三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
14 / 489
彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<Ⅺ>

しおりを挟む

「俺もきみと一緒がいちばん幸せなのはおんなじだけどさ♡♡ 『バレンタインシーズンの百貨店で、制限なしですきなだけチョコ買えるよ』って言っても、ちっとも贅沢したいと思わないの?♡♡ 食べたいの全部買ってあげるよ?♡」

 直後、にやにやした彼から思わぬ提案がなされ、溢れる寸前だった涙は急速に渇いていった。

「う゛……。でも、バレンタインって、女の子が好きな男の人に気持ちを込めたチョコを贈るイベントだし…………」

 窓華ちゃんと一緒にあれでもないこれでもないとデパートに長時間滞在したのもいい思い出だけれど、甘い匂いに包まれた催事場を彼と見て回るのもとても楽しいに違いない。

「固定観念は一旦置いといてもらって。単純にきみが俺とそういうバレンタインを過ごしたいか過ごしたくないかで考えたら、どう?♡♡」

「……具体的には、どんなスケジュールで考えてるの?♡」

「まず、期間中でなるべく空いてそうな日を選んで、会場に行くでしょ。そしたら、隅々までじっくり見て回って、食べたいなって思ったのは全部買って……。帰ってきたら、お茶会の準備をしよう?♡」

「お茶会?」

 意外な単語が登場して鸚鵡返ししたら、彼がわたしの口元にクッキーを運んできてくれた。
 
 よく見ないで口に入れてしまったけれど、紅茶の香りが鼻に抜けて、先ほどわたしが彼の謝罪いだのと同じものだとわかった。

「うん。買っただけで満足しちゃうのは早いよ。おいしいうちに食べなきゃ♡♡」
 
「…………あ、そっか! 賞味期限はまだまだ先でも、食べたい気持ちが最高潮のときに食べるのがいちばんおいしいもんね? 『特別なときのために』って取っておいても、すぐ忘れちゃうし」
 
「そうそう♡ そういうこと♡♡ だから、お出掛けのあとで疲れてるかもだけど、ちょっと休憩したらすぐ準備に移るの」

 アイディアマンの彼は、ふたりで楽しむことのできるイベントを計画するのが抜群にうまい。

「紅茶もちょっとずついろんな種類のを用意するから、きみはチョコをお皿に並べてほしいなぁ♡ どのチョコとどの紅茶の組み合わせが好きか話し合うのも楽しそうじゃない?♡♡ まぁ、いつもしてることの延長線上って言っちゃえばそうなんだけど…………」

「することは確かにいつもとおんなじだけど、予算が全然違うし、わたし、君と一緒にお茶の準備するの好きだよ?♡」

 滅多に言えない『好き』をここぞとばかりに強調して伝えたあとの口のなかは、ほのかな紅茶の香りと優しいバター、それからとびっきり甘いお砂糖の味で満たされていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...