三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CXVIII>

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「…………きみってば、甘いにおいさせて、柔らかい身体ぴったりくっつけてきちゃってさ……♡♡ 終わったらやっと生殺しから解放されると思ってたのに、今度は『抱かれたい』なんて言い出してくれちゃって♡ 確かに、俺だって映画観てたときみたいなイチャイチャで終わらせるつもりは最初からなかったよ?♡♡ きみのことおいしく食べちゃおうと思ってた♡♡ だけど、急いだり焦ったりすることじゃないし、一気に進めちゃおうとも思ってなかったけどね♡ でも、さっきからのきみ見てたら、最後までしちゃってもいいんじゃないかって気がしてきて……♡♡」

 言葉を切った彼の口角は上がったままだ。左右対称とは言いがたく、左のほうがやや上にきているように見えた。整ったものが少しだけ歪に形を変えるさまは、どうしてこうも美しいのだろう。わたしは彼の作り出した不穏な美に魅せられていた。

(『最後』…………。彼のがわたしのなかに入ってきてひとつになるところまで……だよね?♡♡ ……やっと今日、わたしは彼のものになれるの……?♡♡)
 
「きみには俺がなにに見えてるかわからないけど、いまの俺、腹ぺこの狼みたいな感じだよ?♡♡」

「狼……? ……君が?」
 
「そう、狼♡♡ 動物あんまり詳しくないけど、人間だってお腹空いてるときって凶暴に……凶暴までいかなかったとしても多少機嫌悪くなったりはするし、お腹ぺこぺこの状態で御馳走出されたら、がっついちゃったするものなんじゃないかな? 我慢の限界で『いただきます』も忘れてがぶっと齧り付いて、お口の周りが汚れてもそのままお腹が膨れるまで食べ続けたりして……♡♡ 食欲が落ち着く頃には、お皿の上はなんにもなくなってるかもしれないね?♡♡」

 話を終えた彼は、たったいま食事を終えたかのように舌なめずりをした。唾液で艶めいた唇から目が離せない。口元ばかり見ていては、わたしの願望きもちが彼にも伝わってしまうのに。

「君もそうなるかも…………ってこと?」

「そういうこと♡ 俺、ずっと抑えてたんだよ?♡♡ そのせいで映画の内容半分くらいしか覚えてない♡♡ 『せい』って言っちゃったけど、きみのせいにしたいわけじゃないよ?♡ きみのかわいいところにいちいち欲情しちゃってる自分の責任♡♡ でも、赤ずきんちゃん…………赤ずきんってよりうさぎかな?♡♡ 子うさぎちゃんは俺に食べられちゃいたいみたいだから、『待て』ができたご褒美も兼ねて、きみのことたくさん舐めさせてよ…………♡」

(趣旨変わっちゃってないかなぁ!?? わたしが保湿サボってないかどうか確かめるみたいな話が、どうしてこんなことになっちゃってるの…………!)

 綺麗な顔が急接近してきて、身体がどんどん後ろに逃げてしまう。
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