三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CLXXVI>

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「あはは♡♡ 信頼されてるってことかな?♡ 確かに、学校にいるときは生徒会長だし、やっぱりそんな肩書きがある以上、他の生徒のお手本になるような行動しないといけないから、できる範囲できっちりするようにはしてるし…………。父さんに仕事教わってるときも、意識して真面目モードに切り替えてるけど、それ以外のときは人の目なんて気にしないで、気ままに過ごしたいなぁって思ってるよ。まぁ、これがなかなか曲者なんどけど……。きみといるときは、唯一、素の自分でいられてる♡ たまに気を抜きすぎてかっこ悪いところ見せちゃったりもしてるかもしれないけど」

 彼は楽しそうな声を上げて笑った。そのあいだ、わたしは笑うたびに少しだけ存在感を増す喉仏から目が離せなかった。

(わたしとふたりのときとみんなの前で違うって自覚あったんだ。……わたしにだけ見せてくれてるんだ)

 目を合わせて笑いかけてくれている彼を見つめる視線に、言葉にならない愛を混ぜ込んだ。彼は気付いてくれるだろうか。

「…………嬉しい♡ 続き、聞いてもいい?♡♡ ノープランならノープランで、きっと『こういうふうに過ごしたいな』みたいなこといっぱい考えてるんだよね?♡ 君がどんな計画立ててくれてるのか想像してるだけでも楽しいけど、わかってたらもっと楽しみになりそう♡」
 
「さすが♡♡ 俺のこと、本当によくわかってくれてるね♡♡ 聞いてくれるなら、いまの時点で考えてること、ざっくり話しちゃおうかな?♡」

 彼は両目を瞑り、にっ、と口角を上げた。
 
「ノープランだから、とりあえず行きたいところまではなるべくひとっ走りで行けるように、ガソリンは満タンにしておいて…………って、これは事前準備か。きみが聞きたいのは当日の予定だよね。えぇっと……。定番すぎて話すまでもないかもしれないんだけど、行き先はあえて決めないで、目に付いた場所寄って、そこでご飯食べたり遊んだりして…………♡ ……ってことは、そっか。カメラも積んでおかないとだね♡♡ 写真もたくさん撮りたいから♡♡ ガソリンよりそっちのほうが忘れそうだから、いまから気を付けておかないと♡ いっそ、車に積んでおく用のカメラ買っちゃってもいいかもね?♡♡」

 ハンドルを切る動作やシャッターを切る動作をまじえて話す彼を、いつまでもいつまでも目に焼き付けておきたいと思った。

 いまわたしが感じている気持ちはきっと、いつも彼が聞かせてくれる気持ちの一端とぴたりと重なるのだろう。

「……思い出は大事だもんね」

 話がすべて終わるまで口を挟むつもりなんてなかったのに、彼の写真、延いては思い出を残すことに対する並々ならぬ思い入れをひしひしと感じたせいか、わたしは静かに何度も頷きながら、返事のようでもあり感想のようでもある言葉をしみじみと呟いていた。
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