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薄翅蜉蝣
第五夜
しおりを挟む「言われない? リスとかも?」
ハムスターに比べれば圧倒的に寿命の長い動物の名前が挙がり、心を読まれてしまったのかと肩をびくつかせたが、そんな筈はない。
改めてズラリと並んだ料理を見回した。
これだけいながら、円卓の騎士達は誰一人として私の胃袋を守ってはくれなかったらしい。
私がアーサー王ではないからではなく、ただの飲み過ぎによるもの。自業自得だ。
皿の向こうの空き缶の列に新顔を一本加えたが、同じ柄が増えただけで、その光景はイースター島のモアイ像を想起させる。
脈絡のない思考は、一気にグレートブリテン島からイースター島へと飛躍してしまった。
思考自体は元々飛躍していただろうと指摘されれば、ぐうの音も出ないが。
「なかったと思います。紅さんには私が齧歯類に見えてるみたいですね……」
一番大好きな人と最高に幸せな晩酌をしながら、脳内では単身、世界旅行と洒落込むつもりか。
くだらない考えを追い払い、無難なコメントを返した。
どうせならコミュニケーションスキルを上げたいというか、他人との会話で笑いを掻っ攫えるような気の利いた返しが出来るようになりたいものだが、現実は儘ならないものだ。
そうしてまた、缶の中身を確実に減らしていく。
もちろん一◯四三本空けようなんて思ってはいないが。
「ううん。翠は翠。齧歯類も可愛いけど、翠の圧勝」
文章に起こせば一行で済む台詞のうちに、何度私の名前を盛り込むつもりだろう。
あと一回呼ばれたら、嬉しさのあまり何をしでかすかわからない。
「紅さんは、前から私の可愛さを買ってくれてましたけど、なんか……こ……じゃない、今日は甘さが限界突破してません?」
『恋人になってから』と言いかけたが、直前で間違えたフリをして言い換えた。
「『特別』だから?」
案の定、彼女はいつもの調子で軽く答える。
「なんで疑問形なんですか。そこは言い切ってくださいよ」
「翠が言いかけた事、アタシが言っただけ。思ってるだけじゃ、意味ないし。……ね、そろそろしたくない?」
計算か天然か、思わせぶりな誘い文句を発した唇は、これからの予定にそぐわない健康的な色をしていた。
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