと眺めている。
(妊娠中って、さっぱりしたものが食べたくなるんだっけ? ……いや、でも、どこかのファストフードのポテトしか受け付けなくなる人もいるんだっけ。じゃあ、元から好きなのかな)
「…………翠に『好き』って言われた」
彼女の素麺好きのルーツに思いを馳せている事など露知らず、両手で頬を覆った彼女のせいで、せっかく取りに来た卵を全部落として割ってしまう所だった。
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