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夕顔別当
第二十三夜
しおりを挟むそれからの約一週間は、いやに時間の進みが遅かったが、さっさと彼女にキスしてもらい、補強工事は寝ている間にしてもらう事で事なきを得た。
協力してもらうからには秘密にしておくのもどうか思い、『紅さんにキスされると眠くなってしまう』という説明はした上で。
「アタシ、翠の王子様になれないんだね」
多分、三日目位になって、私を唇で寝かしつける前に彼女がしみじみと呟いた。
「え。王子様?」
唐突に何を言い出すのかと聞き返すと。
「キスで目が覚める話。なかった?」
聞き間違いでもなく、私の思い浮かべた王子とも相違なく、彼女はある御伽噺を思い出したようだった。
「ありますね」
「キスでうとうとさせるって、その逆でしょ。……悪者みたい。魔女とかかな」
健康的な色合いの唇から発せられるオノマトペも、真剣に自分の配置に悩んでいる所も可愛らしいが、御伽噺の魔女なんて醜い姿をしていると相場が決まっているし、紅さんには似つかわしくない。
その上――――。
「でも、私は姫じゃないし。王子にも興味持った事ないですし。魔女……って事は、姫の事良く思ってないでしょうから、キスなんて多分しないでしょうし…………」
「ふふ。変な事言ったのに、真面目に考えてくれてる」
「……っていうか、紅さんは女王様でしょう? その中だったら圧倒的に女王様が良いですし、そうじゃなくても紅さんが好きです。私は。王子になんかなる必要ありません」
照れ隠しのつもりが却って熱の入った告白をしてしまうと、理想の美貌が視界を覆った。
「女王だけ様付けなのも、特別だから?」
「あ! それは完全に無意識でした」
「そっか。…………眠くしちゃって、ホントごめん」
眠りに就く直前に見た彼女は、申し訳なさそうに笑っていた。
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