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薄翅蜉蝣
第四夜
しおりを挟む回数制限無しのリベンジの甲斐あって、彼女の口に食べ物を運ぶのも板に付いてきた頃。
「……思ったんですけど。こんな時間にお酒飲んで、おつまみとコンビニスイーツまで堪能して……。なかなか背徳的な事してますね、私達」
テーブルから落ちそうなスマートフォンを持ち上げたら、ロック画面の時刻表示が目に入って、一気に酔いが醒めた。
「そうかも。でも、今更じゃない?」
確かに出会う前からあのバーで良い時間に飲食を楽しんでいた事だし、知り合ってからも店とこことで同じように過ごしてきた。
変わったのは私達の関係だけだ。
「それはそうなんですけど。改めて見ると、今日はテーブルの上が一段と豪華なので……。いや、豪華になった原因、九割方、私のおつまみ達のせいか…………。作り過ぎましたね。すみません」
少食ではないが大食いとも言えない人間二人分として考えると明らかに多いそれらは、私の浮かれ具合を如実に表していた。
最初から家で飲むだけであれば片付けられない量でもなかったのかもしれないが、胃袋と肝臓には店で飲食した分が蓄積されている。
「そ? 食べた事ないのあるし、楽しいよ。これとか、こないだ『食べたい』って言ってたの、覚えててくれたんじゃない?」
「その通りなんですけど、気付いてもらえるのもそれはそれでなんか恥ずかしいですね……! 気合い入ってる感じで。いや、気合いの割に大した物用意出来てないか。なんか色々めんどくさい奴ですみません」
「こんな時くらい、浮かれちゃお?」
テンションの急降下を察知した彼女は、すかさずカルパスの包装を剥き、私の口に突っ込んだ。
「紅さん。流石にもう……お腹一杯です…………」
『腹八分目にしておこう』という計画は、彼女の前に脆くも崩れ去った。
「食べさせすぎ? 翠、ハムスターみたいで可愛くて。ごめんね」
私(……というのは思い上がりかもしれない)の食事シーンを見るのが好きだという事には薄々勘付いていたが、意を決して視線をテーブルの上から隣の甲斐甲斐しい美女へと移動させてみたら、お酒のせいかぽわんとした笑顔にやられてしまって。
「……ハムスター? 初めて言われました」
ドギマギする胸を押さえ、淡々と聞き返す。
紅さんに飼われるハムスターはさぞかし幸せだろうが、如何せん彼らは短命だ。
人間で……いや、私は私で良かったと幸せを嚙み締めた直後、架空のペット相手に謎のマウントを取ってしまった気がして、妙な敗北感に襲われる。
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