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アフター・アフター・レイン・トーク
アフター・アフター・レイン・トーク<CLXXVIII>
しおりを挟む「……眠くないよ?」
本当はまだ少し居残っている眠気を振り払うように首を横に振ったのを、あたかも否定のための仕草のように見せたあと、はっと気付いた。
(…………違う。わたしは『眠くない』んじゃなくて、『このまま寝たくない』んだ…………)
「ほんとに眠くないの?♡♡ 寝ちゃう前のお顔してたように見えたんだけどなぁ♡♡」
彼は顔にかかっていた髪を耳に掛けて、頬をふにふに触ってきた。
そう言った彼も目を細めているけれど、彼のその表情は眠気からくるものというより幸福を映し出しているように思えたのは、自惚れが強すぎるだろうか。
(せっかく目覚めたのに、また眠くなっちゃう…………♡ このまま寝たら、絶対いい夢見られると思うけど……♡ 彼も出てきてくれるかもしれないけど……♡ 起きて、今日こそ君とキス以上のこともする、本物の恋人同士になりたい…………♡♡ いまだって、ちゃんとした……本物の恋人なのはわかってるけど、ひとつになったら、いまより彼と通じ合える気がするの……)
バウンドさせるような優しい触り方と触れる前から空気を通して伝わってくるほどのぬくもりが、去ったばかりの睡魔を呼び戻そうとしてくる。
「どうしてわかったの……?♡ わたしが寝てるところなんて、見たことあった?」
「……ん?♡♡ きみがすやすやしてるところなら、電車とかバスとかでたまに見るよ?♡♡ ほんとにたまにだけどね♡ もしかして、気を遣わせちゃってるのかな? しょっちゅう眠そうにしてるけど、ほんとに寝ちゃうことは滅多にないよね? 俺のことなんて気にしないで、寝たいときは寝ちゃっていいのに♡」
頬に触れていた手は毛先のカールを弄んでいる。
見ていると、彼の指に巻き付けられた髪はすぐにすり抜けてしまうようで、わたしと同じように照れているみたいだった。
「…………肩は借りちゃってるときあるけど、隣に座ってたら、寝顔は見えないよね?」
「いや、それが意外とそうでもなくて♡♡ きみの頭が動かないように支えながら覗き込むと、結構ちゃんと見えるんだよね♡♡ 遠いほうの手でこうやってきみの頭支えて……こんな感じで♡」
軽く実演しながら説明してくれた関係で、綺麗な顔が急接近した。
「えっ、そうなの? 恥ずかしい……!」
「『よだれ垂らしてなかったかな?』とか『変な顔になってなかったかな?』とか心配してる?♡ そんなこと1回もなかったから安心していいよ♡♡ きみはおめめ閉じてても、いつもとおんなじくらいかわいいから♡♡ キスしてるときのお顔に似ててかわいすぎるから、うっかりちゅーしないようにするのが大変だけど♡♡」
再び頬に添えられた手は『キスしたい』の意思表示だろうか。付き合いたての頃を思い出しながら、小さく頷いた。
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