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お砂糖に熱
しおりを挟む(今回のサプライズ――――兼、短く切りすぎた前髪隠し。というか、前髪隠すほうがぶっちゃけ主目的……。もったいぶるほどのことじゃないけど、一気に子どもっぽくなって恥ずかしいから、まだ見られたくない)
昨日、初めて行った美容室で切られすぎた前髪を少しでも真っ直ぐ長く見せたくて手のひら全体で押さえたが、ヘアアイロンでくるんとセットしているかのごとく浮き上がってしまう。
今は暗いからいいが、局所的な癖毛が憎い。
「……ま、いいか。お前さんも待ちきれねェみたいだ。いいかい? 始めちまっても?」
だんまりを続けていると、根負け――ではなく我慢の限界を迎えただけかもしれない――した彼が肩を撫でてきた。
「うん。ずっと貴方に触ってほしかった……」
「…………煽るのが得意で困るねェ。うちのブラウニーちゃんは……」
左耳に吐息がかかる。もう一度、肩に逞しい腕が回って、抱き寄せられていることに気付いたのは、彼の唇が耳に触れたときだった。
しかし、それも長くは続かない。無尽の愛を注ぐ上のほうがわずかに厚い唇は、すぐに離れていってしまった。
「じゃあ、もっと煽っていい?」
だが、不満を口にするなんて可愛くない真似はしない。
控えめに開かれた両足を跨ぎ、そっと腰を下ろしながら、追い出したそばから募る恋慕を飲み干した。
伝えるまでは、私だけが味わうことを許された極上の想い。煮詰めている最中のカラメルのような甘い眼差しが今日はよく見えないことを残念に思いつつ、当然のように向き合う姿勢を取ったはいいが――。
「……おっと。今日は随分と積極的だなァ。そういう気分かい?」
まだ完全には腰を下ろしていないせいか、飄々とした彼は動じなかった。
「そんな感じ」
「いらっしゃい、可愛いお客人……じゃねェか。いつもの癖で言っちまったが、オレたちにゃあちと他人行儀すぎたな。お嬢さんか。うん、そうだ。お嬢さんがいい。……どうだい? 道化の男の膝の座り心地は?」
逃げ道をなくすための両腕は、まだ拘束というには緩すぎる。筋肉が伝わるほどに強く抱き締めてほしいのに。
「すごくいいけど……。もっとしっかり、くっつきたくない?」
願望は驚くほど流暢に空中へと躍り出た。――足を曲げ伸ばしし、ブランコを大きく漕き出すように。
「もっと強く抱いてよ。……貴方は今、ここにいるんだって……。私を安心させて」
実体はなくとも、確かに私はそれを形にしていく。――小鍋の中で、茶色く色付くまでお砂糖を煮詰めるように。貴方の瞳の色を思い描きながら。
「これしきの触れ方、くっついたうちにゃ入らねェって?」
声から察するに、彼はまだまだ平常心。嬉しそうではあるが、それでは手落ちだ。私は貴方をときめかせたいのだから。
「当然でしょ? 貴方だって、こんなのじゃ満足できないはず……」
抱き込むように太い首に両腕を回し。耳元に唇を寄せ、流し込むは――毒か薬か。
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