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駒繋
第七夜
しおりを挟む「私は、このお素麺が好きです。……でも……紅さんの事は、大好きですよ。好きじゃなくて、大好きです」
しかし、現実は得てして上手く行かないものだ。
気が変わらないうちに素直な気持ちを口にしようと試みた所、開始早々、昔あった引越センターのCMになりかけて、慌てて軌道修正をかけた。
彼女がそれを知っているにせよ、知っていないにせよ、借り物の言葉で愛を語って平気な顔をしていられる程、私は腐ってはいなかった。
「……大好き……」
好きのLサイズを呟いたのち、彼女がすくっと立ち上がった。
「お素麺は?」
「好きですよ。…………あの。すみませんけど、紅さん? 私で遊ぶのは、食材チェックが終わってからにしてもらえますか? まだ冷蔵庫の中身、点検し終わってないんですよ。この後、冷凍庫も見なくちゃいけないし、野菜室もまだなんです。……期限切れかけたり切れてたりして、慌てて冷凍庫に移し替えた伏兵が眠ってるかもしれませんから。――――もしお手隙でしたら、そちらの棚の常温ストックコーナーのチェックをお手伝いいただけますと、非常に助かります。紅さんの後ろの棚、下の引き出し部分は全部常温で長期保存出来る食品入れてるんで。……何でも入れすぎて、ちょっとカオスですけど、こっち終わったら合流しますから、それまでお願い出来たらしたいです」
「ゴメン、翠。好きって言われたみたいに思ったのと、同じの好きってわかって、嬉しくて」
他人行儀な態度が刺さりすぎてしまったらしい。丸めた背中からは哀愁が漂っていた。
「……ああ、そんなに深刻に受け取らなくて大丈夫です。怒ってませんから。私も、紅さんと同じ物が好きだってわかって、めちゃくちゃ嬉しかったですし。お素麺って、贈答用でも地味に種類もありますし、好みも違いますから」
「オソロ、増えてくね」
「…………確かに。こういうのも『増える』ですよね。元から同じ物が好きだったとしても、お互いに『これが好き』って教え合わない事には、気付けない訳ですもんね。私も、紅さんも、それまでと変わらないけど……変わらないままなのに、好きな物が増えてるみたい。ちょっと不思議で、すごく得した気分じゃないですか? …………そっか。無理に新しくお揃い作ろうとしなくても、私達って、すでにいくつもお揃い持ってるかもしれないんですね。それがわかる度に、じわじわ幸せになっていけるんですね」
彼女の何気ない一言で、目から鱗が落ちた。
彼女が、私の思考を、世界を切り拓いていく。彼女の気付きが、私の気付きを起こさせる。
(多分、オイルサーディンが山盛りあったな。期限はまだずっと先だけど、紅さん家にはなかったし、何個か持って行こう。ご飯にもおつまみにも使えて、重宝するし)
鱗繋がりで棚に眠るイワシの群れを連想し、口角が自然と上がった。
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