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駒繋
第六夜
しおりを挟む「お――――素麺って、言ってる、じゃないですか」
途切れ途切れの反論は、彼女の言を肯定していると答えているようなものだ。
(紅さんに『好き』って言ってない時ないのに、今更そんな嬉しそうにする? なんか、バカップルみたいで照れる…………。苦手だった筈なのにな。気持ちを出来るだけ言葉にする事とか、恋人とお揃いの物持つとか。それが今はこんなにホイホイ好きって言ってるの、笑える。……あれ、でも……。もしかして殆ど全部、心の中でしか言ってない…………?)
「聞こえてた。……けど、翠はアタシの事も好き。……間違ってない。でしょ?」
彼女にそれが伝わっていない筈がない。
勝気な笑みで女王が王手を掛けた。
「…………いえ、大間違いですよ。紅さん。……まだまだわかってくれてないみたいですね。……というか、上手く伝わってないのかな。いや、私の伝え方が下手とか……。ああ、それだ。絶対そうですね。間違いありません。私は、紅さんの事――――好きは好きですけど、もっとすごいやつです。普通の好きがSサイズだとしたら、私の好きはLサイズよりも大きいです。このお素麺……えっと、何キロだっけ? ちょっと今出て来ないんですけど、これ、相当多いじゃないですか。でも、これの何倍なんだろうって思うような……本当に目を疑うようなサイズも普通に売ってて、買えて…………。検索してみるだけで、馬鹿のサイズって分かって笑えるんですけど、私の『好き』は……紅さんに対する『好き』は、その、見てるだけで笑えて来るサイズのお素麺セットよりも大きいんですよ」
――――が、彼女は少し、私の愛を小さく見積りすぎている。
根拠はないが、なんとなくそう思った。
(絶望的に説明下手だ、私…………)
だから、彼女の誤った認識をどうにかしたくて、今この場にある物でわかりやすく表現しようと思ったまでは良いが、結果は惨敗と見て良いだろう。
「…………って、これじゃ、ますますわかりづらくなってるかも。すみません、もっとシンプルに言い直しますね。……反射で否定しちゃいましたけど、否定までする必要なかったなって、後になって思いましたし。もっと考えてから、発言すべきでしたね」
「そんな風に、言う事ない。翠の言ってる事、アタシには伝わった。翠の言葉からは、伝えたいって気持ちが伝わる。いつも、伝えたい気持ちで一杯。何を言うか、考えてる人の言葉。上手く言ったり、良く聞こえるように言ったりしない。……から、信じられる。たまに、何言ってるかわからないけど」
「紅さん。…………本当に嬉しいんですけど、すみません。それ、私の評価ってより、紅さんの自己紹介って気がします。今のフォローとか、まさに」
「そ? ……これでも、歌手だから。どうしたら届くかは、いつも考えてる。翠に届いてるなら、良かった」
彼女はそう言って、素麺の箱に手を置いた。
歌声を届ける立場の彼女は、生産者や発送者の気持ちを想像しているのだろうか。
「…………やっぱり、好きだなあ」
「好き?」
「はい。好きは好き……なんですけど……紅さんの言った通りなんですけど……一回だけじゃ、足りません」
一束にしておこうと思っていても、アレンジが美味しすぎて追加で茹でてしまう素麺のように、口から零れて行った『好き』は、喉元で待機する次の『好き』を呼び寄せて、止まらなくなる。
今ならば、私も彼女のように、素直な気持ちを伝えられる気がした。
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